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密着ドキュメンタリー公開――村本大輔さんインタビュー

週刊エコノミスト 2024年7月9日号

コメディアン 村本大輔

 お笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔さんに密着したドキュメンタリー映画「アイアム・ア・コメディアン」(日向史有監督)が7月6日に公開される。今年2月から米国に拠点を移している村本さんに現在の思いを聞いた。
(聞き手=井上志津・ライター)

「米国のスタンドアップこそ『芸人』だと思った」


── スタンドアップコメディーを追求する村本さんに3年間密着したドキュメンタリー映画「アイアム・ア・コメディアン」が7月6日に公開されます。作品を見ての感想は?

村本 恥ずかしかったですね。普段見られることのない舞台裏を見られて。撮影中は新型コロナウイルス禍の時期だったのでコロコロに太っていますし。近しい人からは、僕が美化されすぎているという批判が来ています。

── 今年2月からニューヨークに移住し、本場でスタンドアップコメディーの修業をしています。今はどんな生活ですか。

村本 朝は7時に起きます。今は語学学校に通っていないし、仕事もしていないから、早起きしなかったら罪悪感しか残りませんからね。それでジムへ行って、サウナでブツブツ言いながらネタを覚え、買い物してご飯を作って、ネタの練習をして、夕方になったらオープンマイクに参加しています。

── 英語のネタはどう作るのですか。

村本 まず日本語でネタを作り、(生成AI〈人工知能〉の)チャットGPTに送って英語にして、それを覚えてオープンマイクで披露します。そうすると、他の出演者が「この単語はいらないよ」と助言してくれたりします。チャットGPTって、論文みたいに結構文字数が多くなるんですよ。近所のワインバーのバーテンダーにも、いつもネタができたら見せて、発音を直してもらっています。

── お客さんの反応は?

村本 面白くなかったら全然笑わないから、僕も焦ってきて、アルファベットが頭の中でバラバラバラって空中分解する時があります。でも、終わったら「お前、勇気あるな」って背中をさすってくれたり、声をかけてくれたり、みんなで一緒にお酒飲んだりして、またネタを作って朝を迎える感じです。3月には、友人のコメディアンに誘われてよく知らないまま採点をされるライブに出て、優勝して賞金をもらいましたよ。アジア人とか何人とかは関係なく、面白いか、そうではないかの基準で素直に見てくれる印象です。

マイク1本で観客を大爆笑

 スタンドアップコメディーは、コメディアンが1人でステージに立ち、マイク1本で観客の笑いを取る欧米の話芸のスタイル。さまざまな社会問題や政治、宗教などについて風刺や皮肉を織り交ぜて語るのが特徴だ。村本さんは2017年からロサンゼルスやテキサス州、ニューヨークなどを短期で訪れ、語学学校に通ったり、バーで飛び入りの客が店のマイクを使ってネタを披露できる「オープンマイク」に参加したりしてきた。 中川パラダイスさんと組んだ漫才コンビ「ウーマンラッシュアワー」や1人のタレントとして、日本のテレビ番組などで活躍していた村本さん。21年12月にフジテレビ系「THE MANZAI 2021 マスターズ」やX(旧ツイッター)で「来年の3月にニューヨークに移住します」と宣言した。しかし、アーティストビザの申請に時間がかかり、昨秋ようやく取得し、今年2月に出発した。

── スタンドアップコメディーにひかれたきっかけは?

村本 ある人からアメリカのコメディアン、ジョージ・カーリンを教えてもらい、スタンドアップコメディーを見るようになりました。アメリカの人種差別問題や宗教問題、すごく難しい、ややこしいテーマで大爆笑を取っていて、カッコよかった。これこそが芸人だなと思ったんです。

── 英語は上達しましたか。

村本 大苦戦ですね。この間、speer(運転する)という単語を使ったんですが、まったく伝わりませんでした。でも、一生懸命話していると聞いてくれます。ヤジも日常茶飯事ですけどね。

── 生活費はどうしているのですか。

村本 アメリカに行くために貯金していましたから、それを切り崩しています。もう節約、節約ですよ。大根を煮て、それをずっと食べています。

── 日本で多くの舞台をこなし、ファンもいるのをいったんゼロにして、アメリカでチャレンジすることにした理由は何ですか。

村本 僕は今43歳ですが、お笑いをやってもう20年以上ですから、技術力はあるし、これからももっと上がっていくと思うんです。でも、技術力よりも僕は自分の考え方の幹の部分、その根っこのある土を耕したいと思いました。そのためにはこれまで培ったものをいったん壊した方が、新しいものが出てきそうな感じがするんですよね。60歳になった時、このまま日本にいた時の自分と、いったんこっちでいろいろ壊した自分では、作るものがだいぶ変わってくると思うので、そこに期待してこの国に来ました。

「テレビから消えた男」

── 映画のキャッチコピーが「テレビから消えた男」となっています。

村本 映画の中で僕のテレビ番組の出演本数が「2016年250本、20年1本」と数字が出ていて、面白かったです。自分では興味がなかったし、特に確認しませんから。データ化されているのを見て、「確かにこんな芸人おらんな。独特、オリジナルだな、こいつ」って思いました。

──テレビ局には実際に村本さんを敬遠する雰囲気はあったのですか。


村本 僕はテレビマンではないから、僕が使いにくい存在かどうかというのはよく分かりません。でも、自分がせっかく考えて作ったネタが、局の人の「ちょっとこれカットして」の鶴の一声で消されてしまうことに対して、僕のネタはただの消耗品ではない、そんな場所に自分のネタをささげたくないなと思いました。舞台ではマイクの前で自由にしゃべれますから、自然と舞台が多くなりました。

「『安心して見ていられる』と言われたら芸人として死んだも同然。自分の言いたいことで笑わせたい」


 福井県出身の村本さん。吉本興業の養成所NSC(吉本総合芸能学院)を卒業後、漫才コンビの結成・解散を繰り返す中、NSCで1期後輩の中川パラダイスさんと08年にウーマンラッシュアワーを結成し、早口でまくしたてる村本さんのボケと、中川パラダイスさんの適度なツッコミで人気を集める。13年には「NHK上方漫才コンテスト」や「THE MANZAI」で優勝し、テレビ番組に引っ張りだことなった。

 村本さんは16年にネット番組「ABEMA Prime」でMCを務め、ニュースに触れたのを機に東日本大震災の被災地や震災後の熊本に足を運び、現地の人たちと話すように。その経験をもとに原発や沖縄基地問題などを漫才のネタにし始めると、テレビ出演が激減した。「アイアム・ア・コメディアン」では、アメリカへの武者修行の様子だけでなく、コロナ禍のパンデミック(世界的大流行)の苦悩や、家族との関係なども描かれている。

お笑いは「その国の人の鏡」

―― アメリカで活動してみて、日本のお笑いとの違いをどんな点に感じますか。


村本 アメリカのバラエティー番組は見ていないので舞台でのネタの話に限りますが、結局、お笑いはその国の人たちの鏡なのだと思います。アメリカの国民は普段から意見を言うから、それがネタにもつながってきます。日本は国民が自分の意見を言わないし、日常生活で社会的な話もしないから、お笑いのネタも子どものころに教室の後ろで友達と先生のモノマネをして笑っていたようなものの延長になる。普段意見を言わない芸人が急に沖縄の基地問題の話題をしようとしても、できませんよね。

―― アメリカではどんな笑いを目指しているのですか。

村本 日本にいる時と変わりません。自分の言いたいことで笑わせたいというのが最低条件なので、アメリカの客が好むネタをやって、何が何でも笑いを取りたいというわけではないんです。僕は殿様に呼ばれて気に入られるために芸をやるような“お座敷芸人”になろうと思ったことは一回もありません。

―― 自分の言いたいこととは?

村本 例えば、ニューヨークでとても優しくて仲の良い、イスラエル出身のユダヤ人のコメディアンの友達ができたんですが、彼はシオニスト(ユダヤ民族主義者)なんですよ。だから、パレスチナに対して今イスラエルがしていることについて、「イスラエルは悪くないって胸を張って言える」と言います。対立の渦の中で、その言葉を聞いた時に僕が感じる何とも言えない気持ちを大きなコメディーにしたい。それができたらうれしいです。

 ただね、これまでは日本語だからバレなかったオチが、今は英語がカタコトなせいで、モタモタ話しているうちに途中で気づかれてしまう状況が起こっているんですよ。逆に言うと、これまでは日本語でスラスラ話せるから笑いが取れていたのだということを実感します。アメリカでは、僕の下手な言葉でたとえ途中でバレてしまっても笑えるぐらい強いオチを考える良い機会をもらっています。

―― 村本さんは20年に刊行した著書『おれは無関心なあなたを傷つけたい』(ダイヤモンド社)で「ネタで大事なのは不安定さと緊張感」と書いていますが、今も変わりませんか。

村本 変わりません。不安定さと緊張感は今もすごく大事だと思います。「安心して見ていられる」と言われたら、芸人として死んだも同然のような感じが僕にはありますから。常に学んで新鮮でいて、ライブではみんなから「大丈夫か?」と心配されながらも話を聞いちゃって、結局おもろかった、みたいなのがいいですね。

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20240709/se1/00m/020/014000c

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