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蒼色の月 #126 「第三回離婚調停①」
大学入試センター試験の二日前。
焦る私はたまらず夫に電話をした。
お互いに代理人を立ててからの、直接の連絡は基本的にルール違反。
しかし、もうそんなことは言っていられなかった。
二日後にはもうセンター試験なのだ。
進学費用の話合いをしたくて電話したのに、ふざけた調子で夫はこう言った。
「大学に進学していいなんて、言ってない。子供が嘘をついている」と。
「録音…あるからね」
子供達との話合いの時、長男悠真に対して大学進学を認める発言をした夫。
夫は、証拠が無い以上、後からいくらでも知らぬ存ぜぬで、押し通せるとでも思っていたのだろう。
その会話の音源を、持っていると私は言った。
それを聞いた夫は、激怒して電話を切った。
結局、進学費用のことは決着がつかなかった。
そしてそのままセンター試験。
果たして私の精一杯の電話が、夫に効いたのかどうかわからない。
でもやれるだけのことはやった。
やったつもりでいた。
北海道の凍てつく冬。
珍しいほどの猛吹雪の中、本日いよいよ3回目の離婚調停。
この調停で、長男の進学費用を出すのか出さないのか返答をすると言った夫。
果たしてなんと言ってくるのか。
いくらなんでも、今日も欠席ということはないよね…。
もしも、もしも万が一そんなことになったら、きっと私は冷静ではいられない。
後先構わず美加の家に、単身乗り込むしかもう道はない。
裁判所に向かう車中で、一人私はそんなことを考えていた。
私は裁判所に着くと、夫と顔を合わせないように早々に相手方待合室に滑り込んだ。5分ほどすると結城弁護士が来た。
「先生、結局むこうの弁護士さんとは連絡つかなかったんですか?」
「あれから、何度も電話したんですが携帯も固定電話も出ないんですよ」
「そんなことってあるんですか。弁護士さんともあろう人が」
「普通ありません。いくら電話を無視したところで、裁判所には出てこなくちゃならなくて、そこで顔を合わせるわけですからね」
その通りだ。
私はいつでも美加の家に行けるのに、約束の日に逃げた美加のことを思い出した。
「長男の件もご存じなのに、ずいぶんひどい弁護士さんですね」と私。
「このことは裁判所にも報告しました。そしたら、昨日の夕方になって、やっと先方弁護士から電話が来まして、ご長男の進学費用の件について話したんです」
「え?なんて?なんて言ってたんですか?向こうの弁護士は」
「それが、なんだか弁護士自体も要領を得なくて」
「要領を得ない?」
「はい。どうも、先方の弁護士も健太郎さんと、ちゃんと話が出来ていないみたいなんですよね」
「今日は、大事な返事をする日なのに、夫は弁護士さんと打ち合わせをしていないってことですか?」
小心者の私は、調停のたび毎回電話で結城弁護士とどういう風に持っていくのが最善か、打ち合わせをする。
「はっきりは言わないんですが、健太郎さん自体が弁護士の電話に出ないみたいなんですよね」
自分の一番の味方である弁護士の電話に出ないってどういうこと?
「そのへんのとこ突っ込んで聞いたら、あとは明日の調停で本人が話すでしょうからの一点張りで」
「わかりました。でも今日は返事は必ずもらえるんですよね?まさか…また欠席なんてことは…」
「それはもちろん大丈夫です。もしまた出てこずに返事を引き延ばそうものなら、裁判所側も黙っていないはずです」
すでに、無事センター試験は終わり、東京の希望大学への願書提出も済んだ。
一か月後には東京で大学受験。
そしてその一か月後には、もう大学の入学式なのだ。
悠真はすでに、4月から東京に出る気満々でいる。
後残された問題はお金のことだけ。
そしてそれを調達するのは私の役目。
これができなければ、悠真のこの何年間の努力が水の泡になってしまう。
そんなことには絶対にしない。
私がさせない。
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