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ベルギー留学:黒い森、シュヴァルツヴァルトを歩く. 出発

4月1日からの2週間、ベルギーの大学はイースター休暇。ヨーロッパから来ている学生のほとんどは自国に戻って、家族と休暇を過ごす。

「イースターって日本には馴染みがないんだけど、ベルギーでは何をするの?」とルームメイトに尋ねる。

「特に何も。クリスマスよりも重要な行事ではないからね。ただ家族と過ごして、美味しいものを食べるよ。」と返ってきた。

「静星は、日本には帰らないでしょ?何をするの?」

えっとね、と私は答える。

「ドイツの黒い森を歩きに行くの。」

黒い森、ドイツ語でシュヴァルツヴァルト。
植林されたトウヒの木がその大部分を占めていて、密集すると森が黒く見えることから、「黒い森」と呼ばれている。

シュヴァルツヴァルトを初めて訪れたのは昨年の秋。黒い森で最大の都市、南部のフライブルクへハイキングに行った。

黒い森を一人静かに歩いていると、木々を吹き抜ける風のように心が澄んで、深い森の中で、本当の自分を見つめているような気がした。執着心、恐怖心、承認欲、孤独、自尊心。そういうもので作り上げられた硬い殻が、どんどん剥がれ落ちて行く感覚。

壊れてしまいそうなくらいまっすぐで、純粋に生きようとする自分。ちっぽけで、繊細だけど、強く精いっぱい生きようとする自分。

黒い森に、すごく惹かれた。惹かれたというより、呼ばれているような気がした。黒い森と私には、何か繋がりがあるような気がする。だから、イースター休暇で、また黒い森に戻ることに決めた。

「ドイツには誰と行くの?」
と私の友人。

「一人で行くよ。一人でハイキングするの。」
と答える私。

友人は目を丸くして、
「わざわざドイツまで一人でハイキングに行くの?小さな日本人の女の子が、ドイツ語も分からないのに、田舎にハイキング…」

そう、一人がいいの。ひとりで森を静かに歩くのが、一番いい。


「静星は、勇気があるね」

バックパックに荷物を詰め終えて夜行バスのチケットを確認している私の背中に、友人はそっと呟いた。

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「ドイツのシュヴァルツヴァルトにハイキングに行きたいの。どこかおすすめの場所はある?」

去年の夏、ヨーロッパを旅しているときに出会ったラテンアメリカ出身の友人にメッセージを送ってみた。オランダでの仕事を辞め、直感のままに1年間、ヨーロッパと中東を旅した彼女は、私よりもずっと年上の女性だ。人生の先輩でもあり、憧れの存在でもある彼女は、友人のように何でも打ち明けることができる存在。現在はアメリカとラテンアメリカを旅している。

「黒い森の北側、Calwという小さな村がおすすめよ。私が訪れたときに泊った安い宿があるから、後でリンクを送るわ。」

Calwを検索すると、カラフルな木組みの建物が連なる写真が目に入った。中心部に教会のある小さな村。その背後には、鬱蒼と広がるシュヴァルツヴァルト。

「うん、Calw、行ってみたい」

「Calwをハイキングするなら、」

と彼女は続ける。

「マップやスマホに頼らずに、直感に従って道を進みなさい。たくさん標識があるから、迷っても必ず村に戻って来れる。私が黒い森を訪れたとき、足が疲れるまでたくさん歩いたわ。ときどき、本能に従って小道を外れて森にも入って行った。そして、私は森の奥で、とても美しい秘密を見つけたの。」


「黒い森は魔法のような場所よ。本能がそれを感じることができる。静星もきっと、美しい経験をすることができるよ。」


夜22時、トラムに乗ってブリュッセル北駅に向かう。北駅のすぐ側に夜行バスの停留所があるのだが、その地区の夜は危ない。気を付けないと、酔っ払いや麻薬に染まった人々、ホームレスが寄ってくる。できるだけ誰とも目を合せないように、薄暗い道を俯き加減にそそくさと歩く。道路の向こう側で、冷たい風から身を守るようにジャンバーに身を沈めてバスを待つ人々の群れが目に入った。

珍しく、時間通りにバスが来た。
チケットとパスポートを見せる。運転手が私の席番号を確認して、バスの2階を指差す。満席でムワっとしているバスの階段を上がる。

ヒソヒソと聞こえる話し声。後ろの方の席で赤ちゃんが泣いている。


今夜はもしかしたら寝れないかもしれないな、と思った。

それでもいい。多少、居心地悪くても、それも私にとって旅の一部だ。
急がなくていい。なにせ一人での旅は、時間がたっぷりある。

狭い席に体を埋めると、隣のおばさんが "Hi" と声をかけて来た。
「どこへ行くの?」


私も "Hi" と返す。

「ドイツのシュヴァルツヴァルトです」












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