ぬいものがたり～防災パンダさん

僕は防災リュックとして生まれた、防災パンダだ。

日常の生活空間に違和感なく置くことができるように、ぬいぐるみの形状をした非常用持ち出しリュック。

だがしかし、僕は本来の目的を失い、ただのぬいぐるみのパンダとなっている。

理由は僕の持ち主のせい。この持ち主が、心配性なあまり、僕に備え付けられている防災グッズでは安心できず、リュックに自分で買ってきた防災グッズを詰め込んだ。その結果、僕の背中のチャックを壊してしまった。

人は僕を不遇と呼ぶかもしれない。
防災リュックとして作られた使命があるのに、ぬいぐるみとなってしまった僕。
でも僕は全然不幸じゃない。
防災リュックとして生きてた頃は、すぐ持ち出せるように玄関に置かれていたけど、今は寝室に置かれて、一緒に寝ている。
これ以上の幸福があるだろうか。

最初に決められた役割とは違うけど、僕は持ち主の側にいられて、かえって幸せになった。
災い転じて福となすとはこのことだ。

君が泣いている時も、笑っている時も、僕は君のそばで生きていく。

～完～