ノンフィクション『シャインの見つめている未来、その先にいるあなたへ届け』
「EP1 シャインの横顔」
シャインは、とある地方都市に暮らす勤労学生。もちろん仮名だ。本人の希望により「本名はNGで。名前はShizukaさんが付けてください」と。いろいろ考えたが、この名前以外は思いつかなかった。彼女は類まれな容姿を持って生まれた、笑った顔がキラキラと輝いている少女なのだから。
……と、こんな書き出しをどうか許してほしい。本当はこんな書き方をしたくないし、きっと本人も望んではいない。数回会っただけでは、計り知れないものを隠している17歳。1週間考えたけど、書き出しは他に思いつかなかった。ただ、知れば知るほど彼女を好きになる。その見た目やコミュニケーション能力から想像できない「芯」がある。それがなんなのか、彼女を語るうえで見過ごしてはいけない部分だろう。
ペットはオスの10歳。ママと一緒に写っている写真を見せてくれた。女二人暮らしの侘しさを知ってる身としては、おじいちゃんワンちゃんの存在に救われたような気がした。
「10年後までは、もう決めている」
……質問は「進路はどうするか?」だったんだけどな、、、あれ、ちょっと噛み合わない?と不思議に思う。決して頭の回転は悪くない。初対面で勝手に大学生だと思ったくらい、見た目も中身も大人びているのだ。……決めている、とは?
「国家資格の取れる専門学校に行って、インターンしながら勉強を続けて、卒業後はこんな仕事をして、数年後にはここでこんな仕事をしている。並行して役者も続けられたらいいなと」
週の半分位はアルバイトしながら、高校に通っている。そして推し活で、たまに上京する。好きなものは芝居。忙しすぎる日々を送りながら考える進路は、収入に結び付けられる資格と、自分の夢を融合した10年先までをスケジュールリングしているのだという。
……普通に女優として有名になってお金をガッポガッポ稼ぎたいっす!……って言ってもらえたら、気が楽だったのにな、と大人は愕然とする。今の子ってみんなこうなの?いやきっと違う。シャインにはそう考えなければいけない人生があって、この先の、きっと10年以上先の未来も考えてる。その理由を突き止めるのが怖い。心底迷う。そしてそれを上手く隠そうとする、フルメイクで隙のないシャインの綺麗な横顔。この顔は話したいけど迷ってるのだ、と信じて尋ねる。
もうインタビューは始まっている、ここで中途半端に終わらせるわけにはいかない。
ーーーーお父さんは?
「EP2 視線の先にある現実」
「いつかは会って、、、みたいです。きっと向こうには兄弟とかもいて、、、話して、、、みたいなとも思います」
無性に腹が立った。こんなこと言わせる自分を含めた大人全員、処刑されるなら一番残酷な方法でお願いしたい。いつも笑っている、そして周りも笑わせてしまうおどけた部分をみせる。そしてその容姿は、分かりやすく【ハーフ】である。黙っていれば近寄りがたい雰囲気の顔立ちに似合わぬ言動や、親しみやすいキャラクターで周りを明るく照らす人。そんな彼女に寂しそうな顔をさせてしまった、もう後戻りはできないと覚悟を決める。
ーーーーいつか自分の芝居を観てほしい?もしかしてそのために芝居してるとか?
「それは、ないです。でももしチャンスがあれば、観てほしいかな、、、いや、でも、、、」
たまに見せる、不器用で小心者の横顔。まだ17歳、いやもう17歳。きっとその心の中にある「答え」は確定じゃない。これからいくらでも考えは変わるだろう。でも伝わってくるのは、この子が見ているのは、生まれる前の過去ではないってことだ。
ーーーー10年先までの未来を決めているのは、ママのことを考えてるから?
「そうですね。専門学校では、勉強しながら働けるので、経験も積めるし。その後自分のやりたい仕事に就くために一番いい方法かなと。私は国家資格が欲しいんです」
いつでもママを養えるように?とは聞けなかった。でも聞かずとも分かる。17歳の欲しいものが、国家資格だなんてちゃんちゃらオカシイ。おかしいと思っても、それをこの少女に突きつけることはできない。なぜならこの子は覚悟してるのだ。そのうえで、それを言うのだ。いつその日が来ても、何があっても大丈夫なように「保険が国家資格」なのだと。
これ以上は聞けなかった。そして書けなくなった。だから、会いにいくことにした。シャインはまだまだ全部の顔を見せてくれていないのだから。中途半端に彼女を語ることは許されない。面白おかしく軽々しく文字にすることは、出来ない。
舞台の真ん中に立って、ピンスポットを浴びるシャイン
……文字通り光輝く人。太陽という名前以外は似合わない。思った通りだった。出演者30名以上もいる中で、ただ一人ヒールを演じていた。そして物語のキーであり、大事なシーンを任されていた。声の出し方も、抑揚も見たことがない「完全な別人」だった。舞台おわりのシャインに、聞かずにはいられなかった。
ーーーーあれが地?それともめちゃくちゃに役作りして?
「ほぼ、アテガキでした。だからきっと」
アテガキは、脚本家が役者に合わせて役を作り書くこと。完全に騙されていた。これがひた隠しにしているシャインの「本当の顔」なんだ。新幹線でやってきた甲斐があった。
たいした役者だと思った。数十本×ウン十年いろんな芝居を観てきた。いろんな役者を知っている。その自分が、彼女の演技を見抜けていなかったのだから。言うほど小心者でも、不器用でもない。舞台上での芝居を緻密に計算して、でも年齢相応の初々しさもあり、そして誰よりも舞台度胸がある。少しぎこちなさの目立った部分についてツッコむと、
「ゲネまで出来なかったんですよね。でも本番でやれちゃいました」
あぁ、そういう子だ。出たとこ勝負で、いつも「今」と「未来」しかみていないんだ。芯がある、どころの騒ぎじゃなかった。折れないダイヤモンド級のハートを持っていた。だからきっと恐れていないんだ。舞台に立つことも、不安な未来に立ち向かっていくことも。
そして一人でシャインを育ててきた人は、もっとカッコ良くて優しく強い人だった。
「今回のはまだ観てないんですよ、でもお話をきいて楽しみになりました」
もちろんシャインの芝居のことだ。可愛い娘を懸命に、一人で育ててきたとは思えない「普通の」優しい母の顔。笑顔が板についていて、温かい人柄なのは、会っただけで分かる。愛情深い人だ。シャインを心の底から大事に、大事に、大事に育ててきた。シャインが自分の未来図のすぐ傍に、寄り添っている人。
こんな人になりたかった。こんなシャインのママになりたかった。心の底から羨ましい。……恨めしいまである。人生は不公平で残酷で嘘つきだ。やり直しがきかないこともあると思い知らされる。新幹線でやってきたこと、それだけの価値はあった。後悔はない。ただ。
宿泊するホテルまで送っていただき、ママの運転する車に向かって「シャインを産み育ててくれてありがとう」と叫んだ。心からの敬意と感謝を込めて。……もちろん心の中で。ありったけの大声で。
「EP3 有言実行の夏、18歳になったシャイン」
宣言通り、第一志望の専門学校の入学内定を手にしていた。しかも特待生としての試験も受けたというから、彼女の本気が伝わってくる。ねぇ、無理してないの?バイトしながら学校に通う大先輩はここにいる。いくら若いといっても、心身ともに大変なことは分かってる。楽しい盛りの18歳の夏は目の前じゃないか。今の子は「LJK」とかいうんでしょ?ラストジェーケー、後悔しないように青春を謳歌してほしい。
……という余計なお節介に、シャインはなんと答えるだろうか。
「楽しんでません!たぶん!!笑」
今もバイトしながら勉強している。それをSNSで知っている。分かってて聞いた。そうだろうと思っていた。思った通りだったけど、救われたのは次の文字。
「でも中学の同級生たちと、大学受験おわったら遊びに行こうって話してて、、、でもたぶん4月以降かな」
リアルな友達を作るのが苦手な印象だった。生まれた時から携帯もネットもあったからなのか、SNSが生活の中心にある現代っ子。連絡が取りたいときには、SNSに業務連絡が必要な子なのだ。(LINEみて!返事くれ!的な)
そんなシャインが、リアルの友達と来年の約束をしている。良かった、どうかその約束が果たされる日も、笑っていてほしい。
※ここに赤が入った。まぁそのまま直すなんてことはしないんだよね、ゴメンね、そういう大人で。まぁイチミリも悪いと思ってないんだけどね。
訂正箇所(原文ママ)
『しずかさん!訂正!なんて言ったらいいかわかりました!
楽しんでませんじゃないや、楽しんでます✌
「楽しんでないことを楽しんでます」です、私は。
変な子っ👼💫』
変じゃないよ。別に普通。だれもが「LJKの今、人生最高」って訳じゃないということだろう。シャインの人生最良の時は、これからくるんだろう。あぁ楽しみだ。あなたの人生最良の日まで長生きできますように、と願ったら仕事中なのに泣けてきた。
「Next 一緒にアメリカに行く。約束だよ」
何度目かのインタビューが終わった時、シャインに聞いた。彼女との会話はすべて私の頭の中に記録して、いつでも書くと言ってある。ダメならちゃんとNGを出すように何度も繰り返し言ってある。それでも不安になってしまうのは、このことに関しては年相応の【揺れ】を見せるからだ。
ーーーーいつか、パパに会いに行くんだよね?その時は一緒にいくから。
「はい!一緒に行ってくれるんですか?」
ーーーーあたりまえじゃん。ていうか英語は大丈夫なの?
「全然大丈夫じゃないです、、、苦手で」
学校の成績は良い。頭の回転も良いし、相手への配慮も出来る。会話をするにも、人間関係を築くのも問題ない。苦手なのは能力じゃなくて、ただの苦手意識。やろうと思ってできないことは、この子にはないと確信している。だからあえて冷たく厳しく言い捨てることにしている。自分にそんな資格はあるのか、いやきっとないんだけど。それでも彼女の進もうとしている道よりは優しい、と自分を鼓舞する。私は誰よりもシャインの幸せしか望んでいないのだから。
ーーーーあんたの思いを伝える手段はそれしかないんだから、言いたいことと伝えたいことを思う存分ぶつけられるように、英語くらい喋れるようになっときな。
「……はい!Shizukaさんが一緒に行ってくれるなら、頑張れます……」
言質いただきました。私もシャインと一緒に頑張るよ。まぁ50歳目前に今更英語なんか無理だから、リアルタイムで翻訳できるアプリでも作るか探すかしておく。来年かな、再来年でもいい。パスポートは期限が切れないうちに更新しておこう。いつ「成田集合」と言われても大丈夫なように。
このストーリーは続きます。今はここまで。
シャイン18歳。いったん彼女のストーリーは「完」となる。でも私はインタビューを始める前に、こう言っている。それは嘘偽りなく、本心しかないし、今もそう思って生きている。書いている。書き続ける。そう、それが私が書く理由なのだから。
『シャインの人生を、痛みを、成功を、喜びをずっと追っかけて書くけど良い?まぁダメとか言われても諦めるかは分からないけどね。それだけの価値があると思っているし、いつか、あなたの思いを「伝えたい人に届けたい」っていう野望を持っているから。そのつもりで聴くし書くけど、覚悟は良いですか?』
17歳の高校生相手になに言ってんだか。まぁ各方面の批判とか叱咤は、私も覚悟している。それでも書く。シャインの本当の姿、本当の思いが、本当の心を文字にして発信することが、私の使命と信じて。
シャインへ……どうか人生で一番楽しい季節を楽しめ!
恋のひとつやふたつして、カッコイイ大人になれ!恋なんか、辛く悲しいこともあるし、嫉妬する自分を嫌いになったりするかも知れない。でも好きな人がいるという「人生の素晴らしさ」を知って欲しい。好きな人に愛されるという奇跡が、この世にはあるということを。
……というお節介なことをつい電話口から伝えてしまうくらいには、あなたの人生をこれからも見続けて書き続ける。覚悟よろしく。