オンラインでも深い対話はできる。「世界の市役所をハックする!(通称:モリゼミ)」の振り返りを行いました!
2019年10月、日本中のさまざまな地域で活動する公務員が、仮想市役所(オンライン投資型サロン)に集まり、それぞれの地域の課題の解決を模索する取り組みとして、「市役所をハックする!」がスタートしました。
その中から生まれてきたプロジェクトの1つが、「世界の市役所をハックする!(通称:モリゼミ)」です。モリゼミの目的は、世界の自治体(公共)を先駆事例として学び、「日本における未来の自治体や公共のあり方」を構想すること。オンラインでのレクチャーとクローズドゼミを通して、学びを深めてきました。
クローズドゼミでは、2020年5月~10月の6か月間に渡り、デンマーク『民主主義・教育』、オランダ『多様性』、エストニア『デジタルガバメント』、台湾『民主主義・政治』の4つのチームで、独自に研究を進めてきました。11月29日には、オンラインにて最終発表を行いました。
そして2021年1月17日、モリゼミでの半年間の学びを改めて振り返る会をオンラインにて開催。塩尻市地方創生推進課の山田崇さんと、モリゼミのTAを勤めた小倉知子さんが進行を務めました。参加者は、ゼミ長4人と後半から加入したメンバー6人。オンラインコミュニティならではの可能性やチームビルディングのあり方、世界から何を学び、何を日本に生かすのかなどについて、考えを深めました。
世界の事例を、日本にどう生かす?
参加者全員のチェックインを済ませた後、ぜミ長4人による振り返りを行いました。約半年間の活動で、どんな学びを得たのでしょうか?
まず、デンマーク『民主主義・教育』チームゼミ長の小倉知子さんの振り返りから始まりました。
デンマークは、世界幸福度調査や民主主義指数で常に上位を誇る国です。「デンマークの民主主義を支えるのは教育である」という仮説のもと、研究を始動しました。その中で一人ひとりの自主性を尊重した「生きた言葉」による対話を大切にしていることが見えてきます。さらに歴史を辿ってみると、その礎には、生きた言葉による対話を通し学び合う場「フォルケホイスコーレ」が大きく影響していることが分かりました。
ゼミ長の小倉さんは、3年前から北海道東川町でフォルケホイスコーレに基づいた人生の学校づくりに挑戦している株式会社Compathさんとの出会いが特に印象に残っていると語ります。
小倉知子(おぐら・ともこ)さん
福岡県久留米市と東京の2拠点で活動。地元の伝統工芸品「久留米絣(くるめかすり)」でつくるファッションブランド「CASULI」を設立。地元久留米から世界へ!がモットー。
小倉さん「研究を進める中で、こんな人に話を聞いてみたいと模索していたら、もうすでに実践をしている人たちに出会いました。見えていなかった光を見出し、横のつながりができていくことに、わくわくしました。
株式会社Compathさんとは、月1回、壁打ち相手としてディスカッションをしました。新しいことを生み出すことも大切だけれども、すでに実践している人たちに対して、オンラインだからこそできるサポートの形があると感じました」
次に、台湾『民主主義・政治』チームゼミ長の高野寛未さんから振り返りがありました。
台湾は、2020年の総統選投票率が74.9%を記録するなど、若者の政治参加が盛んな国として知られています。「なぜ若者が、自分たちで社会を変えられると思っているのか」という問いを掲げ、文献調査と有権者へのインタビューを用いながら研究を進めました。そこで判明したのは、若者たちが投票などの行動によって、「変わった」と感じる成功体験を積み重ねていること。これが次なるアクションに繋がっているようでした。最近では、デジタル担当大臣のオードリー・タン氏の活動など、政府が国民の自発的な行動を支援していることが国民の政治参画を促しているのも大きいようです。ゼミでは、台湾の傾向について、「TRUST・FUN・OPEN」の3つのキーワードから分析を行いました。
ゼミ長の高野さんは、オンラインコミュニティならではの学びの可能性を感じたと話します。
高野寛未(たかの・ひろみ)さん
政府政策関連プロジェクトの推進、地方自治体と連携をした実証事業、ワーケーション推進の支援に従事。米国PMI認定PMP、米国NLP協会認定NLPプラクティショナー。
高野さん「熱量のある人たちが集まると、リアル・オンライン関係なく、深い対話や学びが生まれることに気づきました。モリゼミは、アウトプットすることにコミットするメンバーが多く、共に走りぬくことができました」
次にオランダ『多様性』チームゼミ長の白川緑さんから振り返りがありました。
オランダは、資源が少ない小国でありながら、他国とのビジネスを果敢に進めてきた国です。「多様性」をキーワードに研究を進める中で、「オランダはなぜ課題解決先進国になりえたか」という問いを掲げました。カギとなっていたのは「水」でした。オランダは国土の大半が海抜より低く、水から国土を守り共生しなければなりません。まずはなんでもやってみるという柔軟性・行動力が不可欠だったのです。目的を成しえるための教育についても特徴的でした。オランダでは、子どもは「小さな大人」として考えられ、社会の一人として子どもと向き合う姿勢が根付いていたのです。
最終的には、「learning by doing」というキーワードを掲げ、研究成果をまとめました。言葉としてまとめることに価値があったと、ゼミ長の白川さんは振り返ります。
白川緑(しらかわ・みどり)さん
経営コンサルティング会社にて事業開発人材の育成や企業の知的資本可視化などに従事。プライベートではとある過疎地での拠点づくりを亀のようにゆっくりなスピードながらにも前に進めている。
白川さん「研究発表までには、15の知見やハッシュタグなど、いくつかの要素を短い言葉でまとめる過程がありました。シンプルなワードにすることで、一人一人の学びも凝縮されていったと感じます」
最後にエストニア『デジタルガバメント』チームゼミ長の渡辺潤さんが、振り返りを行いました。
エストニアは行政サービスの電子化99%を誇る、デジタル・ガバメントの領域で世界最先端に立つ国です。その背景には、1991年にソ連崩壊があります。国家の生き残りをかけて、デジタル化を推進していきました。現在では、結婚・離婚・不動産・売買以外のプロセスすべてをデジタル化しており、人々の暮らしにデジタルが結びついています。また、徹底した情報公開を行った結果、国民の政府への信頼度が高く、一人ひとりがデジタルを通して政治に参加しています。
ゼミでは、コロナ渦でますます有益性が問われるデジタル化について、「自治体をアップデートする」というスローガンのもとで実装化の検討を進めました。ゼミ長の渡辺さんは次のように振り返ります。
渡辺潤(わたなべ・じゅん)さん
埼玉県和光市職員。市役所では児童福祉、文化財、人事、税務の各部署を経験。2011年に「和光市デジタルミュージアム」制作。Code for SAITAMA所属。
渡辺さん「日本では、市民課題の可視化やコミュニティ形成の課題があります。エストニアの事例を参考に、デジタルとの付き合い方、活用の仕方や発展の道筋を考えられると思います」
仮説をもとに研究を進め、日本にその取り組みを実装するにはどうすべきか、議論を進めながらまとめていったモリゼミ。多くの学びや発見があったようです。
新たな繋がりが生まれたモリゼミ
いよいよ振り返り会は、ディスカッションに移ります。モリゼミでは、各チームに固定で参加せずに、俯瞰的な関わり方で参加したメンバーもいました。皆さんはなぜモリゼミに参加し、どのような気づきを得たのでしょうか?
坂東淳子(ばんどう・あつこ)さん
株式会社日立製作所研究開発本部、シニアデザイナー。モビリティとスマートシティの分野が専門。モリゼミでは、オンラインイベントの企画、運営に携わった。
福丸諒(ふくまる・りょう)さん
日立ヨーロッパ、デザインコンサルタント。社会システムのあり方を主体的に考え具体化するビジョンデザインを推進している。ロンドン在住。
金城円(きんじょう・まどか)さん
学習塾SAMI-training Japan代表。オランダやデンマークなどの教育方法を通して沖縄の教育をよりよいものにすることを目標に掲げている。
上田治文(うえだ・はるふみ)さん
株式会社スカイテック顧問。三洋電機株式会社で全社の情報システム企画を担当後、京都情報大学院大学教授に就任。IT教育に従事している。
磯田絵理香(いそだ・えりか)さん
横浜市役所市民局オリンピック・パラリンピック推進課。英国代表チーム事前キャンプ担当として、準備・運営業務や、業務外では英国との交流創出に取り組む。
橋本成年(はしもと・なるとし)さん
宝塚市役所窓口サービス課係長。市民活動としては2013年に一般社団法人宝塚まち遊び委員会を立ち上げ、現在も理事として活動中。
坂東さん「仕事では、社会課題解決のために事業の立ち上げをしています。普段、実際に活動している人と繋がる機会はほとんどありません。実情を知りたいと思い、モリゼミに参加しました。
研究内容を聞いて感じたのは、どの国も『危機感』がベースにあったことです。どの国も危機感に突き動かされ、試行錯誤を重ねた末に今の形ができたのだと分かりました」
福丸さん「僕は現在ロンドンに滞在しており、社会とのつながりの薄さを感じていました。他者とつながりたいと思ったのが、モリゼミに参加したきっかけです。海外の事例を学んでいく取り組みはよく聞きますが、日本への実装まで検討しているところに惹かれました」
現場で生きる人たちとのつながりが欲しい。坂東さんも福丸さんも、企業にいるからこその悩みを抱えていたようです。
モリゼミを通じて、自らの経験への理解が深まってきたという方もいます。
金城さん「私は一年前にオランダとデンマークを訪問しました。モリゼミの経験を通して、自分が現地を訪れて感じた感覚に深みが増していった気がします。
特にモリゼミで出てきた半径30㎝革命という言葉は、私の心に深く刻まれました。大きなことを実現するのは難しいけれども、いろんなステークホルダーが集まれば、小さなことからでも変わることができると思いました」
上田さん「私はIT企業に32年間勤め、定年退職後は専門職大学院で教師をしています。以前から日本行政のIT化の課題を感じていて、フォーラムを聞いてモリゼミへの加入を決めました。
私自身はあまりお手伝いができなかったのですが、短い期間で発表まで漕ぎつけるメンバーの熱量と行動力が凄まじかったです。いろんな考えを聞けて、勉強になりました」
上田さんは、行政とは遠い場所に居ながらも、参加を決めた一人。多様な考えを知ることができたと話します。一方で磯田さんは、市役所での業務から他国へ関心を持つようなったそうです。
磯田さん「私は市役所で働いています。仕事で年金の仕事をするうちに、日本の年金制度に疑問を持ち、他国のことも勉強するようになりました。一人で勉強する限界を感じていた頃、モリゼミと出会いました。
4つの国に共通して感じたのは、もともとの環境による部分が大きいこと。課題に対して、冷静に、かつ情熱をもって進めていたから、現在の姿になったのだと感じました。会社や組織にとっても重要ですよね。できることからやってみることが大切だと改めて気付きました。
またオンラインの場の可能性も感じました。オンラインだと目的をすり合わせるのも難しいし、一人一人のパーソナリティも分かりづらいですが、心理的安全性を保ち、深い対話がしっかりできれば十分に可能なのですね」
坂東さん「違う会社や文化の人たちと会話を紡ぐのは難しいし、『共通認識』があるのは大事ですよね。モリゼミでは自然にできていたように思います」
それぞれの立場から課題を見出した皆さん。モリゼミが学びや出会いの場となったようです。
「共通認識」の大切さ
感想の中には、オンライン上のコミュニケーションについても、多く寄せられました。これを受けて山田さんから、「チームビルディングで気を付けていたことはありますか」と質問が。各ゼミ長がそれぞれの考えを話しました。
高野「最初はきつかったです。でも、TAの小倉さんが面談してくれたり、オンラインに慣れている山田さんがサポートしてくれたりしたので、不安はありませんでした。メンバーとオンラインで雑談を重ねるうちに、本音で話せるようになった気がします。
特に意識していたのは、共通の目的を持つことです。メンバーそれぞれバックグラウンドは違いますが、ゴールを共通認識として持てたことが大きかったと思います」
白川「オランダチームも手探りでした。『多様性』の言葉のもとで、ふわふわとした認識で集まったチームだったため、アウトプットも最後まで決まりませんでした。
オランダチームが加速したのは『learning by doing』というキーワードが出てきたあたりでした。コアな部分が決まったことで、グン!と加速したように思います」
台湾チームもオランダチームも、ゴールや軸を決めることで対話を深めたとのこと。
渡辺「エストニアチームでは、1回4~5時間にわたるミーティングを続けていました。決め事を設けずに、議論が理論になるまで、考えていること、期待していること、存分にぶつけ合いました。
オンラインでの以心伝心は難しいけれど、人を信じて頼って委ねることで、物事が進むこともあるんだなというのは、モリゼミでの大きな学びでした」
エストニアチームは、議論が白熱しすぎて、日を跨いでしまうこともあったんだとか。熱意を持って議論していたことが分かります。
小倉「デンマークチームとしては、はじめにコミット度合いを決めたのがよかったと思います。初回にそれぞれのかかわり方を宣言しました。山田さんをはじめ、メンバーの方々が、私に最終的に任せてくれたのも大きかったです」
山田さんからは、「モリゼミは仕事とは違う場ですから。主体的に活動していく人を応援していました」とメッセージが。ゼミ長たちが主体的に行動を起こしていたことが、功を奏したのではないでしょうか。
人と人との「繋がり」
さて、約半年間のモリゼミを通して、参加者の皆さんは今何を感じているのでしょうか?
山田「最近読んだ『問いのデザイン: 創造的対話のファシリテーション』という本にあった、『よい問いは仲間を作る。よい問いはコミュニティをつくる』という言葉が印象に残っていまして。モリゼミにも通じるところがありそうです。皆さんは今、自分の中にどんな問いが生まれていますか?」
金城「どんな条件があれば新しい変化が生まれるだろうか?です。
今あるピースの組み合わせかもしれないし、別のピースが必要かもしれない。変化を生み出すためには何をすべきか考えたいですね」
ここで山田さんが金城さんに質問を投げかけます。
山田「モリゼミで、何かヒントになることはありましたか?」
ピンときた、と金城さんは話しを続けます。
金城「森さんが、『キーパーソンとのつながりでプロジェクトの進行が変わる』と講義で話していたのが、今ふと思い浮かびました。一人ひとりをつなげる、つまり結ぶということができれば、次のステップに進めるかもしれませんね」
ここからは、『つながり』というキーワードをもとに話が膨らんでいきます。
坂東「オンラインコミュニティをつくるのって難しいことですよね。持続していくことが大事だと思います。緩いつながりも重要な気がしますね」
福丸「モリゼミは、メンバーの熱意がつながりを深めたように思います。チャレンジしようという思いが、皆に共通していたことも大きかったのではないでしょうか」
橋本「コミットされていた方は、皆さん自分の人となりをオープンにして、共有していました。知識を共有するのも大事ですが、個性を共有することができたから、最後までやり切れたのだと思います」
知識の共有だけでなく、その人の個性まで理解した深いつながり。オンラインの場で学びを深められた秘訣はここにあるのかもしれません。
ここで山田さんから、モリゼミの総括がありました。
山田「モリゼミで得た学びは、『オンラインコミュニティの可能性』『多様なメンバーとのゴール設定』『世界から何を学び、何を自分ごととして日本に生かすのか』の大きく3つに分類できそうですね」
参加者の皆さんは大きく頷いていました。
モリゼミでもらった勇気を胸に新たなチャレンジへ
そもそもモリゼミの目的は、日本での実装まで繋げることでした。最後に、今後どんなチャレンジをしたいか、皆さんに聞いてみました。
金城「今あるものと融合しながら、新しいものを作り出したいです。ステークホルダーの心と心をつなげて、変化を生み出すチャレンジをしていきます!」
橋本「私は公務員になった原点に立ち返り、選挙に出てみようと思っています。台湾チームの松田先生から『どうやったら政治が面白くなるかは候補者と政党にかかっている』と聞いて、背中を押されました。モリゼミでは本当に勇気をもらえた気がします」
白川「亀のようにゆっくりとしたスピードですが、モリゼミで励まされ、この1年で少しずつ変わってきたように思います。緩く頑張っていきます!」
高野「モリゼミでは、自分は何をしたいのか改めて考える機会をつくれました。2月からは転職して新しい職場になります。いただいた勇気を胸に、チャレンジしていきます!」
磯田「勇気という言葉に共感です。私もこれまで課題感を持ちつつも、具体的なアクションができずに悔しい思いをしていて。モリゼミで勇気をもらったことで、新しい挑戦を始めることができました。まずはつながることが大事だとわかったので、もがきながらチャレンジします」
上田「皆さんのチャレンジングスピリットに感心しました。私も新しいことにチャレンジしていきたいです!」
福丸「僕は今、グリーンモビリティに関心があります。今後は市民の人たちと議論を進めていきます!」
坂東「仕事で、データと3次元をつなげる大きなプロジェクトを進めています。皆さんに報告できるよう頑張ります!」
小倉「TAとして、ゼミ長として参加して、たくさんの学びを得ました。モリゼミというプラットフォームを横連携の場として、今後も活用していきましょう!」
皆さんに共通していたのは「モリゼミで勇気をもらえた」という言葉。オンラインながらも、心に刻まれる深いつながりができたようです。これからもモリゼミのコミュニティを大事にしていきたいという声が多く寄せられました。皆さんのこれからの挑戦に期待です!
次なるフィールドへ!
半年間、多くの出会いと学びが生まれたモリゼミ。これにて、世界の市役所をハックする!Season1にピリオドを打ちます。
世界の市役所をハックする!は、1月30日の公開会議を皮切りに、新たなシーズンへと突入します。Season2はどんな場になるのか、どんな学びがあるのか、今から楽しみですね!
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