へらへらしてるんじゃない。笑ってないと苦しくて逃げ出してしまいそうなんだ
個室で、小さなベッドに横になって天井を見上げている。
はじめての手術を体験して、
「お疲れ様でした。横になってお休みください」と言われてお休み中だ。
なんでこんなとこにいるんだっけ?と
ぼんやり思う。
そうだ、自分で決めた手術だ。
それでも、なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだという思いもなくはない。
変なピンクの膝下スリッポンを着せられて、
頭には不織布キャップ。
真っ白な天井と、
人の気配が感じられないフロア。
開閉の自動ドアの音が、他と違う奥の部屋が開くときにだけ、慌ただしさと緊張感が流れ出す。
並んだ個室、順番に看護師さんが声を掛けて
自動ドアの奥に招かれる。
一人終わり、二人終わり、三人、四人目順番がきた。
痛み止めを打ったから、
気分は変わりないかと聞かれる。
大丈夫ですと答える。
自動ドアの、前に連れて行かれ
名前を確認される。その間に、
自動ドアの、更に奥の自動ドアが開くのがみえた。
薄暗い手術室。
真ん中に置かれた手術台。
白やピンクの処置着で不織布キャップを被った看護師さんが2、3人慌ただしく動いている。
はじめて見る手術室は、異様だ。
手術というより、人体実験が始まりそうな雰囲気だ。
名前の確認が終わって、手を引かれて手術台よ横に連れて行かれる。
スリッパを脱いで、手術台に腰掛ける。
台にのり、拘束具で両脚をしっかりと固定される。全身に緊張が走る。肩に力が入って、横たわったはずなのに身体が浮き上がりそうになる。
「大丈夫ですよ、私の手をしっかり握れますか」
手術台の奥側にいた看護師さんが、私の左手を握っていて、ういた肩をさすって手術台に戻している。
なにこれ!やっぱり人体実験みたい!
怖いこわいコワイ!
マスクで表情はわからない。
薄暗い天井と、手を握ってる看護師さん。
どちらに視線を合わせていいのかも分からない。
「力を抜いてください、大丈夫ですよ」
なんども声がけされる。
力を抜くための力をどこに入れたらいいのか
パニックになる。
深呼吸、そうきっとこういうときは深呼吸!
深呼吸をする。
吸うのが先だっけ?
吐くのが先だっけ?
手を握っている看護婦さん、
どこ見てるの?私?
私はどこ見たらいいの⁉︎
天井と、看護婦さんと、目をつぶって深呼吸を繰り返す。
「大丈夫ですよ、力を抜いてください」
もう何度目かの呼びかけに、
ヘラヘラ笑い出してしまった。
内臓の深部を鋭利なものが
刺さる感じに、自分がどのくらい痛いのかすらわからない。
痛いのは、私だけ?
いや、そうでもないのかな?
わからなすぎて、笑い出してしまう。
きっと、こんなとき笑うなんておかしいに違いない。
だって、痛いし怖いし、不安なんだもん。
でも私は笑い続ける。
「大丈夫ですよ、大丈夫ですよ」
と言われ続けながら。
「いま、針は刺さっていないので、力抜いてくださいね」
この言葉で吹き出した。
私は一体何に痛がっているんだ?
自分の行動の滑稽さに、
笑いが止まらなくなった。
笑うと力が抜けるという。
精神状態の不安定。
笑いたくて笑ってるんじゃない。
ヘラヘラしてるように見えていても、
私は私の中のいろんな感情と戦っていた。
そうしてないと、泣きながら逃げ出してしまいそうなくらい、怖かったんだ。
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