つま怪談(第一夜)
あれは…
ある蒸し暑い夜のこと。(一昨日)
梅雨のその日は、とても暑く、ジトっとした空気が皮膚にはりつく、なんとも気味の悪い夜でした。
疲れ切ったその日、風呂場で髪を洗っていると、なんだか嫌な感じがしたのです。
「なんか…嫌だな。疲れてるからかな…。なんか嫌な空気だな。」
髪を洗いながらそんなことを思っていると、
キシ……キシ……
と何かが軋む音がします。
キシ…キシキシ…キシキシキシ……
次第にその軋みは激しくなり、遂には軋みで私の指が動かなくなってしまいました。そう、髪が軋むのです。頭を洗えば洗うほど、私の髪はたわしのような感触に変わっていき、キシキシと音をたてます。
「え…まって、なにこれ…怖い…なんで…いつも使ってるシャンプーなのに…どんどん軋む…」
私は止まらない軋みに、どんどん恐ろしくなってきました。
「まって、指が通らない…なにこれ……キシキシっていうか…もうギッシギシなんだけど……こわい…やめて…!」
ギシ……ギシ………ギシ………ギシギシギシギシッ………!
その軋みに私は半狂乱になりながらお湯をかけて髪を流します。疲れで一夜にして髪が傷んでしまったのか。それともこの風呂場に何か憑いているのか。
お湯で流し終わっても髪同士は完全に絡まり合い、肩ほどまである髪の毛が顎のラインでグチャグチャになってしまいました。これはおかしい。ダメージケアシャンプーをつかっているのに、これはどうにもおかしい。蒸し暑い風呂場とは反して私の背筋は凍ってゆきます。もしかしたら、今日つけたヘアスプレーのせいかもしれない。いやヘアスプレーのせいであってくれ、そうでないと背後や頭上が恐ろしくて身動きがとれなくなってしまう。上を見たら幽霊が覗き込んでいたらどうしよう!やめろそんな想像をするな!怖い!!怖い!!!!!
(どうかヘアスプレーのせいであってくれ!!!)
そう願いながら、ヘアスプレーを洗い流す2度目のシャンプーのためにボトルをプッシュし、頭にぶちまけた時に、わかってしまったんです…………………
あ、これボディソープだ、って。
つま怪談第一夜