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引っ越しと段ボールと肉まん


春から新しい街へ行くので、最近は引っ越し準備に追われている。

地道に貯めていたお金は、その費用で簡単にふっ飛んだ。ドクターストップを無視して、倒れてまでバイトしてこつこつ貯めていたお金。グッバイ。君の運命のひとは僕じゃない。運命であってほしかったぜ、諭吉。

何だかなあ。

通帳とにらめっこして家具を選びながら、ちょっぴり虚しくなっている。ニトリも東京インテリアもイケアも、家具屋さんに行くのは大好きなんだけどなあ。お金の心配なしに好きな家具を選びたい。何なら家具屋デートがしたい。どこかに田中圭似の田中圭、いないかなあ。

段ボールに封をしながら、春からちゃんと生きていけるだろうかと不安になり、泣き出しそうになる。あんまり気づかないようにしているけれど、本当はすごくすごくすごく不安だ。「勝手に実家を出るあなたが悪い」「だめになっても知らないからね」言われたばかりの言葉がぐるぐる脳内を回る。ああ、逃げ場がほしい。安心して帰れる場所がほしい。ああああ不安だぁ。ガムテープべりべりべり。

人間って不平等だなあ。

仕事終わりにケーキを買って帰りたいし、好きな本は手元に欲しいし、好きな映画は劇場で見たいし、たまには美味しいお寿司だって食べたいけれど、そんな生活が、私に出来るだろうか。

片付けと考え事に疲れたので、気分転換にコンビニまで歩いた。野菜ジュースと果汁グミを手に取る。レジ横の誘惑に負けて肉まんを買おうとしたら、丁度切れていて、つい悲しい顔をしてしまった。それを見たおばちゃんの店員さんが、「秘密ね」と言って、ワンランク上の黒豚肉まんをレジ袋に入れてくれた。ええ。そんな。いいんですか。こんなことで幸せになってしまう自分が情けなかった。でも、こんなことで幸せになれる自分は悪くないと思った。

何だかなあ。

半泣きになって、ちょっと豪華な肉まんを頬張りながら帰った。

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夕空しづく/詩人・小説家
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。