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架空のドラマの最終話

ながい夢をみた。

起きたときはまだ余韻のなかで、はやく感想をしたためよう、タイトルはなんだっけとアマプラを開いたところで、夢だったと気がついた。タイトルもサムネイルもどこにもない。わたしの脳内にだけ存在し、今まさに薄れ始めている記憶。架空のドラマ。

夢の中でわたしは、そのドラマを一気見した。全10話。20代〜40代の女性が4人と、男性2人、あとは中学校の同級生と、行きつけのカフェの店員さんが出てきた。

書きながらすでに内容の忘却は始まっており、詳細なあらすじまでは書き記せないが、印象的だった台詞は覚えている。

未婚の20代女性が、数年年上の既婚女性に向かって叫ぶ。


「結婚している立場で、”結婚しなくてもしあわせ”なんてほざかないで」。
「無責任なことばで、わたしの人生を操ろうとしないで」。


その女性は「自己主張」が弱く、常に周囲に翻弄されていた。友人に「服装が子どもっぽい」といじられれば、すぐ変えなければと怯える。付き合っている人がいたが、別の人を強く紹介され、前者との婚約を破棄してしまう。その結果思うように幸福になれず、対して周囲はどんどん”家族”という居場所を見つけていく。彼女は壊れていく。現実逃避のように、若かったころのまぶしい回想がはさまれる。おそらく大学時代の回想。ひかりのなかで彼女は、恋人と笑い合っている。恋人と海の堤防沿いを歩きながら、「来年の今日をどう過ごすか」を話して笑っている。それは、一緒にいられなくなる未来を予想させるには十分な描写だった(この恋人役は、中村倫也さんだった気がする)。

話の後半で、彼女に「別の人」を紹介した女性にフォーカスが当たる。自分の行為により壊れていく彼女に責任を感じ、なんとかしたいと奔走する。その過程で、「軒下に洞窟を見つけ、潜っていく」描写がある。洞窟は奥へ奥へと続いている。家を支えているはずの地面が、こんなに空洞になっていることに彼女は驚く。そしてナレーション。


「本来基盤となるはずの場所が、こんなにも空虚であれば、安定することなどありえない。彼女には自己を支える基盤がないのだ」


では、彼女はどうすればいいのだろう。なにを注いでも満たされないのなら、永遠に救われることはないのか。その答えを待たずにドラマは完結し、私は目を覚ましてしまった。もう続きを観ることはできない。彼女がどう生きてどう死んでいくのか、知るすべはない。創作することはできても、それは事実にはならない。

目を覚まし、だるい身体をそのままに、みてきたばかりの物語を思った。自分の無意識下で生まれた、架空のドラマを思った。架空のドラマの架空の主人公の、架空の人生を思った。

わたしは、彼女の救いになれるだろうか。

書くことで、書き残すことで、彼女に「大丈夫」と言えるだろうか。空洞があっても、埋まらなくても、孤独でもさみしくても今が不幸でも、あなたは絶対大丈夫だと。

ぜんぶの世界線のわたしを救うのがわたしの役目なら、彼女だってきっとわたしだ。救われてほしい。どうか救われていてほしい。

わたしは、今のわたしの人生しか生きられない。だから生きて書こうと思う。ぜんぶのわたしに、大丈夫と言えるように。ぜんぶのわたしを、いつかちゃんと救えるように。


他人の夢の話を、ここまで聞いてくれたあなたに、いいことがありますように。どうか、エクストリームハッピーサンデーライフを。


2024.11.10 夕空しづく


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夕空しづく/詩人・小説家
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