突然母がいなくなった朝
ふと気づいたら家の中のどこにもいない
私が社員旅行に行くの日の朝
母が突然いなくなった
何度探しても家の中のどこにもいない
家の外も探したが見当たらない
家の中でも伝い歩きで
足元もおぼつかない母が
一体どこに行ってしまったのか
今までこんな風に
突然いなくなることもなかったので
全く想定外の出来事で
事故やケガの心配や
最悪の事態までもが頭をよぎる
社員旅行とはいっても
その年はいくつかある旅行先の中から
行きたい場所を選べたので
介護中の自分は海外ではなく
国内の1泊旅行にしたが
そこを選んだのは自分と
もう一人の女性社員のみの
2人だけの社員旅行だった
母がいなくなってしまった状況で
この社員旅行が3人以上だったら
迷わず私は不参加だが
今回は私が行かないと
相手が一人でいくか
あるいは
私のせいで相手は行かなくなるかもしれない
私が行ったとしても
もしものことがあったら
すぐに帰ってこなくてはならない
そんなことを頭の中で
とめどなく考え
迷いに迷ったが
「大丈夫だから行ってきな」と
父が言ってくれたので
後ろ髪を禿げそうなくらい
激しく引っ張られるような思いの中
私は出かけることにした
旅行の待ち合わせ場所に到着して
社員旅行の相手には
せっかくの旅行気分を壊すのも悪く思い
今朝母がいなくなったことを
深刻ぶらずに、さらりと伝えた
そして結局、母の安否が確認できたのは
その日の午後になってからだったと思うが
母は自宅近くの公園に歩いていき
そこで転んで
顔の半分をすりむいて
誰かが呼んでくれた救急車で
病院に運ばれ処置をうけ
命には別状がないことが確認できて
そこで私はやっとホッとすることができた
それで社員旅行も予定通り
無事に続けられることになったが
「もう私とは旅行には行かない」と
社員旅行の相手から嫌がられるくらい
母の安否がわかるまで
私は何度も何度も家に電話をかけて
母の安否を確認していた
介護をしているので
何かが起こる可能性は
いつも考慮していて
社員旅行に行く日の朝という
よりによってなぜこのタイミングで
とも思える出来事だったが
それ以来
何かを決める際には
周りに与える影響も
今まで以上に慎重に
よくよく考えて決めるきっかけとなった