
強烈な違和感
先日野球の国際大会「プレミア12」が台湾の優勝で幕を下ろしましたね。
個人的に台湾にはよく行き来をすることもあって親しみはあれど、やはりスポーツの勝負事では負けてほしくないという気持ちが強いので、数日経った今でも心からの祝福は出来ていません。
ただ何人かの台湾のお友達がインスタのストーリーで台湾優勝の瞬間を上げていたので「おめでとう」とメッセージはしました。
ぶっちゃけ野球の内容とは関係ないんですが、この大会で起きた出来事です。タイトルの通り「強烈な違和感」を感じたことがあったのでここに自分の頭の整理の意味合いを込めて書き記していきたいと思います。
より正確に流れを示すために少し長くなりますことをお許しください。
原住民の呼称問題
事の発端は台湾代表であるギリギラウ・コンクアン選手がテレビ中継で紹介されている時のことです。
ギリギラウ・コンクアン選手は漢字で「吉力吉撈 鞏冠」と表記されるんですが、日本対台湾戦(11/16)を中継していたTBSが出場したギリギラウ選手の漢字を音読みで読んだ「キチリキキチロウ キョウカン」とテロップで表記しました。
それがネット上でバズった時に僕も初めてこのことを知り、当初は「そりゃ漢字で書いたらそういう読みになるよな~」くらいの感想で特に何も感じていませんでした。
すると数日後(11/21)、このような声明が台湾原住民族青年公共参与協会より発せられます。詳しい内容は写真参照。


かいつまんで言えば「ギリギラウ選手の漢字は中国語読みした時に最も近い音になるような当て字であって、それを日本語読みすると本人の元々の名前と乖離したものになるので、ちゃんと正確に彼の名前を呼んでほしい」というものでした。
この声明を見た瞬間から僕はすでに違和感をもっていましたが、この時はあまり深く自分の中で掘り下げることはしてませんでした。
私はThreadsをけっこう愛用しており、台湾関連のおススメ投稿がよく上がってくるのでこのギリギラウ選手に関しての投稿も見かけたので少し検索して他にどんな投稿があるのか見てみました。
検索してあがってきた上の方に次のような投稿がありました。

この方日台ハーフらしくYouTuberとして双方の言葉や文化を紹介していらっしゃるそうです。それでご本人の投稿にも流れ書かれていますが、パイワン族の言葉⇒中国語漢字読み⇒日本語音読みで元来の要素を完全に失っており、漢字至上主義である。Wikipedia(メディアがWikiを第一ソースに使うわけないだろとツッコミも入れておきます)にも正しい読み方に近いカタカナで表記されているのになぜ日本のテレビ局は漢字至上主義なのかということでした。
一連の流れを見てれば分かるかもしれませんが、一応補足です。
台湾の原住民は独自の言語を持っていて、ギリギラウ選手は台湾の原住民であるパイワン族の生まれでありパイワン族の名前をローマ字で戸籍登録を行っているそうです。
台湾での社会的背景として、今年から漢字以外の言葉を使って戸籍登録できるようになり、原住民の人たちの文化保護(それだけの理由ではなくもっと多様な意味も持っているかもしれませんが)を積極的に行っているのが分かります。
ギリギラウ選手の名前をちゃんと呼んでほしいということでこのYouTuberの方は以下のような投稿をします。


中国語なので主に台湾の人たちに向けてでしょう
「ギリギラウ選手の呼称が(上記の流れで)捻じ曲げられてるからちゃんと読んでもらえるようにTBSの意見箱に私が日本語で意見文作っているから(Eの写真)それコピーしてもらって構わないからみんなで意見投稿しよう」と呼びかけています。
余談
このマイケルを使った例え
Michael⇒真井毛流⇒しんいもうりゅう
としていますがこれだと英語⇒日本語当て字読み⇒日本語音読みの流れで日本人が日本語を誤読しただけなので当てはまらないですよね?違う?
ちゃんと書くなら
Michael(英語)⇒真井毛流(日本語)⇒ジェンジンマオリウ(中国語)
でももし漢字で「真井毛流」と登録してたら台湾人は「ジェンジンマオリウ」って言うしかないんじゃない?
ちなみにサッカーのアルビレックス新潟に舞行龍ジェームズというニュージーランド出身で日本国籍を取得し英語を「舞行龍」と当てている選手がいます。漢字だけ見て台湾人は正しく呼んであげられますか?
この投稿を見て私はゾッとしたと同時に怒りが湧いてきていました。
もちろんおっしゃっている意味は理解できますが、そうであれば違和感を持った時点で働きかけするならそのご本人かそれに近い存在の人や団体(この場合は中華民国棒球協会かな?)に対して「こういう風に書かれて(もしくは呼ばれて)いましたけど、もし本意でないなら訂正お願いした方がいいんじゃないですか?」というようなことだと思います。
このYouTuberの方もCの写真で書いている通り大事なのは本人がどう思っているのか、どうしてほしいかと語っているのになぜメディアに対する直接的な行動を起こしたのかまた扇動したのか甚だ疑問です。
メディアの相互主義
そこで私は私の正義感に駆られてこのYouTuberの方に対して返信をしました。

少しでも中国語をかじったことある方ならご存知だと思いますが、同じ漢字とはいえ読み方は全く違います。例えば渡辺さんは日本語読みだと「わたなべ」ですが、出来るだけ中国語読みに近づけると「ドゥービエン」となります。かけ離れてますね
このようにお互いにお互いの読み方があるんだから、国内向け報道では基本的に自国の発音方法でしようねというのが当事国同士の「相互主義」という考え方です。それを私はお伝えしたのがFの画像です。
それに対してこのようにご返事いただきました。


Gの写真ではギリギラウ選手がなぜ漢字表記されているのかという理由を述べていただいています。ローマ字表記だとその他の台湾人には分からないので「吉力吉撈(中国語的に読むとジリジラオ)」と近い音の漢字を持ってきて当て字にしているということ。。
Hの写真ではこの問題は漢字だけでなく、台湾の原住民のことや言葉について理解が足りないことがこの問題の本質だと述べておられます。
私が思うに
今回の台湾代表の選手たちを日本のテレビ局は日本語の音読みで呼んでいました。きっと台湾のテレビ局では日本の選手たちを中国語読みで呼んでいたでしょう。そしてそれはきっと各国の協会で管理している選手名簿にアルファベットだけでなく漢字での登録もあるからでしょう。
ギリギラウ選手はCPBL(中華職業棒球聯盟/台湾プロ野球)ではIの写真のように漢字で登録されています。だから代表で活動するときもこのままの登録名なんだろうなと推察できます。

それが日本のテレビ局が「キチリキキチロウ キョウカン」と記したことの理由でしょう。「じゃあせめて中国語の読み方でやればいいのに」と言うなら、他の台湾選手もそれに倣わなければならないでしょうから、それは相互主義の考え方に反します。
そういった理由や背景がメディアとしてはあるのに、脊髄反射的に「テレビ局が勝手に名前変えておかしい!」と外野が声を上げているように私には見えています。
あとHの写真でそのYouTuberの方は「ギリギラウ選手のルーツや台湾言語事情への理解が少ない」というところに帰結点を求めていますが、私はそうは思いません。この問題は単純に漢字を使っているから。ただそれだけです。
普通に日本で暮らす日本人はことさら台湾の事情なんて知る由もありませんし知ろうともしないでしょう。台湾にも日本に興味がない人がいるように。それを「我々への理解が少ない」なんて発想は傲慢なのでは?それこそがこの強烈な違和感の正体なのかもしれません。
互いの理解を深めるために大事なことって何だろう
ギリギラウ選手は自身のルーツに誇りを持っているからこそ中華名(ギリギラウ選手は朱立人という中華名もあります)ではなくパイワン族の名前を使用しているわけですから、本人もしくは野球協会が国際大会(特に日本において)では「giljegiljaw表記を優先させたい」と伝達しておけば、日本でも最初からギリギラウと表記されていたでしょう。
あと原住民の協会に関してもこのように声明を出すのであれば、事前にそうして欲しいと提案しておくべきだし、事後だとしても連名で声明を出せるくらいに選手(当事者)とコミュニケーションを常にとっておくべきだと思います。
事が起きてから単独で声明を出すのは内情を知らない相手側からすると「知らなかった上に、その提案は当事者が本当にそうしてほしいと言ってるんですか」とやや懐疑的に受け止められてしまうかもしれません。
「相手に名前を聞く時は、まず自己紹介から」
こんなありふれた言葉ではありますが、これこそが互いの理解を深める第一歩なのかなと今回の件を見ていて感じました。
あとこれ書いちゃうと元も子もないんですが、原住民協会といいこのYouTuberの方といい表現の仕方に可愛げがないですよね(笑)
「メディアへの公開書簡!」ドン!
「漢字至上主義はおかしい!」ドン!
みたいな…。
例えばこの協会がメディアへの公開書簡とか言わず
「日本の皆さんへのお願い 吉力吉撈(キチリキキチロウ)ってすごいですね(笑) まさか日本でこんなにまで名前が変化してしまうとは予想だにしてませんでした。漢字表記だとこういうことが起こってしまうんですね。台湾には多くの原住民がいてそれぞれに言語や文化を持っています。そして彼はパイワンという部族の出身で、彼はそのパイワン族の名前を使用しているんです。そしてこのパイワン族の名前を出来るだけ正確に日本語で表現するとギリギラウが一番近いと思います。彼はこの自分の名前をとても大事にしていますし、我々原住民協会もその彼のスタンスを支持しています。ですのでぜひ次の試合からはギリギラウ選手と呼んであげてください。そうすれば我々はもちろん彼もとても喜んでくれると思います!」
のようにもう少し砕けた文章だと私のような意地悪な人間に対しても耳に入ってきやすかったのではと思います。
台湾では声を上げて権益を勝ち取っていく社会ですし、少数派を理解してあげようと共に声を上げてくれる鷄婆ジーポー(中国語で世話焼き、おせっかい)な人が多くいる国です。でもだからといってそれを知らない他国の人に対してまでその強気のスタンスで向かっていくのが正しいとは思いませんがね。
台湾の人って面倒だから関わらないでおこうって思われるのが一番悲しいことです。
私は冒頭でもお伝えしたとおり台湾にはよく行きますし多くはありませんが台湾人のお友だちもいます。
決して台湾が嫌いとかそういった感情では書いていません。
まあ台湾のどうしても好きになれない部分もあったりはしますが(笑)
今回起きたこの件がたまたま母国と他の国に比べ多少理解のある台湾の間に起きたために私もこういった感情になってしまったのだと思います。
台湾に対する不満っぽくなってしまいましたが、一番嫌いなのは勝手に「台湾って親日国だから日本語大丈夫なんでしょ?」って台湾旅行で日本語でまくし立ててる日本人です。
今頭に浮かんできたのは
愛なき時代に生まれたわけじゃない
強くなりたい 優しくなりたい
あざした