シンデレラ・プレイ・ボーイ・シンドローム
深き夜を姫君が舞う。純白のドレスが夜闇に呑まれ、灰色に淡く煌めいた。
シンデレラの回し蹴りが脇腹に刺さり、白雪姫が崩れ落ちる。すぐに七騎の小人が割って入るも、機動力の差は歴然だ。ガラスの靴で宙を踏み、駆け回り、従者を次々と蹴り飛ばしていく。
「ぐっ、そ……!」
これが昨年の舞踏会、覇者の実力か。悔しさのあまり、毒林檎を握り潰す。
「白雪、大丈夫。小人達は時間を稼いだわ」
その傍らに千匹姫が舞い降りる。空を見上げると、夜空の向こうに一筋の流星。それは月より放たれし、かぐや姫の竹槍であった。
「私達の勝ちよ」
大気圏外からの不意打ちも、シンデレラには当たらない。だが間一髪の、余裕の無い回避。忍び寄る親指姫が狙うのは、まさにその一瞬である。
「やった!」
右足首切断。万物を踏破するガラスの靴が切り離される。すぐに二投目の竹槍が胸を貫き、靴を拾う間も無い。灰被りの姫が赤い血を吐いた。
勝機だ。裸足のシンデレラに零時の鐘は聴かせない。白雪姫が毒林檎を齧り、千匹姫が獰猛な獣人に変貌し、燕に跨る親指姫が、月に佇むかぐや姫が、牙を剥いて姫へと迫る。
だが、残る左足が地を蹴った。跛行のシンデレラが空へと跳ねる。
優雅な舞踏とは程遠い。だが尋常でない速度。血に塗れながら無様に、必死に、シンデレラは舞踏会から逃走した。
姫達は後を追わない。間もなく零時の鐘が鳴る。残されたガラスの靴を、白雪姫が踏み砕いた。
「初日としては、上々ね」
今宵は幕引きである。姫君のドレスが学生服に変わり、四人は言葉を交わす事無く別れた。共通の敵を下した以上、明日から皆で殺し合うのだ。
▽
白雪が気怠そうに教室へ行く。昨夜は痛みで寝不足だった。教室の隅に愛華がいない事を確認し、安堵と共に千尋の席へ。
「おはよ……」
「おはよ。何か男子が大変みたいだね」
言われてようやく、ザワつく男子達の不穏さに気づく。今夜の舞踏会は男子の部、初日だが。
「え、シャル君が休み?」
【続く】