銭湯のおもいで「レッツ・グルー部」
いつ廃業したのか? 足場が組まれていた銭湯。1度だけ入った大きなおふろ。解体中にのぞきこむ。風がすこしつめたい。
(1570文字)
銭湯スタンプラリー
2018年、もう5年まえ。銭湯30軒まわるスタンプラリー (おおさか湯らり) がありました。
わたしは終了後も「まちの銭湯」をたずねた。
朝のバレエ・レッスン後の習慣。筋肉のリラックスとメンテナンスをかねて。
そのころは14時ぐらいから、まちの銭湯は開いていた。まちもそこで暮らす人たちも、いまより活気があった。
銭湯のある日常
開店前から常連さんが集う。暖簾が上がると同時に人が吸い込まれる。おじいちゃんとおばあちゃん、元気でなにより。
お湯の出る蛇口・カランにお風呂セットをならべ、ささっと入浴、ささっと退場。そんな常連さんの満席御礼。
一回転したあと、貸し切りの浴室でくつろぐ、ぜいたく。
いまやビン入り牛乳やドリンクを飲めるのも銭湯だけだ。
楽々湯さんのおもいで
おもいでの銭湯。偶然に発見した銭湯。楽々湯疲れがとれそう、ラクになれそう、いい屋号。まずは外観を撮ってから入浴。
スマホのカメラを開ける。あら、常連マダムが横から暖簾をくぐる。邪魔になってしまった、すみません。番台で払う入浴料は440円だった。
脱衣所。たくさんの常連さんの湯上がりと笑顔。銭湯は元気だ不調だ、食べ物がと養生訓に、年中花が咲くところ。
わたしは、いつもの風景に安心し服をぬいでロッカーに服を放り込む。
ひとりの服を着たマダムが、わたしに気づき近づいてきた。
「ねぇちゃん写真、撮ってたな」
かんちがいの世話やき
ドキッ、すみませ……わたしの言葉をさえぎるマダム。
「ねぇちゃん、記者かなんか?」
てっきり怒られるかと身構え、ちがいます。
「へぇ、あんた風呂に入るんや」
常連マダムも、かさばる服を脱ぎつつ、わたしの顔をのぞきこむ。
バレエの髪型・おだんごヘアにしていたので、キレイな中年記者に見えたのだろう。
取材と勘違いされたようだ。
「そうなんや、姉ちゃん石鹸とかシャンプウあるんか?」
「ウチらのん、使こうてや」
「洗顔ホームもあるさかいな」
「ボデーシャンプウあるで」
「なくなったら買うさかいな」
「そこの黄色いオケ、勝手に使ってや」
衝撃と笑劇。知らないひとに惜しげなくモノを与える濃いマダムたち。共同でシャンプー類を買って置いてあるそうだ。
レッツ・グルー部、楽々湯。
銭湯めぐりをしていて、こんな親切は、はじめてだった。
どこの銭湯でも「いつもの席がないと落ちつかない」と遠回しに言う常連さんばかりだった。
レッツ・グルー部、マダムたちが言うには……
入浴料を払い、脱衣所だけ入ってドリンク飲んで出る、写真だけ撮って帰る者が多くなっていらしい。
それで「あんた、風呂入るんや」だったのか……
ボデーシャンプゥを、いただいてカラダを洗う。せっかくだから洗顔ホームも。
やっと落ちついて、浴室を見渡した。子ども客のオモチャやバケツも置いてある。
露天風呂の、白くすり減った岩肌。タイルも湯船も使い込まれて丸みをおびていた。
常連マダムの濃さに圧倒されたので、また後日……。
それから、いつの間にか銭湯へ足が遠のいた。密をさけるため、商業施設も休業し、たくさんのお店や銭湯も廃業した。
ひさびさに楽々湯さんの前を通る。だんだんと観光客も戻ってきたのに。聞けば早くに廃業したらしい。
あたりの空気も、うすくなっていた。
濃いマダムたちは、元気だろうか。
レッツ・グルー部……
わたしは、コインパーキングになった楽々湯さんを通りすぎた。
いつも こころに うるおいを
水分補給も わすれずに
さいごまでお読みくださり
ありがとうございます。