"王者"大雲高校柔道部 初戦敗退
買い出しから帰ったケンとマネージャーを、バイクのエンジン音が迎えた。道場の前に集結した暴走族が、狂乱の声を上げる。合同練習が始まろうとしていた。
「族に柔道が出来んのかよ。主将、最近変だぜ」
マネージャーは応えないが、何か思う事があるはずだ。不敗の絶対王者たる大雲柔道部は、コーチの死から変わってしまった。
「来週から選抜だってのに」
初戦の相手は無名だが、絶対に練習は欠かしたくない。ケンは急ぎ、道場へ走る。
人を乗せた凶弾が、道場に撃ち込まれた。
禍々しい改造バイクが正門を破り、血と汗の染みる畳を轢断しながら迫り来る。警戒色の特攻服を身に纏う二刀流の男。バイクの側面に"弩苦罰血"の四文字。暴走族の長が一番槍か。主将は朝練を終え、既に構えている。
「殺す!柔道部!」
振り抜かれた二刀の斬撃を、主将は半歩後ろに跳んで回避。バイクを引き付け……巴投げを繰り出した!
「何っ」
柔よく剛を制す。制御を失ったバイクはそのまま後方の壁に激突し破砕。だが長も然る者。既にバイクを捨てて着地している。
「乱取りを始めろ」
「ハイ!」
主将の号令と共に、部員達が動き出した。道場に押し寄せる輩を捉えては投げる。人やバイクが宙を舞った。
ナイフや銃弾を恐れる必要はない。大雲柔道部には四半世紀もの間受け継がれてきた、不敗のメソッドがある。コーチから教わった事を誇りに、常に上を目指してきた。だからこうして戦えている。
「必勝のメソッドを教えてもらおう」
主将は静かに構えを取る。堅牢な盾の如く、厚みのある身体であった。
「俺の台詞だ。不敗のメソッドを俺に寄越せ」
長は笑い、黒目を見開いて二刀を構えた。一本勝負、始め。
「がっ」
背後からの銃撃。ケンの頭蓋を弾が突き破り、視界が揺らぐ。心の中でケンは声を上げる。大雲柔道部員は、不敗。
ケンは瞬時に態勢を立て直し、射手の腕を極めた。しかし、恋人の腕は折れなかった。
「マネージャー、どうして」
「死んで」
【続く】