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ライブレポ『Hayami Saori STREAMING LIVE “glimmer of hope”』

 配信当日に書いてもよかったのだが、アーカイブ配信の期限が1月3日いっぱいまでだったので、ネタバレを避けるために配信が終了してから書くことにした。いま、配信終了間際の最後の悪あがきで、もう何度目になるかわからないアーカイブ配信を聴きながらこれを書いている。

 生配信中、急いでスマホでメモしたセットリストがこちら。

1.yoso
2.メトロナイト
3.水槽
4.瀬戸際
5.ESCORT
6.mist
7.ザラメ
(MC)
8.ブルーアワーに祈りを(弾き語り)
9.祝福(弾き語り)
10.やさしい希望 Bossa Nova
11.Akasaka5
(HAYAMinst.?)
12.LET’S TRY AGAIN
13.Jewelry
(MC)
14.garden
15.glimmer

 約90分のストリーミングライブということで、MCを除けばほぼノンストップで歌い続けていたタフなライブだった。しかし「JUNCTION」ツアー東京国際フォーラム公演で若干ながら見られたようなスタミナ切れは今回ほとんど感じず、終盤の「garden」「glimmer」に至るまで凄まじい歌唱力で圧倒させられた。稀有な歌姫だと思う。

 初っ端から大好きな「yoso」「メトロナイト」「水槽」「瀬戸際」というアーバンで大人なシティーポップの固め撃ちで痺れた。跳ねるような軽やかなエレピが印象的な「yoso」、間奏のゴリゴリのベースのスラップが格好いい「メトロナイト」、エレキギターの力強いリフが小気味よい「水槽」、そしてスラップが多用される洒脱なベースのグルーヴが心地よい「瀬戸際」と、曲ごとの演奏の個性も際立っていた。前半のテーマはバンド感。円形のステージで早見さん含むバンド五人が輪になって並び、互いに視線を交わしながら息ぴったりの演奏となっていた。「瀬戸際」が早見さん自身の作詞作曲であることに改めて驚く。

 続く「ESCORT」は静かでジャジーな雰囲気。なんといっても温かみのあるウッドベースが大活躍だった。こういうのを見ると、高い敷居だが自分でもウッドベースをやってみたくなる。デビュー当時から歌い続けているというだけあって、早見さんは熟練の歌いこなし。ウォーキングベースの上に乗せる歌声のリズム感が最高だった。彼女の真価はなんといってもジャズにある。日本でも第一線級のジャズシンガーだと思う。もうこの辺りで涙腺が緩み始めた。

「mist」は早見さんの背後に映し出される歌詞のムービーも込みで美しい一曲。自身の作詞作曲だけあって、言葉も大切にされているさまが見て取れる。出版屋としては、ムービーのフォントが曲にぴったりで素敵だったのも感銘を受けた。

 アコギとウッドベースのアコースティックな音が心に染み入る「ザラメ」で、早見さんが円形のステージを降り、客席のほうへ迫り出した花道を歩き出す。まるで「ザラメ道」を歩くように、ゆっくり、ゆっくりと。幻想的な印象だった。それまで円形の小さなスタジオだとばかり思っていたステージは思いのほか広く、早見さんを明るく照らすスポットライトの下に影になって覗くのは、無観客なのがもったいないくらいの客席だ。早く、あそこを埋めたい。自分のその一員となりたい。そう痛感した。

 バンドから離れて花道の先には、グランドピアノが一台。ここでようやくMCを少し挟んだあと、ピアノ弾き語りで「ブルーアワーに祈りを」「祝福」が披露された。推しの出す音と声だけが聞こえるという至高の時間。少なくともファン歴の浅い私は聴いたことのない、初披露の弾き語りだった。

「ブルーアワーに祈りを」は声の伸びが気持ちよい一曲。原曲の感じをピアノ一台で鮮やかに表現してみせるのだから凄い。

 そして、タイトルコールする前の前奏で、独特のコード感から「祝福だ!」と気づいて、あまりの意外さにひっくり返りそうになったのが「祝福」。このライブでは新譜の「mist」があるので、なんとなく印象の被る「祝福」がセットリストに入ることはないだろうと踏んでいたのが、見事に(良い意味で)裏切られた。大好きな曲である。
 なにせ、原曲は早見さん自身の作詞作曲による、癖の強いシューゲイザーなのだ。声優が歌う曲とはまるで思えない。しかし、ウィスパーボイスの表現力などは、まさに声優ならでは。弾き語りアレンジはシューゲイザーではなくしっかりしたバラードという趣きで、デモ音源の段階では早見さんの頭のなかでこのような音が鳴っていたんだろうなあと興味深く感じた。間奏では原曲同様、パッヘルベルのカノンへのオマージュも。

 再びバンドが加わって「やさしい希望 Bossa Nova」。やはりウッドベースが気持ちいい。この曲も静かにウィスパーボイスで歌われる部分があり、この辺りでそろそろ早見さんの喉が心配になってくる。声を張るよりも、ウィスパーボイスのほうが案外喉に負担がかかるものだ。しかし、そんな不安はなんのその、早見さんはサラリと歌ってしまう。すごい。

 散歩にぴったりの「Akasaka5」は跳ねるようなエレピが軽やかで、楽しい気分になれる曲。楽しげなはやみんが可愛い。隣に妻がいたというのに、思わずニヤついてしまう。

 このあと曲間に、メンバー紹介を兼ねて各パートがソロを張るジャムセッションのインスト曲が入った。かなり疾走感のあるロックだ。初めて聴く。キーボード・角脇真さんの「夢の果てまで」のフレーズを織り交ぜるサービス精神にグッときた。ファーストアルバムのツアーで披露されたインスト曲は「HAYAMinst.」と命名されていたが、今回のも同じように呼んでよいものかどうか。

 ここから早見さんは白いドレスに衣装替え。バンドメンバーが横並びとなり、通常のライブのように客席に向けて歌い上げる「LET’S TRY AGAIN」と「Jewelry」は、こんなご時世だからこそ前向きなメッセージが胸に響く、元気づけてくれるセクションだった。

 希望、マゼンタ、恋と夢
 諦めない強さ
 もうこどものままではないけれど
 宝物は変わらない
 大丈夫
 信じることがパワー
            「Jewelry」(作詞:早見沙織)

 そしてMCを挟み、ライブは新譜を象徴する2曲で締めに。

「garden」は、私が崇敬する天才・冨田ラボ編曲のシティーポップ感がしっかり出つつも、原曲にあるストリングスを同期で流すこともなく(私の耳で聴いた限りでは)、ライブならではの生きたグルーヴ感がある幸福な演奏だった。目をキラキラさせて幸せそうなはやみんが、とにかく可愛い。隣に妻がいたというのに(略)

 ラストを飾った「glimmer」はもう、圧巻のひと言。先にも書いたようにスタミナ切れがほとんどなく、しっとりと、かつ力強く壮大に歌い上げるさまは美しく、神々しくさえあった。重層的なハーモニーが印象的な原曲の音源もいいが、ヴォーカルが一本しっかりと通るライブ版のほうがより深く感動した。原曲より多く音を足したギターのアレンジも良い。
 なんといっても白眉は、早見さんの切なる祈りの声だけが響き渡るクライマックスのアカペラの部分だろう。原曲では演奏が止まることなくほぼリズムそのままで流れていく部分だが、ライブでは演奏が止まってリタルダンドをかけ、丁寧に丁寧に言葉が刻まれていく。

 遠い空から光はそそぐ
 きっと きっと きっと いつかは
 指に触れるから
            「glimmer」(作詞:早見沙織)

 ここに至り、涙腺が持ち堪えられるわけもない。
 演奏終了後はMCもカーテンコールもアンコールもなく、静かにタイトルが画面に映し出されて閉幕となった。あくまで徹頭徹尾「作品」として一本のライブを作り上げていた印象だ。声優のライブといえばMCも込みで需要がありそうなものだが、あえてそうせずに音楽にこだわるスタイルが私は好きである。

 早く、早く生でライブを見たい。
 改めてそう渇望しつつ、多幸感のある素晴らしいライブだった。


 

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