群馬県の茂林寺沼(大江正篤)
群馬県館林市役所から南へ約1.5キロの、郊外の住宅地の中に茂林寺沼(もりんじぬま)と野鳥の森があります。
沼は、野球のグラウンドぐらいの広さしかありません。
この茂林寺沼が動植物研究者から高い評価を受けているのは、沼の周囲約5ヘクタールが低湿地原で取り巻かれ、さらに乾燥した草原帯、シラカシなどの林もあり、県内で唯一、昔ながらの沼とその周辺の自然環境を残しているからです。
沼べりには、コオホネ、ノハナショウブ、エゾミソハギ、ミズオトギリ、草原帯にはクサレダマやサワヒヨドリなどの植物があり、土地の状況によって植物の住み分けがはっきりしているといいます。
1940年代(昭和20年代)から、沼周辺の植物観察を続けている近くの小学校の校長は「尾瀬に比べたら、はるかに小規模かもしれません。しかし、平野部の沼は干拓による農地作りや住宅建設でことごとく姿を変えてしまったのです。茂林寺沼と一帯の湿原、林だけが、水生植物やトンボ、野鳥の宝庫として残ったわけで、平野の尾瀬と考えたいぐらいです」と、熱っぽく語りました。
しかし、一帯は市街地にあるために生活排水、雨水の流入による汚れが心配されていました。館林市は住宅地からの排水路を準用河川に指定し改修工事を進めました。完成まで何年もかかりました。
湿地に隣接する4.8ヘクタールの野鳥の森では、市民の有志が、え付けや清掃のボランティア活動を展開しているため、アカマツ林の散策路は野鳥のさえずりに満ちています。
館林市の公園緑地課では茂林寺沼一帯24ヘクタールを将来、全国に自慢できる自然公園に整備する夢を持っていました。「それには市民からの提言と協力が必要です。百選地選定を機に自然保護の訴えを強めたい」と話していました。
茂林寺沼へは東武伊勢崎線茂林寺前駅から東へ歩いて約10分。茂林寺門前と野鳥の森入り口に無料駐車場もあります。
大江正篤