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OL小説家の休日日記 2


休日は狂ったように、文章を書いていた。
書けなくなるかもしれない、と怯えて何も書けなくなっていた、平日の分を取り戻すように。

「あなたのやっていることなんて社会の役に立たない、全部無駄」という考えに触れても、「結局大事な人に何も伝わらないのなら、伝えようとすることは無意味」だと思い絶望しても、「書きたい」が消えなかったことに救われた。よかった、と安堵した。私には、大切なものを大切にできる強さがちゃんとあると思えたから。言葉にできないもの、感情、瞬間を、言葉にして伝えようとすることに、価値を見出していたいと気づけたから。

今日はゆっくり起きて、久しぶりに映画を観た。ずっと気になっていた「リリーのすべて」。休日に字幕付きの洋画を観る時間は、人生に不可欠だと思う。仕事のこと、将来のこと、考えなければならないことは沢山あるけれど、今じゃなくてもいいなと思い、ひたすらエディ・レッドメインの美しさに見惚れた。

そのあと洗濯物を干していたら、友達から電話がかかってきた。声が聴きたくなった、と言われ、嬉しくてにやにやしてしまった。社会人になってから、友達と会う時間が減った。約束をしなくても学校に行けば友達と会えた学生時代は幸せだったのだと、今になって思う。けれど、電話をくれたり、会う約束をしてくれたり、離れた場所で頑張っているから私も頑張ろうと思える友達がいることは、とても幸せなことだと思った。それに気づけてよかった。皆、元気かな。

昼過ぎ、文章を書きに行くために外に出た。久しぶりのいい天気で、風は薄い緑色をしていた。時代遅れの型のウォークマンで、米津玄師を聴きながら歩いた。最近好きなのは「シンデレラグレイ」。歌詞を聴いていると、これは私そのものじゃないかと思ってしまうけれど、彼は数多の人間に同じことを思わせているのだから、罪な男だ。全く。

道中、引っ越してきてからずっと気になっていたギャラリーに「OPEN」という看板が出ているのを見つけた。綺麗な英国式庭園の奥にある、どっしりとした洋風の日本家屋。少し勇気が要ったけれど、晴天という後押しもあり、入ってみることにした。
ドアの前に立つと、自然と呼び鈴が鳴ってどきっとした。少し待っていると、中から家主さんが外を見ようとする気配があった。けれど私の姿は見えなかったらしく、「なんだ猫か」という声がした。猫のふりして帰ってしまおうかと思ったけれど、思い切って「ごめんください」と言ったら気づいてもらえた。
「悪いね、バラに隠れて見えなかった」と家主さん。
「いえ」、気にしないでいいにゃんよ。

ギャラリーには、暖色を基調とした風景画が、綺麗な額に入れられて飾ってあった。美術の知識はそこまでないけれど、絵を眺めるのが好きな私にとって、そこはとても居心地の良い空間だった。「絵が好きなんですか」と聞かれ、家主さんと少しお話をした。淡い青色をした抽象画の前で。

「また来ます」と言ってギャラリーを出た。久々にこういう世界に浸れて嬉しかった。緊急事態宣言が明けたら、東京の色んな美術館やギャラリーに行ってみたいな。いつかゴッホの「星降る夜」のような、幻惑的な夜空の絵なんかを部屋に飾れたら素敵だな。

そのあと、すっかり常連になったコメダ珈琲に行った。今日こそシロノワールを食べるぞと思ったのに、結局卵サンドとアイスコーヒーを注文してしまう愚かさを発揮した。いや、愚かではないな。コメダの卵フィリングがおいしいのがいけない。

何を書こうか迷いながら、短歌や詩をいくつか書いた。書きかけの小説に手をつけたり、考え事を文字起こししてみたり、エッセイを書いてみたりした。
これからやりたいことについても考えた。本当は今よりもっと、自分にも人にも優しくできるような仕事がしたい。言葉を使って何かを伝えられることがしたい。素敵だな、と思うことをしている人に話を聞きに行きたい。そのためにはまず、自分のしたいことを言語化しなければならない。ぐるぐるぐるぐる。

頭を使っていたらお腹に余白ができたので、結局シロノワールを注文した。まあいっか。日曜だからカロリーゼロ。それにもうすぐ給料日だし。自分を甘やかそう、さぁいつでも来たれ、期間限定真っ白ノワール。

持ってきたきり一度も開いていない、資格の本を横目に見ながら、明日は月曜かぁ、と思った。

また、忙しい毎日が始まる。残業いやだな、会議も怖いな、企画書を返されるのも怖いなあ。
でも今は、できることを増やすために、目の前のことをひとつひとつこなしていくしかないのかもしれない。

疲れたり泣きたくなったりしたら、少し立ち止まって、こうしてゆっくり、言葉を綴る時間を作ろう。

ひとりで悶々と悩んで苦しくなるくらいなら、言葉にして伝えていよう。誰かに、あるいは、自分自身に届くように。今思っていることを、感じていることを、抱いている夢を。思ってるだけじゃ伝わんないぜ、って、左耳で玄師さんが歌ってるし。

そろそろ夕方だ。
今日の夕空は何色だろうな。

シロノワールが届いたので、今日はこれで。




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夕空しづく/詩人・小説家
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。