アルティメットデスゲーム:予告編【アルティメットジャンケン二次創作】
※この予告編は、今年のエイプリルフールに投稿しようと思い立ち、書いていた物ですが度重なる体調不良によって時期を逃した物となります。
※この作品はいぬころすけ先生作「アルティメットジャンケン」及び「アルティメットお遊び」の二次創作に当たるものとなります。原作者様とは一切の関係ありません。
(読み上げを開始する)
この世には、ありとあらゆる神がいる。
だから遊びを司る神も当然いる。ジャンケンの神、すごろくの神、鬼ごっこの神……。そして私は、デスゲームの神だ。
デスゲーム。それは参加者の命を脅かす危険な遊び。
迫り来る死と絶望を前に、参加者は皆、内なる本性を曝け出す。
デスゲームの神である私は、生命の死と再生を可能とする。
ゆえにどんな生物も、私の前には等しくオモチャだ……。
灰色の天井、灰色の床。灰色の壁には扉がある。だが窓はない。寒くもなく、温かくもない。時間を伝えるものは何もない。無機質な正方形の中に、6人の男女が寝かされていた。
1人ずつ、目を覚ましていく。知らない空間の中で。
まず起き上がった男はヒーローだった。全身タイツの上、星の意匠をあしらったプロテクターを着込み、赤いマフラーを巻いている。ヒーロースーツに身を包んだ男。彼は困惑しながらも、真っ先に眠りにつく者たちの心配をしているようだ。
次に目覚めた男は、あからさまな悪人面であった。
高そうなスーツに包まれた巨体の男は、目が覚めると同時に怒り出し、ヒーローへと食って掛かっていった。青筋を立てて眉間に皺を寄せ、顔中に刻まれた傷跡が震えている。ヒーローはいきなり襲い掛かる男に驚きつつも、懸命に声をかけて落ち着きを促している。
二人の女性たちは同時に目を覚ました。
全く同じ色の袴と白衣に身を包んでおり、顔立ちはよく似ている。恐らく姉妹だろう。
見知らぬ男たちを睨みつけ、黒髪の女が何やら声をかけている。この状況下でも全く物怖じする様子が見られない。気の強い女と見えた。もう一人の白髪の女は何も喋らず、黙って周囲を警戒していた。
ヒーローより、極悪人より、更に身体の大きい男が目を覚ました。
タンクトップとハーフパンツですらはち切れそうなほどの、圧倒的全身筋肉。顔の皺を見る限り、決して若くない年齢だろう。だが彼の肉体はこの場の誰よりも逞しく、エネルギッシュ。彼は上半身をゆっくりと起こし、言い争う三人の元へ集まっていった。怒れる極悪人も、黒髪の女も、この膨れ上がった筋肉に一瞬圧倒され言葉に詰まったようだ。筋肉男は豪快に笑う。
最後の一人が目を覚まし、起き上がった。前髪のみを染めている若い男。他の男たちと比べたら随分と頼りない体格。
彼は立ち上がり、声を発さず、まず周囲を見渡し始めた。部屋に集う初対面の者たち。その特徴。部屋の様子。扉が複数ある事を知る。部屋の一面にまず一つ。その対角線、何故か部屋の天井に沿うように逆さの扉が一つ。まともには利用不可能な位置に取り付けられている。そして……地面にもう一つ、埋め込まれた扉があるようだ。取っ手がついてある。彼はそれに手を伸ばした。
白髪の女性が声をかける。いつの間にか、女は男のすぐ側まで迫っていた。男は恐怖した。
(マイクのスイッチを入れる)
ようこそ、6人の紳士淑女たち!
君たちは私に選ばれた参加者だ!これよりデスゲームを開始する!
舞台は用意させていただいた!
参加者である君たちは9つの部屋を攻略し、脱出しなければならない!
部屋には仕掛け人を配置してある……弱き者をむさぼり食らう、危険なモンスターたちだ!奴らの猛攻を潜り抜けた先に出口がある。見事脱出して見せよ!
安心するがいい。例え死んだとしても問題ない。
神の力によって、君たちは何度死んでも蘇る。何度でも挑戦し、足掻いて見せるがよい。見事舞台から脱出した者には「死んだ者を一人だけ生き返らせる権利」をやろう!
だが……このゲームの攻略は非常に難しい。
何度蘇ろうとも、クリアを阻むモンスターたちの力に敗れ、心が折れるかもしれぬ。私は寛大だ。君たちが今集うその部屋にも、出口を用意しておいてある!デスゲーム攻略を諦めるならば、その床に設置してある扉を開け、脱出せよ。
ただし……脱出出来るのは「一人だけ」だ。そして報酬も得られない。参加者のうち一人だけが、リタイアを選ぶ権利を得られるという事だ!
(ナレーションを挿入)
デスゲームの神によって突如開催された、危険な脱出ゲーム。
集められた6人の男女はいずれも強者。
時に争い、時に協力し合う曲者ばかり。
襲い来る仕掛け人を前に、臆する事なく攻略を目指す……。
だが「神」の仕掛けた罠は。
そんな彼らの心をも飲み込み、蝕んでいく――
『極悪非道』 ビッグボス
「ここに出口があんのやろ?……ならワシがここから出る。それでこのクソゲームは仕舞いじゃ」
ビッグボスは躊躇なく部屋の中央へと踏み入ろうとする。中央には出口Ⅰの扉がある。一人だけがそこから出られ……出られなかった全員が死ぬ出口。5人の目つきが変わった。彼らの突き刺すような視線を前に、しかしビッグボスは動じない。
「なんや文句あるんかおどれら……ワシに逆らう気か?」
1人がそこから一歩踏み出し、口を開いた。
「ぜ……全員で挑めば、全員で帰れる。協力し合お」
「逆らう気かって聞いとるんじゃあ!!」
恫喝!恐ろしくドスの利いた声が部屋中に響く!怒りで引き攣るビッグボスの顔面は魔除けの鬼瓦のように歪んでいた。だが彼は引き下がらない。
「ボス。あんたは身体もデカいし強いんだろ?あんたの力が必要だ。頼むから……」
「やかましいんじゃあ!」
ビッグボスが拳を振り上げ、殴りかかる!
マーカーに避ける術はなく、顔面を打た部屋の壁際まで吹き飛んだ。
『根性』 マーカー・ナーソー
「お……俺には、勝たなきゃいけないわけがある」
鼻血の垂らしながらマーカーは起き上がった。ビッグボスの正拳突きをまともに受け、意識を保つのもやっとのところ。決意と根性だけがマーカーを支えている。
「病気の妹が……いた。いたんだ。妹にまた会いたいんだ」
マーカーは千鳥足になりながらもビッグボスの前に立った。
その目は真っすぐにビッグボスを見つめている。極悪人の恫喝が止まった。鼻血で染まった顔面に似合わぬ、生きた瞳を前に言葉を詰まらせたのだ。
「だから俺はこのゲームに勝たなきゃいけない!死んだ人を生き返らせる事が……出来るなら!」
恫喝の声よりも更に大きく響く、根性の言葉!
「妹が待ってるんだ!」
『瞬間移動』 フラッシュスター
「もう止めるんだ!はっきり言おう!出口Ⅰを巡っての争いは無意味だ!」
フラッシュスターは声を張り上げ、マーカーを庇う様にビッグボスの前に立った。体格はビッグボスが上回る。だがこのヒーローは少しも極悪人を恐れてはいない。
「おどれこのヒーロー気取りが!お前もワシに逆らうか!」
「私はヒーローだ!気取りではない!私の名前はフラッシュスター!」
「知らんわ!」
「私の活躍を知らないのか!?……ま、まあそれはいい。もう一度言おう。争いは無意味だ!何故なら」
「やかましいわーっ!」
ビッグボスの剛腕がフラッシュスターに襲い掛かる!極悪人がまた一人、参加者を傷つける!
……だがそうはならなかった。拳は空を切っていた。ヒーロースーツを着込んだ謎の男は、一瞬で極悪人の視界から消えたのだ。ヒーローは、極悪人の背後を取っていた。一瞬の出来事。参加者の全員がその魔法じみた現象に驚愕する。
「お、おどれ……」
「今のでわかったか。私は『瞬間移動』の超能力を持つ。これがどういう事かわかるかな?」
「ぐ……」
ビッグボスは振り向き、拳を握りしめながらフラッシュスターを睨みつける。だがもう手は出さなかった。無意味と悟ったのだろう。フラッシュスターは話を続ける。
「君がどれだけ暴力を振るって我々を襲い、叩きのめしたとしてもだ。君が出口Ⅰの扉を開けた瞬間に私は、超能力を使う!そうなれば私だけが脱出し、君は出られない。それでもいいのか?」
「おどれ……自分からベラベラと手品のタネ明かしおって……!」
「私は今、自分の能力を隠す必要は無い!何故なら私はヒーローとして、ここにいる全員を助け、脱出する事だけを考えているからだ!」
ゴーグルとヘルメットに覆われ、表情は見えない。だがこの男は冗談でヒーローの恰好をしてるわけではない。真剣だ。マーカーはそう感じ取った。
「先の部屋へ行こう!全員で!どんな仕掛けが待っていようと、私は戦う!」
『降霊術』 三葉
「どうしてもその男が動かないのなら……私も残る」
声を発したのは白髪の女……三葉だった。黒髪の二葉は三葉の少し後ろに立ち、参加者の動きを警戒している。
「私は二葉姉さんと一緒に脱出する。絶対に。だからその出口Ⅰは使わせない」
「何やこの小娘……お前がワシの邪魔しようってか!勝てると思っとんのか!」
女が舐めた口を!と言わんばかりに、ビッグボスの怒気も一層膨れ上がっていた。だが三葉はこのビッグボスの恫喝に少しも怯む事はない。極悪非道の大男に対し、微塵も恐怖を感じていない。
「私に一度ボコられれば、力関係がわかるでしょうね」
「おーおー、言うわ小娘が。上等じゃ。出来るもんならやってみ」
既に三葉は駆け出していた。ビッグボスが喋り終わる頃には、三葉の跳び蹴りがその顔面へと突き刺さっている!
「うぐっ!」
その威力で勢いよく吹き飛ばされる極悪人の巨体。三葉は着地と同時に猛ダッシュし、追撃の拳をその鳩尾へと叩き込む!
「うげぇっ!」
ビッグボス、悶絶!あまりに俊敏かつ華麗な動きに、参加者全員が驚嘆する。
「つ、強い……」
「おお、よく鍛えられているな!」
フラッシュスターは思わず唸った。大宮はその技前を賞賛した。若い女性の動きとは思えぬ鋭さ、華麗さ、無駄の無さ。
「私は格闘技が使えるの。あなたの大雑把な暴力なんか通じない」
姉の二葉はニヤリと笑っていた。あれが三葉の持つ霊能力。あの世から霊を呼び出して憑依させる降霊術だ。霊視の出来る二葉には、三葉に取り憑く格闘仙人の霊(故101歳)の姿がはっきりと見えていた。
『ポルターガイスト』 二葉
部屋のカギを探す間も与えぬかのように、地底人たちは次々と3の部屋に侵入してくる。
この異形の仕掛け人たちは一体一体が強く、参加者たちは苦戦を強いられていた。大宮が豪快な拳で地底人を吹き飛ばす。フラッシュスターが瞬間移動を駆使しながら応戦している。二葉は他の参加者の動きを警戒しながら、複数の地底人を見据えていた。
(こんなところで体力使ってられねーぜ!)
二葉は脱力したように立ち尽くしている。一見無防備な姿勢。地底人たちは容赦などせず、一直線に二葉と三葉を同時に狙った。
「あ……あれは……」
マーカーは根性で地底人の攻撃に耐えながら、見ていた。
二葉が両手首に着けていた数珠を取り外し、地面にバラまく。それら一つ一つが宙に浮き、姉妹を取り囲んで守り始めたのだ。物理法則を無視した奇妙な光景……マーカーにはそう見えている。だが見えぬ者を視認出来る力を持つ者であれば、見える。
二葉の背後に浮かぶ怪しげな幽霊が、数珠を両手いっぱいに抱えて構えている姿を!これが二葉の持つ霊能力、ポルターガイストだ!
(地底人なんざオレの敵じゃねーんだよォ!)
数珠が一斉に地底人を目掛けて飛んだ。強烈な勢いで飛び交う数珠一発一発は、毛に覆われた地底人の身体を怯ませ……倒していく!更に地底人の出土した地面の破片なども浮かび上がり、躊躇なく地底人の頭を勝ち割っていく。倒された地底人の身体までもが浮かび始めた!
『筋肉』 大宮利通
押し寄せる地底人の群れは、恐らく無限に沸いてくるものだろうと、参加者は皆予測していた。連戦に次ぐ連戦の中で、さしものフラッシュスターも消耗が激しい。マーカーは根性で耐えているが、その消耗具合は明らかだった。
二葉が部屋中をポルターガイストで弄るように探す中、大宮は参加者たちを守りながらただ1人、迫る地底人に立ち向かっていた。
「無駄だ地底人たちよ!私の筋肉は決して突破出来ないぞ!」
鋭い爪と強靭な身体を持つ地底人は、何度も大宮の拳によって殴り飛ばされ、時に投げ飛ばされ、時に絞め落とされていった。何十人もの地底人との連戦にも関わらず、大宮に消耗は見られない。圧倒的である!
「あんた……強いな……」
マーカーが息も絶え絶えになりながら、大宮の背後から感嘆の声を漏らした。その広背筋は逞しく、背中に羽が生えているかのようだ。
「皆、安心したまえ!私は筋肉神に見守られている!どんな相手だろうと決して負けはしない!」
そして少し変わった男のようだ、とマーカーは思った。
「二葉さん!カギは!?」
「催促すんじゃねえ!今見つけた!」
フラッシュスターが促すと同時に、二葉の霊がポルターガイストで既にカギを回収し、3の部屋の出口のドアに差し込んでいた。
カギは地底人が隠し持っていた物だ。それも、一番最初にこの部屋へ侵入してきた3人の地底人。奴らの身体を探って見つけた物だった。つまり、最初からそれに気づきさえすれば、戦闘は最小限で済んだ……。二葉は苛立つ!無駄な時間を!
「さっさと瞬間移動しろ!」
狭いドアへ4人同時に群がれば、背後から地底人に襲われる危険が高い。安全に3の部屋を出るなら瞬間移動が適している。
「よし!集まれ!……瞬間移動!」
フラッシュスターは4人全員で出口のドアの前まで瞬間移動し、そして4の部屋へ、全員で雪崩れ込む!
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参加者がまず見たものは、空。4の部屋には天井が無い。
晴れとも曇りともつかぬ不気味な空模様がそこにあった。ここは現実の空間ではないのか?
部屋の中には……誰もいない。何もない。仕掛け人は部屋の中に……いない。
空の広がる空間の外から、巨大なドラゴンが姿を現し、こちらを見ていた。ああ、こいつが仕掛け人だと、参加者全員が直感する。ドラゴンはその口内に灼熱の火炎を溜め込み始めた。あと数秒で、この部屋は焼き尽くされる。
「皆!!私の後ろに隠れろ!!」
大宮は一塊の参加者たちから一歩踏み出し、両手を広げた!地底人から皆の身を守った時と同じく、今度はあのドラゴンから身を守ろうというのだ!ドラゴンの繰り出す、火炎の息吹から!
無理だ!マーカーは叫ぼうとする。だが大宮は叫び続けた。
「筋肉に不可能は無い!」
広げた両手は握り拳となり、両腕は徐々に弧を描き始める。上腕二頭筋が隆起し、石のような力こぶが浮かびあがる。全身の筋肉が起き上がり、引き締まり、一つの壁となってドラゴンの眼前に立つ。ダブル・バイセップス。大宮が最も好むポージング。
「筋肉神よ!我に力を!」
火炎弾が放たれる。4の部屋は火に包まれた。
デスゲーム!それは裏切り!
「ああああああああああっ!?」
「えっ……どういうつもり?何をしているの!?」
マーカーの衣服が突如燃え上がる!三葉も流石にこの暴挙には動揺を隠せなかった。どう見ても自殺行為!
「ほれ、焼け死ぬ前にさっさとあの小娘にかかっていかんかい!」
三葉は気づいた。ビッグボスの手には、ライターが握られている事に。マーカーの背後からこっそりと衣服に火を点け、彼を火だるまに変えたという事。そして……今からビッグボスは三葉にとって最悪の戦法を仕掛けるという事!
「火だるまでかかれば、小娘がどんだけ強くても勝ち目あるやろが!安心せえ、なんぼ死んでも蘇られるんやし、頑張って小娘に勝てば出口から出られるで?ほれ、根性みせえや!」
極悪な笑みを浮かべ、燃え上がるマーカーを囃し立てるビッグボス。まさに極悪非道。マーカーに特攻を仕掛けさせる事で三葉を撃退し、脱出する作戦か。マーカーが特攻を拒否し死のうとも、何度でも蘇るマーカーをその都度捕まえればいい。極悪人は己の非道を自画自賛した。
「あ…あ…ああああこ……こ、こ、根性ォォォォォ!!」
マーカーが走り出した!三葉に向かって、火の塊となって飛び掛かる!ビッグボスもその後を追うように歩を進める……!だが三葉は新たな霊を呼び出し、すでに憑依させている!
「憑依……『一流ピッチャーの霊』!」
デスゲーム!それは極限の愛!
(三葉ちゃん、よく聞け)
幽体離脱し、宙を漂う二葉と三葉。こうすれば周囲の参加者に聞かれる事なく話が出来る。参加者の中に霊が見える者はいない。
(オレだけが先の部屋に行くが、部屋の様子がわかったら戻ってくるぜ。幽体離脱を利用すればすぐ戻ってこれるはずだ)
(わかったわ二葉姉さん。出口Ⅰは私が守る)
(……それとだ)
二葉は神妙な面持ちで三葉に語り掛けた。
(オレがもし戻ってこなければ……戻ってこれないと判断したら。すぐに出口Ⅰから出ろ。いいな)
(……え?)
(いいか、絶対だぞ。もしもの時は三葉ちゃんだけでも助かるんだ。いいな?一葉姉さんと四葉ちゃんによろしく言っといてくれよ!)
(二葉姉さん、何を言ってるの!?)
「さっさと行くぜお前ら!もたもたしてんなよ!」
二葉は言い終えると幽体離脱を止め、自らの足で立ち1の部屋を出て行った。他の者も後へと続く。1の部屋に残るのはビッグボス、そして三葉の二人のみ。
「……二葉姉さん!」
三葉が叫んだ。すでに二葉は部屋の向こうだった。
デスゲーム!それは抵抗!
「フンッ!フンッ!フンッ!」
部屋を殴る。部屋を殴る。部屋を殴る。大宮は1の部屋に戻ってきてから、がむしゃらに部屋の壁を殴り続けている。拳が壁にめり込むたびに部屋へ衝撃が走る。凄まじい力だ。だが壁はほんの少しヒビが入るばかり。
「フンッ!フンッ!フンッ!」
「さっきからうるさいんじゃデカブツ!」
ビッグボスの恫喝にも耳を傾けない。大宮は部屋を殴り続ける。
「な……何をしているんだよ、あんた」
たまらずマーカーが訳を問い質した。大宮は振り向き、応える。その拳から血が流れているのをマーカーは見た。
「壁を壊す!こっちの壁を壊せば一気に8の部屋まで向かう事が出来るだろう!」
「何言ってるんだあんた!無理に決まってるだろ!?」
「そ、そうだ大宮さん!止めるんだ!いくら貴方が逞しくても身体が持たない!」
フラッシュスターも流石にこの突飛な宣言に驚き、止めに入った。だが大宮は聞く耳を持たない。
「私には筋肉神がついている!不可能ではない!」
マーカーは直感した。大宮は今、嘘を吐いたと。拳の痛み、この極限状況下が大宮の表情を乱していた。マーカーはそれを指摘すべきかどうか迷った。大宮は再び壁を殴り始めた。
「フンッ!フンッ!フンッ!」
デスゲーム!それは希望!
二人は8の部屋へと足を踏み入れた。
「何だここ……この部屋も何もねえ部屋かよ」
何もいない。誰もいない。仕掛け人の姿は無い。4の部屋とは違い天井も普通にある。カギは……中央に落ちている。不気味だった。
「……カギを開けよう、二葉君。とにかく先へ進むべきだ」
普段は豪放磊落な大宮でさえ、この部屋の異様な雰囲気には緊張を隠せなかった。部屋に踏み入ったのは大宮、二葉の二人のみ。他の参加者はこれなかったが、問題ない。二人はあくまで複数人での脱出を望む者である。この8の部屋……そして出来れば、9の部屋の様子を知り、対策を練って再びここに来ればいい。二葉は1の部屋に残した三葉の事を、大宮は参加者全員の事を考えた。
部屋の中央へ至り、大宮はカギを拾う。何も起こらない。二葉は周囲を警戒している。霊視も駆使して部屋中を見張る。
「よし、開けるぞ。備えていてくれ!」
大宮は真っすぐに部屋のドアへと向かい、カギを差し込んだ。二葉はその背中を目で追う。そして……二葉の目は捉えた!その瞬間を!
デスゲーム!それは絶望!
「待て!開けるな!!」
大宮の持つカギが9の部屋へ続くドアに刺さる。カギが解かれたと同時に、大宮の背後にそれは現れた。二葉の背後にもだ。
大宮は既に意識がない。そして二葉も、気を失っていた。幽体離脱する間も無かった。
その身体がゆっくりと溶け始める。時間をかけて緩やかに、二人の身体は死んでいくようだった。それがこの8の部屋の恐怖だった。
女の姿をした悪霊が、静かに溶け行く二人の肉体を見下ろしていた。
さあ抗え!生き残りを賭けて策を練ろ!知恵を絞れ!力を振るえ!
そして見せてみろ!人間の本質を!
このゲームは、アルティメットデスゲームだ!
アルティメットジャンケン二次創作小説
2222年4月1日、公開
四畳半の和室の中。デスゲームの神の興奮は最高潮。中央のテーブルに置かれた水晶玉は、参加者たちの苦悩をありとあらゆる角度から映し出す。
「ふふ……参加者たちもいよいよ切羽詰まってきているな。いいぞ。さあ争え……」
「楽しそうですね」
「当然だ……デスゲームの一番美味しい瞬間がここにあるのだ。いいものだろ…う?」
「私にそのような趣味はありませんね」
何故この部屋に他人が侵入してくる?ここは神のみが入れる空間。神以外は、入れない。
デスゲームの神は水晶玉から顔を上げ、正面を向いた。光り輝く黄金の肉体。筋肉が神の形をして立っていた。
「他の神に黙って、あなたは何をしているのですか」
「お前……筋肉神!?」
筋肉が脈動している。筋肉神の鋭い目が、デスゲームの神を真っすぐに捉えていた。
(画面が途切れる)