
【台湾で漫画編集する①】就業金卡いかがですか?
こちらでは、どうして私が台湾で漫画編集の仕事をしようと閃いたのかについて書きましたが、志がどれほど高くてもフリーランスの立場で台湾で働くのは、法律的に厳しい状況でした。
それでも、フリーランスのほうがフットワーク軽くいろいろな出版社と漫画家さんを繋ぐことができる。
だからなんとしてでも、フリーランスの立場でいたい。
そこで知ったのが、私の願う仕事スタイルを叶えてくれる「就業金卡(就業ゴールドカード)」でした。
これから右往左往しながら就業金卡を手に入れるまでの顛末を書いていきたいと思います。
いろいろ調べてみたものの、私が申請した文化・芸術分野の出版事業について書かれたものがありませんでした。きわめて個人的な体験になりますが、どこか参考になったら嬉しいです。
求職ビザでは、働いちゃいけないって
私は2020年7月まで就労ビザを持って台湾企業で働いていました。この就労ビザというのは会社と紐づいたもので、「あんたは〇〇社の社員として、〇〇社だけで働いてもOK。でももしその会社を辞めたら、新しい台湾企業に勤めないかぎり、台湾で働くことはなりません」。
リストラされた私は就労ビザを剝奪され、代わりに手にしたのは求職ビザ。
次の勤め先が見つからないかぎり、台湾で収入を得てはいけなくなってしまったのです。
「だってだって、辞めたくて辞めたんじゃないのよ。リストラよ。簡単に次の仕事なんて見つからないよ。アルバイトくらい許してよ」と労働部に泣きつきましたが、「求職ビザで働いちゃダメ」の一点張り。
そのころはまだ、台湾の漫画家さんと漫画を作ろうとは思っていなかったのですが。私は、レストランだろうがコンビニだろうが土産物屋だろうが、どんなバイトも台湾ではしてはいけない立場だって……。
しかし収入よりもっと大きな問題がありました。
求職ビザは6カ月有効の2回更新まで。台湾でフラフラしてられるのは、あと1年しかないということ!
――タイムリミットは2021年7月頭。
作家さんとは、顔を合わせて打ち合わせしたい
2020年の秋ごろから徐々に台湾人漫画家さんとの仕事が動きだすにつれ、「やっぱり、台湾に居続けて、作家さんと顔をつき合わせて打ち合わせしないと効率悪い!」と思いだしました。
数年前くらいから日本の出版業界では、「担当編集者と一度も会ったことも、電話で話したこともない。ぜんぶメールだけですます」という作家さんやライターさんの話を耳にするようになりました。
対面なんて流行らないんですかね。
でも会える環境にあるなら、顔を合わせるってすごく大切だと私は思います。こんなご時世ですからせめてビデオ通話、それか電話でもいいから直接「会話する」ことで、お互いの想いが伝わりやすくなるんじゃないでしょうか。
それに日本人のわけわからん編集者が突然「日本人読者に向けて、一緒に漫画作りましょ~」「あ、私は出版社の人間じゃないんですけどね」って誘ってきたら、漫画家さんも怪しみますよね。だから顔を見せることで、安心してほしかった。
私のつたない中国語の能力では、図解や文字で補足しながらコミュニケーションするほうがいい、というのもあります。
台湾の漫画家さんは日本の漫画に慣れ親しんでいるとはいうものの、日本語が話せる人、なんとなく読める人、まったく話せない人などさまざまです。基本的には「中国語だけでやりとりをする」ことを前提としておくほうが無難です。
ああ……7月にビザが切れたら、日本に帰らなきゃならない。
いちばん顔を合わせて取り組みたい、あらすじ作りのための打ち合わせができていない漫画家さんだらけなのに……。
起業したらどうかしら?
会社を興せば居留ビザが手に入ると聞きつけ、「編集プロダクションを、法人として立ち上げるのはどうだろう」と、台湾で起業した日本人経営者の方に相談もしてみました。
でも漫画家さんにご挨拶はして、「日本で描いてみます」と了承を得たものの、まだ1本も作品ができてない状況。アタックした方々は軒並み「2021年の春夏秋以降からの執筆ですね~」。
じゃあその春夏秋以降はコンスタントに作品を作れるの? 漫画家さんの「●●までにできます」を、私は信じちゃいませんぜ。
現実的に、1年間でどれくらいの数の作品が作れるんだろう?
台湾では外国人が起業する場合、毎年300万元(約1200万円)の売り上げを求められます。
自分の担当キャパはわかっていても、漫画家さんそれぞれの進行具合がまだ見えない状況では収入の見通しも立たず(だいたい今は無収入だし!)。起業は現実的じゃないなという結論になりました。
ああ、どうしよう……。
ご近所さんが教えてくれた「就業金卡」
2021年2月の段階で起業をあきらめ、「こりゃもう7月までに作家さんに種をまき続け、7月以降は日本でなるようになれ! と開き直るしかないな」と思っていた時……お向かいに住む奥さんが声をかけてきたのです。
「就業金卡っていうのがあるみたいよ」
え? え? 何それ?
「これを持ってると、台湾でフリーランスでも働けるんだって!」
え? え? どういうこと?
「私たちのアパートの大家さんと立ち話してたら、アメリカ人の彼氏が就業金卡の申請に通って、これから台湾でフリーランスで働くらしいよ。あなたも申請してみたら?」
奥さんにはそれまで、ビザが切れることへのグチや不安をたびたび聞いてもらっていたので、気にかけてくれてたのです。
異国暮らしで持つべきものは良き隣人。
「就業金卡」って何?
奥さんから教えてもらった就業金卡のサイトにドキドキしながらアクセス!
さらにニュースサイトなどもいろいろ見てみると……。
<就業金卡(就業ゴールドカード)>
・特定の専門能力を持った外国人に向けたカード
・労働許可、居留ビザ、外国人居留証、再入国許可がひとつになっている
・台湾企業に所属しなくても、フリーランスで働くことができる
・期限は最大3年まで
これ、すごい! 出版事業もあるじゃない。ということは、フリーで編集者できるってことだよね。まさに理想的!
よーし申請するぞ! とはりきって申請条件を見たら……。
「特定の専門能力を持った外国人に向けたカード」の「特定の専門能力」の内容がえらいことになっていました。
……長くなりましたので、申請条件や手続き、準備した物については、改めてご報告いたします。そこが一番知りたいことだと思うのですが、引っぱってすみません。