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遠野モノガタリ

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柳田國男先生が明治43年に出版した「遠野物語」を、朗読用のやさしい言葉で書いたテキストです。少しずつ、各エピソードを順不同で掲載してゆきます。
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その二十 (没落前の不吉な予兆)

その二十 (没落前の不吉な予兆)

この凶々しい出来事の前には、実は数々の前触れがあった。

あるとき、男たちが馬や牛に食わせるための馬草を、あらかじめ積み置かれた中から引き出そうと、三ツ歯の鍬(くわ)で掻き回していた。

すると、馬草の下から一匹の大きな蛇が出て来た。

殺すな、と主の孫左衛門が云った。
だが、男たちは打ち殺してしまった。
すると。

殺した蛇のまわりの馬草の中から、おびただしい数の蛇たちが出て来た。
うねうねと、

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その十九 (孫左衛門と毒キノコ)

その十九 (孫左衛門と毒キノコ)

山口孫左衛門の家が、死に絶えた云われの話である。

ある日、屋敷の梨の木のまわりに、見慣れぬキノコがたくさん生えていたのを見て、男たちは食うか食うまいかと論議を重ねていた。

主の孫左衛門は、食わぬ方がよい、と皆を制した。
しかしその時、下働きの男が云った。

どんなキノコでも、水を張った桶の中に苧殻(オガラ)と一緒によくかき回してから食えば、決して毒に中(あた)ることは無い、と。

苧殻と云うの

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その十七 (ザシキワラシのこと)

その十七 (ザシキワラシのこと)

遠野の古い家には、ザシキワラシと云う神が棲んでいる家が、少なからずあった。
この神の多くは、十二、三歳ほどの子供であった。
時々、人に姿を見せることもあった。

土淵(つちぶち)村の、飯豊(いいで)にある今淵勘十郎という人の家で、近頃起こったことである。

高等女学校に入っている娘が、休みで家に帰って来たとき、廊下でばったりザシキワラシと出会った。
娘は大いに驚いた。
これは、間違いなく男の子だっ

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その十八 (ザシキワラシのこと)

その十八 (ザシキワラシのこと)

ザシキワラシは、娘の姿でも現れる。
先ほどの話(その十七)と同じ山口という所に住んでいた山口孫左衛門の家は、古くからある家だったが、そこには「娘の姿をした二人の神様が棲んでいる」と、昔から村に言い伝えられてきた。

ある年。
同じ村にいる男が、用事があって出かけた町から帰る途中、村では見かけない二人の娘と行き違った。
それは、留場(とめば)という、川から水を引く場所でのことであった。

水の上をか

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