買い物に行った話


冷蔵庫が空っぽだったので買い物に行った。

最寄りのスーパーは5分ほど歩いた場所にある。いつもならささっと行って帰ってくるところだが、天気がよかったので回り道をすることにした。とは言えさほど距離は変わらない。裏道を通るか、表通りを通るかの違いだ。
家を出てすぐ見慣れない薬局を見つけた。開店セールの登りが出ている。わりかし近所なのだが、普段は行かない通りのせいで薬局がオープンしたことなんて知らなかった。
なにか新しい発見があるかも。そう思って吸い寄せられるように中へ入った。そこそこ広く、奥では処方箋の受付もしているらしい。

ふらふらと店内を歩いていると、食品のコーナーにたどり着いた。卵が198円で売っている。しかも最後の一つだ。ラッキー、と思いながら手に取りかけて、固まった。
スーパーの方が安いかもしれない。
正確な値段までは覚えていないし、最近は卵が高騰しているが、そもそもあのスーパーは安いことで有名だったはずだ。十円二十円の差だろうが、その差を笑うものはその差に泣くんじゃないか?
というのは建前で、ただただ面倒だった。入り口付近にあるレジはひどく混んでおり、長蛇の列が出来ていたからだ。自分は行列なんてものが心の底から苦手である。地元で有名なラーメンを食べに行ったら30分待ちだと言われ、帰ってインスタントラーメンを啜った日もあるほどだ。
卵だけを買うのにあそこに並ぶのか。他に買うものがあればよかったのだろうが、めぼしいものはない。どうせスーパーに行くならそっちで買った方がいいだろう。安いし。
結局何も買わずに店を出て、スーパーに向かった。

結論から言えば、あのとき卵を買っておけばよかった。

スーパーに着くと、真っ先に卵のコーナーに向かった。巡っているうちに忘れる気がしたからである。脳内が卵を求めているうちに、卵をカゴに入れなければ。
卵は188円だった。やはりスーパーの方が安い。手に取ろうと近づいて、パックが一つも置いてないことに気がついた。おかしい。普段なら山のように積んであるのに。そこがこのスーパーのいいところであるはずなのに。

ミックス卵、188円。大きなポップの下には、「鳥インフルエンザの影響で卵の仕入れが追いついていない」的な文言が書かれた紙が貼ってあった。
そうだよな。薬局でも最後の一つだったもんな。卵、みんな欲しいしな。売り切れることだってあるよな。
卵がないことにショックを受けた私は、そのままスーパーを出て家に帰った。他のスーパーに寄る気力もなかった。

夜。お腹が空いたので、ご飯を食べようと思った。冒頭にも書いたが、冷蔵庫は空っぽだ。そうだ。何もないからスーパーに行ったのだ。
結局冷凍しておいたご飯とインスタントの味噌汁で夜ご飯をすませた。なんだかすごく悲しい気持ちになった。
あのとき卵を買っておけば、こんな想いをしなくてすんだのかもしれない。

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