僕とオートバイ#1
まるでその乗り物が若さの象徴であったような時代がある。それはきっと遠い遠い過去の話であって、それが忘れられない連中が中年になってから戻ってきたりしてリターンライダーなんて呼ばれている。
僕の周りでは若者もたくさんこの2つの車輪で走る極めて不安定で、快適とは言えない乗り物に夢中になっている。そんな彼らと話す事は僕にとって楽しい時間のひとつだ。
真夏の暑さや熱帯夜など気にもせず出かけて行くバイク乗りは、安全な家の中にこもってゲームや顔の見えない相手と会話している訳でもなく、今、この時間でもあるいは1人で、あるいは誰かと走っていたり会って話をしていたりするのだろう。
外にいて完璧な安全などないし、他人と自分を隔ている精神の壁もネットなどと違い、そこには無いのだから。
昔も今も意見の違いや感覚の違いなんかでぶつかる事もあるだろうし、あるいは転倒や事故で一瞬にして生命を奪われる事もあるだろう。
僕は若い頃からずっと乗り続けている。
なんの自慢にもならないが、事故で死ぬような事もなく今もバイクに跨って外に出かけたりしている。
それでもこれを書いた後、またバイクに乗るから、先の事はわからないよね。
愛車は色々変わって、今はイタリアのモトグッツィ社の1982年製ルマンⅢと、ドイツのBMWR1200GSアドベンチャーに乗っている。
もうそろそろこの二台で終わりにしようかな?
なんて考えるようになった年齢だ。
だってバイクなんて物は生き物みたいで、そいつと気があったら10年なんて一瞬で通り過ぎる事を知っている。
ところで僕のルマンは前の持ち主が健康の問題で10年以上放置しなければならず、僕はそれを引き継いで自分でレストア、つまりは修理したものだ。
錆と埃で朽ち果てそうだったコイツには、このまま終わらせてしまいたくないといった人の願いや想いがたくさん詰まっている。もちろん僕の想いもだ。
バイクに興味がない人には理解し難いだろうけど、言葉にするのは少し恥ずかしくて、でも、好きな人にとっては必ず感じている事柄がたくさんあるんだ。
例えばそれは、風を感じたり、自分の力で遠くまで行く達成感だったりね。
晴れ渡る空が大好きで、どこまでも続く道が大好きで、スロットルを開いてその先にある風景と出会う。
自分がなんの為に産まれて来たのか?
なんてこと多くの人が悩んでいるけれど、僕らは単純にこの瞬間に出会う為に産まれて来たのだ、なんて美しい風景や旅の最中で毎回思うんだよ。
そりゃ、その時そうは思っても、また悩み苦しむ事も多いよ?だけど少なくともそう思える瞬間がたくさんあった方が人生は素晴らしいだろ?
別にたいていはエアコンのきいた快適な車でも行ける所だし、こだわってわざわざバイクで行く必要もないだろ?なんて言われたら返す言葉もないよ。
それは、わざわざ古いバイクを修理して乗り続けるのも同じで、なんで?と問われた所で明確な答えなんかある訳もないさ。
僕流に答えるとしたら、山に登る人もいれば、ロープウェイで頂上を楽しむ人もいるだろ?
どっちも正解で、見れる景色は同じだよ。
高校生が原付で海まで友達と走り、感動を共有したりさ、東海道をひたすら歩いている中高年の夫婦もいるよ。
エッフェル塔を観たい人に、東京タワーの方が高いから凄いだろ?なんて話、誰が興味あるんだい?
荷物を積み込み、旅に出る。
キャンプをしたり、宿に泊まったり、写真を撮ったり、同じライダーと出会い話しをしたり。
そこに自販機でもあれば最高だよ、缶コーヒーでも買って今日はどこに行くのか?とか、お互いのバイクを肴に話が盛り上がったり。
たまに初対面から気の合わない人もいるだろう。
教えたがりのおじさんや、自分の乗っている車種や好きなバイクにしか興味がなくて、ついつい押しつけてきたりさ。
そんな人も大抵は悪気なんかなくて、本当は友達になりたいだけで、自分の知っている世界の言葉しか話せないだけなんだと思うと少し優しくなれる。
新しい最新の高性能が大好きな人、ハーレーダビッドソンが至上だと思う人、ライディング技術を突き詰める人、小さな排気量が最高だと思う人、古いバイクの味が大好きな人、レースをやりたい人、オフロードが好きな人。
みんな全部同じ事なのに、何故か揉めたりもする。
怒ってたり、馬鹿にしていたりとにかく忙しい人も多いよね?
男でも女でも、歳とっていても若くても実はまったく似たような諍いがあるよ。
僕はそんなこだわる人や、押し付けてくるような話をする人も大好きだよ。
そんな人程、実は楽しい話が出来る人だったりもするのさ。
最近は、他人の評価が気になったり、自分の価値観を大声で話すと大変な事になったりするから、みんな黙っているけど、その人が愛している物を堰を切ったように話しはじめた瞬間の顔はみんな笑顔さ。
だから僕に出会ったら、好きで好きでたまらない自分の愛するバイクの話でもしてくれないか?
押し付けだって構わないし、遠慮なんかいらないよ。
僕とは考えが違っても構わないし、だからって僕は君を嫌いになんか少しもならないからさ。
それじゃあまた、何処かで会ったら缶コーヒーでも飲もうよ。
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