【小説感想】 狼少年の本心
はつみさんのショートショート『狼少年』を面白く読みました。
Twitterによれば、
とのことなので、届くかどうかはこの時間でわかりませんが、個人的に思うところを書いておきます。
まず、書き出し。狼少年といえば普通は「嘘つき少年」を指しますが、この書き出しはその意表を突いて、こう来ます。
「オオカミが出たぞー」
いじめっ子たちにからかわれた少年は、なきじゃくりながら家に帰って来た。
文字どおり少年が狼(と人間とのあいだにできた子)だからこそ人間のいじめっ子たちにからかわれ、逃げ帰ってくる。この意外性が面白いです。
欲を言えば、紙幅が許すなら、もうひと言いじめっ子のセリフがあってもいいかもしれません。オオカミが出たぞ、と言われるだけで少年がいかに傷つくのか、読者が想像するには多少の飛躍が必要になります。
また、個人的な好みもあるので一概にはいえませんが、補助動詞としての「帰って来た」の「来る」は、ひらがなに開いて「帰ってきた」としたほうが読みやすいかもしれません。もちろん「移動する」という意味での補助用言「行く」や「来る」については漢字のままにする、とするプロの作家の方もいらっしゃったりしますので、本当にもう、人それぞれですが。
「なんでママは人間なのに、パパは狼なの?」
でなきゃ僕は皆と同じだったのに。後ろ暗い問いかけに母は笑った。
三人称の主語「少年」を中心に展開する作品ですが、ここで地の文に主語「僕」で埋め込まれたセリフが効果的ですね。ここは実際に発声しているのですが、「後ろ暗い問いかけ」だからこそカギカッコの外に出して、後ろめたさ、控えめさが描写されています。
(ちなみに「私論」第三章では「地の文話法」と呼称している部分です。説明すると長くなるので割愛します)
技巧的な部分でいえば、Twitterでもはつみさんが悩んでおられた部分。
スーツ姿のパパは、毛皮のせいで汗も臭うし、革靴だってブカブカで、正直ダサイ。
「でも」
「でも?」
「やっぱり格好いいかも」
この最初の「でも」の出どころが、坂るいすさんが既に指摘されているとおり、若干迷子になってしまうというか、やや弱い印象を受けました。
個人的には、先ほどせっかく地の文で「僕」のセリフの吐露があったので、ここも、
スーツ姿のパパは、毛皮のせいで汗は臭うし、革靴だってブカブカで、正直ダサイ。でも。
「でも?」
「やっぱり格好いいかも」(マイナス1行)
としたほうが、あるいは通りがいいかもしれません。ちなみに「汗も」は個人的には「汗は」としたくなります。「だって」と重なると「も」がうるさく感じてしまうんですよね。人それぞれ、好みの問題ですが。
また、夜行性のはずのお父さんが平日の昼間サラリーマンとして働いているということは、目の下にクマを作っていたり、本来活発なはずの夜に月を見ることもできず眠りこけていたりすることになります。だからこそ、一匹狼だったころの覇気が見られない。
とすると、
「全然格好良くないよ。昼間なんていつも寝てるじゃん」
この部分の矛盾を解決しがてら、
「全然格好良くないよ。休日の昼間なんていつも寝てるし」(プラス1文字)
としたほうが、あるいは「くたびれていて覇気がない(でも、だからこそ格好いい)お父さんの背中」を出せるかもしれません。
一案ですが、
スーツ姿のパパは、毛皮のせいで汗は臭うし、目の下にはいつもクマを作っていて、正直ダサイ。
としてみるのはいかがでしょう。
直前のこととて読み込みも浅くて恐縮ですが、少しでも参考になれば幸いです。