cinderella未遂
泣き出しそうな金曜日
部長に「体調が悪いので早めに帰ります」と言う前に「ごはん連れてってあげる」と言われ断れなかった
きっと美味しいはずなのに味のしないラーメンを「美味しいです」と精一杯の笑顔で啜った
「目腫れてるけどどうしたの」と聞かれたので「昨日逃げ恥を一気見しちゃって」と嘘をついた
本当は深夜3時まで泣いていた
だから頭ががんがんするし店内が水槽越しのように揺らいで見えるなんて言えなかった
1000円のラーメンをご馳走になってしまったからその分楽しい話をしないとと思いありもしないことを面白おかしく喋った
「君面白いね」と部長は笑って「午後からも頑張ろう」と言った
期待するからつらくなるんだと思った
残業があることも満員電車では座れないことも伝えたいことを伝えられないことも
そういうもんだからつらくないつらくないつらくないつらくないつらくないつらくないつらくないもうつらくない
何もつらくなくなる音がした
今ここで発狂したら部長はびっくりするかなと思った
そんなことはもちろんなかった
午後からも柔順に仕事をこなし定時後に始まる会議に参加し雑談の末電車を逃した
ホームの最前列に立って電車が来るのを待った
こんなに人がいるのに私が会いたい人はどこにもいなかった
死にたいと思うことすら虚しくなって
Amazonカートの荷物が明日届くように手配した
帰り道三毛の野良猫に会った
顔見知りの子だった
ひとりなのかにゃん、と聞かれた気がした
ひとりにゃんだよ、と答えたら逃げられてしまった
灯りをつけないまま部屋の床に崩れ落ちた
途端に涙が止まらなくなった
つらくなくなったはずなのにつらくて仕方がなかった
まだ私はつらさに気づいていたいのだと思った
何がつらいのもよくわからなかったけれど
失いたくないものを失いたくないことと
大切なものが大切なことだけはわかった
それだけだった
金曜ロードショーは見逃した
半額のお弁当は美味しくなかった
月は見えなかったけれど
今日もどこかで綺麗に光っていると信じたかった