勝手に映画評 1 女の自我の昇華とはー クズがクズを呼ぶ愛憎の宴、『彼女がその名を知らない鳥たち』 考
長きにわたってnoteの更新をサボっていましたが、今日から映画評という形式で書いて行きたいと思います。
第1回目は以前から観たいと思っていた白石和彌監督『彼女がその名を知らない鳥たち』。
ようやくWOWWOWにて観ることができました。
白石作品は『虎狼の血』、『止められるか俺たちを』に続き3作品目の鑑賞。
初期作品は未見ですが、インディーズ映画にある監督さんの「傾向」みたいなものは感じませんでした。ところどころ工夫の感じられる演出があり、安定した実力の持ち主といったところなのでしょうか。
誰にも共感できない、の声が多数でしたが、観終わってからの感想は「わかるわー」って感じ。
そんな自分はメンヘラなのか?
というツッコミはさておき感想。
まず、主人公の十和子演じる蒼井優。
蒼井さんは、憑依系、大竹しのぶの再来と言われて久しいですが、この人はやはりプロの芝居屋だと思いました。
普段はクレーマーの嫌な女全開ながらも、3人の男の前では、惜しげもなく脱ぎ、喘ぎ、絡む。
このフィット感が恋愛依存症ってか、男バキュームカー感満載で凄い!
クレーマーとして店をなじり、同居人の冴えない男陣二をなじり、一方で、他の男(とのセックス)には従順な主人公を見事に演じ切っています。
そしてクズ男2人、かつての交際相手の黒崎演じる竹野内豊と現在の交際相手の妻子持ちの水島演じる松坂桃李。
これがまた、こんないい男だったら何言われても、何されてもいいよね、と思わせる。
不倫する男の奥さんは男の母で、不倫相手は単なる公衆便所、というお決まりの構図の中で、後者は桃李氏のセリフにあるような砂漠の中のオアシスよろしく、実に潤いをもって描かれます。
「女って子供産むと何であんなにカサカサしちゃうんだろう」
キスをする時に「あーっ」と言って、という彼は完全に女子の弛緩ポイントを的確に突く訳です。そして、その後のずぶずぶ感は見事。
物語後半、同居人陣治の愛とクズ男二人の欺瞞が暴かれますが、これでまた嫌な気持ちになるのかと思いきや、画面には透明感が増して行く、、
この映画は良く観ると、「母」がキーワードになっています。
しかしながら、陣二は精子がない、姉の夫も浮気して家に帰って来ない、ということに象徴されるように、完全なる家族は出てこない。
そしてリアルな「母」も登場しない。
中央にある柱のような「母」なる空洞の周りで
絡み合う男女、そして新たな生への希望を予期させるラスト。
空高く飛ぶ鳥の向かう先はー
あなたはこれを愛と呼べるか、というキャッチは、歯ごたえのあるコシヒカリをおじいちゃんおばあちゃん用にお粥にしちゃった気ます。
敢えて言うなら「これこそが愛です」、と。
三島由紀夫と石原慎太郎が「愛とは何か?」と問われて、同時に「自己犠牲」と回答した逸話を思い出しました。
自らも事業に失敗し出家して御年70歳の沼田まほかる先生が、「ここまで泥水啜ってこそ愛だよ」「母になることでしか女の自我は昇華できない」と教えてくださっているように感じました。
毎日目標はないけど、男子はちょいちょい摘みたいんですぅ、みたいな女子にオススメです。
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