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「いい絵だな」南伸坊さん×伊野孝行さんインタビュー

会った時は楽しくて2回りの年齢差を忘れている 南伸坊さんと伊野孝行さん、2人のイラストレーターによる縦横無尽の対談集『いい絵だな』

2023.2/4 10:00

zakzak by 夕刊フジ


 世代の異なる2人のイラストレーター、南伸坊さんと伊野孝行さんの対談集である本著が刊行された。流行りの解説書や教養本とは違い、絵を語り合うことの楽しさが詰まった1冊だ。 (文・井上志津/写真・三尾郁恵)

2人での絵の話を形にしたいなと

――イラストレーション専門誌に連載された対談が元ですね

伊野「『イラストレーションについて話そう』という連載でした。この企画の話が来たとき、それ以前に伸坊さんと絵の話をする時間が楽しくて、何か形にしたいなと考えていたので、伸坊さんとの対談にしてもらいました」

――本にまとめるにあたって工夫した点は

伊野「連載時の読者層は業界の人や学生でしたが、絵に興味がある人なら誰にでも面白がってもらえるよう構成しました。世の中ではデッサンは絵の基本と言われていますが本当か?とか」

――本の反響は

南「知らない画家の名前がたくさん出てきたのが面白かったと言ってくれる人が多いですね。普通は有名な画家の有名な絵しか見たことないですよね。表紙のアルベール・マルケもあんまり有名じゃないけど、僕たちは大好きです。描きすぎてないところがいいでしょ」

南伸坊さんに憧れて案内状を送ったら

――伊野さんと南さんはいつから仲良くなったのですか

伊野「僕はもともと伸坊さんに憧れていて、初めて個展を開いた2003年にマスコミ電話帳で住所を調べて案内状を送ったんです。でも、見ず知らずの男の個展にいらっしゃることは当然ながらなく、その後はイラストレーターの集まりを通じて面識はできたものの、遠くから見ていただけでした。それが10年の個展のときに初めて来てくれ、お酒に誘ってもらったんです。夜更けまで話をしたその日は夢のようでした。同業者同士で絵の話をするのってこんなに面白いんだと思いました」

南「映画なんかだと見た者同士で話したりするけど、同業者同士で絵の話をすることって、あまりないんですよね」

――どんなところが気が合いましたか

南「伊野君の素晴らしいところは素直なところですね。僕は子供の頃からひねくれてて、世間がいいと言う物は無視する。伊野君にはそういう偏見がないです。年齢は2回り離れてますが、会ってるときは年のこと忘れてますね。好きな絵の話をするのも、嫌いな絵の話をするのも楽しい」

――タイトルはどのように決まりましたか

伊野「絵を見ながら僕たちが話していた言葉の中から編集者が付けてくれました」

南「『いいよね』って言ったときに『いいね』って言ってもらうのってうれしい。読んだ人にも僕らがいいと思ってる絵、気に入ってもらえたらうれしいですね」

AIは楽しんで絵を描いていない

――絵の見方は帯の推薦文にあるように「絵は好き嫌いで見てもいい」が正解ですか

南「別に勉強してから見たいって人はそうしていいんです。自分にとって『いいな』と思って楽しければいいわけですから。今はいろんな絵がネットで見られるので、とにかくいろんな絵をたくさん見た方がいい。全然有名じゃないけど、自分は好きだなって絵を見つけたら、すごくうれしいですよ」

伊野「僕の場合は例えば展覧会で絵を見たら、伸坊さんに報告をしたいと思うんです。面白い報告を。そう思いながら見ていると、自分なりの面白い見方ができるようになる気がします」

――最近、AI(人工知能)が絵を描いてくれるアプリがありますが、どう思いますか

伊野「絵を描く楽しみをわざわざAIにあげなくてもいいのになと思います」

南「面白いかもしれないし、いくらでもやっていいと思いますよ。でも、AIは楽しんで描いていないってことははっきりしてるよね。楽しんで描かれていない絵が楽しいか…」

――これからしたいことはありますか

南「今、絵を2枚並べて見るって連載をやっているんですよ。例えば雪舟の『慧可断臀図(えかだんぴず)』ってダルマの絵とダ・ヴィンチの『最後の晩餐』は同じ年に描かれてるんですよ。2枚並べることによって見える面白さがある。本にまとめられたらなと思ってます」

伊野「僕、普段の仕事は一コマ漫画的な絵を描くことが多いんですけど、仕事とは別に画学生時代のようにスケッチをもう一回してみたいなと。この本を作っていたらそんな気持ちになってきました」

南「それすごくいいね」

■伊野孝行(いの・たかゆき) イラストレーター。1971年三重県生まれ。東洋大学、セツ・モードセミナー研究科卒業。講談社出版文化賞、高橋五山賞、グッド・デザイン賞受賞。著書に『となりの一休さん』『画家の肖像』など。

■南伸坊(みなみ・しんぼう) イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。1947年東京都生まれ。都立工芸高校デザイン科、「美学校」・木村恒久教場、赤瀬川原平教場卒業。80年月刊漫画「ガロ」編集長を経てフリー。『モンガイカンの美術館』『私のイラストレーション史』など著書多数。

『いい絵だな』 集英社インターナショナル 2420円税込
絵を描くと分かることがある。お勉強では分からないことがある。なぜ画家たちはリアルに描くことに夢中になったのか、ヘタな絵の価値とは何か、現代美術は何を言おうとしているのか、ファインアートとイラストは違うのか、そもそもイラストって何…。

描き手である2人がジャンルをまたぎ、縦横無尽に語り尽くす、ゆるくて面白い絵画談義。本書を読むと、料理を自分の舌で味わうように絵が鑑賞できるようになる!?


https://www.zakzak.co.jp/article/20230204-Y6PTQT4TFNNB5EUHERCHOWRKJI/?fbclid=IwAR2i1PgL6DwZvq_cN549ABMd5z3IpYMd6IF-rIh8g2MqHJi6fs9WW3uL6c8

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