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私のパンフレットのすみからすみまで、自分の言行だけで埋められるべきだというかのような、
彼(ホームズ)の自負心(エゴティズム)というのもしゃくの種だった。
〈四人の署名/1.推理の科学〉より
阿部知二訳・創元推理文庫
事件にありつけず苛立つホームズに、発行したての「緋色の研究」をことごとく批判されたワトスン。
ホームズを喜ばせる目的で書いた著作の扱いに憤慨したワトスンの独白。
原文は…
I confess, too, that I was irritated by the egotism which seemed to demand that every line of my pamphlet should be devoted to his own special doings.
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「緋色の研究」をはじめ、ワトスンの著作に対してかなりキツい当たりのホームズ。若い頃は特に激しいように思います。
ホームズ側の主張としては、
「ぼくが分析推理を用いて、いかに解決したか」
だけを書けばよい、という点と、
「ロマンティシズムや情は省いてしかるべき」
ということ。
ワトスン側としては、
「目の当たりにしたホームズの推理力に感銘を受けた」ことを描きたくて著作にした。(だから情動も必要)
という点と
「事実ロマンスもあった」
ということ。
言い分は分かります! 分かりますが、作品としてどちらが面白いかと言えば……ねえ……?
案の定、ずーっと後まで、ワトスンに「そんなこと言うなら自分で書け」と言われて、ホームズが書いた著作が「白面の兵士」と「ライオンのたてがみ」
……まあ、あえてツッコミませんが。
ホームズは探偵向き、ワトスンは作家向きということで。
すごいのは、これだけホームズに否定されても、すぐ後にかなりロマンス色の強い「四人の署名」をワトスンがしっかり脱稿しているということ。
自負心の強さは実はどっもどっち?! なのか、あるいはまったく気にしていないのか……。
ワトスン君、強い。
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