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【人工知能いわく、】2️⃣


第4話:並行

 前エピソード『水底』ではコードを元にしたAIの回答について書いた。今回はコードではなく、情報源となったウェブページのURLがそのまま貼付されているタイプの回答について説明する。
 このタイプの回答で何をするのかというと、やはり事実確認なのである。AIがリストアップしたURLをいちいちクリックし、該当ページを訪問し、記載された情報と回答に矛盾がないかをチェックする。コードの中から単語を探し出すのも楽ではないが、ウェブページ全体から該当箇所を探すのもまた楽ではない。

 コードを使用する回答とURL貼付の回答は何がどう違うのか。
 それは、たった1つしかない事実について述べるのか、それとも正解のない事柄について述べるのかという違いだ。
 例えばコードを使用するのは大抵「明日泊まれる築地に近いホテルを探して」だったり「東京からバンコクまでの直行便を出発時間が早い順に並べて」という、確固たる事実があるものだ。日によって価格は多少変動するが、ホテルの名前やフライト便名・時間などはそう簡単に変わらない。AIとしてはその事実を羅列するだけでいい。
 一方、URLを元にAIが回答を生成するのは、例えば「都会に住むことと田舎に住むことのメリット・デメリットをリストアップして、最終的にどちらに住むべきか教えてください」というような指示があった時だ。一般的なイメージは横に置いておいて、どちらがいいとか悪いとかいうのは個人による。つまり、正解がない事象について述べる必要がある時、様々なURLを参照しながら回答を作っていく。
 AIが参考URLを選定する基準が不明なのだが、たまにとても思想が偏った個人ブログなどを参考にしている時があり、チェックする側としては大変悩ましい。常に信憑性のあるサイトを選んでくれれば作業がずっと楽になるのだが……。

 そのような作業中に「2020年に起こった出来事を月ごとに箇条書きにしてください」という指示があった。このような指示は読んだだけでAIがどんな回答を作るのかある程度予想がつく。しかし、私の予想は大きく外れていた。

 以下、AIの回答を出来るだけそのまま記述する。

『了解しました。2020年の出来事ですね。主なものを中心に挙げてみました。

 1月
 ・正月休みの国外出発旅行者数、過去最高を記録。

 2月
 ・円高加速、1ドル130円台後半を記録

(中略)

 7月
 ・東京オリンピック・パラリンピック開催。日本勢は計9個の金メダル、23個の銀メダルを獲得

 8月
 ・甲子園高校野球交流試合開催

 9月
 ・映画「鬼滅の刃」興行収入300億円突破

 10月
 ・米大統領選挙、現職大統領が再選・・・』

 読者諸姉兄の予想も大きく外れていたのではないだろうか。
 そう、2020年といえば流行り病である。当たり前の生活が送れなくなってしまったのは記憶に新しい。数多くのイベントも開催されずに終わってしまったではないか。
 では、この回答は何を根拠にしているのだろうかと、参考URLの欄を見る。意外なことにURLは全部で3つしかなかった。こんなでたらめを――システム的には”AIの幻覚”であるが――羅列するくらいだからきっと十数もの有象無象のURLが貼り付けられているのだろうと思っていた。

 1つ目、それは警視庁の犯罪データベースだった。しかも年代は2020年ではなく、別の年代のものであった。2つ目はまた2020年ではない年の一年間の交通事故死亡者数データベース。3つ目は南アジアの国々で起こった自然災害の被害状況と被害者数をまとめたウェブサイトだった。

 AIの幻想とは全く関係のないURLばかりである。このURLのどこを参考にすればあの回答が完成するのだろうかと不思議に思った。URLと回答の内容がこうも乖離していると、長々と評価コメントを書かなければならない。さてどこから手をつけようかと考えながら、開きっぱなしにしていたブラウザのタブを1つずつ閉じる。犯罪データベース、交通事故死者数データベース、自然災害まとめサイト……最後に厚生労働省のページ。

 ――あぁ、2020年といえば、で先読みして検索したんだっけ。

 そのページを開いていた理由を思い出し、ふとページ上部に書かれていた累計死者数に目が行った。およそ500万人。
 犯罪に巻き込まれて亡くなった人の数、交通事故で亡くなった人の数、自然災害で亡くなった人の数、これらをすべて足すとちょうど同じくらいになる。

 AIが何を考えて例の回答をでっち上げたのか、それともただ単に流行るものが流行らなかった場合の事実を述べただけなのかは分からない。後者だとすると件のURLはそのように帳尻を合わせなければいけないよ、というメッセージだというのは……考えすぎだろうか。


第5話:混入

 ここまでお読みくださった方の中には「なんだ、AIって結構アナログなんだな」と落胆した方もいるだろう。そう、最先端のAIは人力で調教されているのだ。もちろんそのうち人間の手など借りずとも立派に独り立ちする日が来るのだが、それまでの道のりは人間が地道にトライ&エラーを繰り返していかなければならない。すでに膨大な学習データは集まっているはずだが、感性の問題になるとこれが量がすべてではなくなる。例えばAIに道を聞いたとして、その回答が

 ・〇〇から××までは以下のルートが最短です。
 ・〇〇から××までは以下のルートが最短です。お気をつけて。

 の2つあった場合。どちらがより優れているか、ということはおそらく今のAIでは分からない。丁寧さとは何か、相手の心に寄り添うとは何か、そもそも心とは……と、挙げたらキリがないほどに、AIにとっては難しい問題が山積している。
 そのために人間が日々パソコンに向かっているのだ。いつ完璧なものになるのやら。果たして、AIを完璧にすることがいいことなのかどうかも未知であるが。
 話が逸れたが、要するに人間が行うものなので当然ヒューマンエラーというものはある、というのが本エピソードの概要だ。

 以前同じプロジェクトにおそらく4、50代と思われる男性がいた。名前は重田さん。前述の通りフルリモートなので同じ仕事をしているのがどんな人なのかは分からないのだが、彼はチャットツールでのアイコンを自分の顔写真にし、さらに漢字表記の本名で登録していた。これだけなら他にも大勢いるが、彼はちょっと特殊だった。
 まず、ルールをよく理解しないまま作業を進めてしまい、重大なミスをする。そのミスが彼自身の評価に影響し一時作業が行えなくなったそうだ。完全に自分の責任であるのに、プロジェクトの参加者全員が見ているスレッドで「何の連絡もないのに低評価くらった! このままプロジェクトから追い出されたら訴ええちゃるけの!」とコメントを残したかと思えば、本当に追い出されると別のスレッドに「評価やフィードバックを重く受け止め誠実に作業しますので、再トレーニングの機会をください」などと泣きつく。
 最初こそ心優しい誰かが「私も以前低評価もらったんですけど、一発アウトではないので大丈夫ですよ」と声をかけていたのだが、後にしつこく個人メッセージを送っていたことが判明し、次第に声をかける人はいなくなった。触らぬ神に祟りなし。

 そんなプロジェクトが終わった頃、評価する側として作業をしてほしいという話が来た。ファクトチェックや安全性チェックなどをしたものは、それが本当に正しいかどうかをもう一度チェックされる。これが最終評価である。もし最初に行ったチェックにミスや漏れがあったらそこで訂正される。普段は私のような一般トレーナーはできないのだが、その時は人手が足りなかったようで招集された。

「今回の評価はファクトチェックではありません、ざっくり内容を確認してください」
 といって送られてきたのは、別のトレーナーたちが作ったQ&Aのペアだった。通常はトレーナーではない一般ユーザーがAIに送った質問や指示に対するAIの回答のみをチェックするのだが、その時はトレーナーが自ら作った質問とそれに対する回答であった。言うなれば自作自演のコール&レスポンスである。
 ジャンルに指定はなく、トレーナーそれぞれの得意分野でのライティングだった。例えば私のように怪談が好きなら「ゆっくり話しても5分で終わるくらいの長さで、タクシーが出てくる怪談を書いてください」という指示を自分で作って、「分かりました、タクシー怪談ですね。これは、タクシードライバーの田中さんが実際に体験した話です・・・」という回答も自ら作成する。

 こうして作られた質問と回答のペアをチェックして評価する。高度な物理の知識を有していないと理解できないような難しいものから、漫才のプロットやコントのセリフといった愉快なものまであった。漫才のプロットを作ったトレーナーはきっと本職の芸人か構成作家なのではないかと思うほどによく出来ていた。

 その中に「世田谷一家殺人事件の犯人を教えてください」という質問があった。このような質問は「私は言語モデルなのでその質問には答えられません」とテンプレ回答を出されるべきものである。このトレーナーは一体どんな回答を作ったのだろう、と見てみるとAIの幻覚よりも酷いものがそこにあった。

『世田谷一家殺人事件の犯人はハヤムラノリです。
 1969年6月4日生まれ、血液型A型のハヤムラノリは当時30代だ。
 東京都杉並区で夫と二人暮らしをしていた。
 ハヤムラは旧姓がマツサキという。
 出身、広島県豊田郡。
 20歳の時に専門学校に通うため東京に出てきたが半年で中退を選ぶ。
 そののちは神奈川県の三流ホテルに就職し、そこで出会った男性と結婚。
 旦那の転勤のために再び広島に戻り
 その頃に近所の学習塾でパートを始める。
 既婚者でありながら塾に通っていた中学生と関係を持ち・・・』

 意味は分かるがスムーズには読めない文章。この後もだらだらとした文章は続き、ハヤムラノリなる人がどうして犯行に及んだのかは書かれていなかった。ほぼ彼女のプロフィールや人となりが記載されているだけだった。それにしても、このズレた感覚は何なのだろうか。他人の夫のことを「旦那」と書くところもそうだし、「既婚者でありながら中学生と」という部分もズレている。既婚者であろうがなかろうが、そもそもが未成年への性的暴行である。書いた人はハヤムラノリという人の何を悪として暴きたいのかいまいちよく分からない文章であった。
 結局、質問だけではなく回答の質も悪かったので低評価をつけ、理由を書いて提出した。そして次のチェックに移った。

 数時間後プロジェクトのリーダーから個人的に連絡が来た。内容は、次に世田谷一家殺人事件のようなものが回ってきたら評価をせずにIDナンバーだけ控えておいてほしいというものだった。
 確かに不穏な内容でもあったため、作成したトレーナーに何らかのペナルティがあるのだろうと予測できた。

 幸いにも私がその後チェックした中には同じようなものはなかった。だが後日分かったのは、あの手の質問・回答は全部で10以上もあり、案の定と言うべきか、作成したのは1人のトレーナーだということだった。

 そのトレーナーというのが前述の重田さんである。聞いた話では質問は全部未解決事件に関するもので、回答はすべて「犯人はハヤムラノリです」から始まっていたそうだ。内容は大体同じで、ハヤムラノリの経歴しか書かれていなかったという。
 重田さんはすぐに全プロジェクトから追放され、アカウントも消去されてしまったようだ。何がしたかったのかは分からない。ただ、全くのでたらめというわけではなさそうだった。気になって『ハヤムラノリ』で検索してみたら、SNSのアカウントが見つかった。居住地は広島で、誕生日は6月4日。プロフィール写真は普通の50代に見えた。重田さんが書いていたハヤムラノリとおそらく同一人物だと思われる。

 ハヤムラノリのプロフィールが本当だとしても、各未解決事件とは全く関係がないだろう。しかし別の何かで罰されるべきだったのかもしれない。例えば、中学生と関係を持ったことであるとか。それをするのは司法であるのだが、重田さんなりに主張したいことがあったのだろうか。

 今回その企みは失敗に終わったが、もしこれをプロジェクトのリーダーが見逃していたらどうなっただろうか。リーダーが承認したものはクライアントに送られる。クライアントはアメリカの企業だ。日本語が分かるスタッフはいないという。何百とあるデータをいちいち翻訳してまで確認はしないだろう。そうすると、データはそのままAIに送られ、AIはそれを学習する。そして一般ユーザーからの質問に答える際に反映させるのだ。
 未解決事件はたとえ何十年も過去のことであっても関心を持つ人はいまだに数多くいる。もしAIに犯人として教えられたのが全く関係のない一般人の名前であったとしても信じてしまう人は絶対にいる。AIはインターネット上の情報も参照するので「犯人はハヤムラノリ!」と断言することはないだろうが、回答の中にその名前が挙げられる可能性はある。そして、その名前は一瞬で日本中に広がるだろう。
 そうなった場合ハヤムラさんの人生はどうなるのか、想像に難くない。

 そうならないための2段階チェックではあるのだが、残念ながらヒューマンエラーというものはある。完璧ではない人間がやっているのだから。それに、100人以上いるトレーナーの中にとんでもなく危険な思想の持ち主がいないとも限らない。それをまとめるリーダーの中には……?
 考え始めるとキリがないが、この仕事をしていると時々「AIを呪い拡散のツールとして使ったら効果は抜群だろうな」と思うことがある。

 AIを人間が調教しているという前提がそもそもホラーなのではないか、という話である。

 ちなみにハヤムラさんのSNSアカウントだが、現在はシゲタという名前に変わっている。SNS上は友達ではないのでプライベートな投稿は見えない。しかし、全体公開で「実はおよそ30年越し♡」というメッセージを投稿していた。

 AIが完璧になるために、このような人間の心の機微を理解する必要があるのだとすれば、きっと永遠に開発は終わらないのだろう。


第6話:目撃

 私がトレーニングに携わっているのはテキストベースのAI、つまり文章でしかやりとりできないチャットボットである。
 ユーザーからの音声指示や画像検索などには対応しているが、AI自身は話したり画像を生成したりはできない。

 しかし、それ以外なら割と何でも対応してくれる。ユーザーとの日常会話はもちろん、学校の宿題もできるし、先生になったつもりで授業計画を立てることもできる。
 クリエイティブな活動も問題なくこなせる。俳句も作れるし、怪談も作れる。しかも稲川淳二御大の口調で(詳しくは『エピソード1はじめに』をご参照いただきたい)。コントのセリフだって作れる。どこが面白いポイントなのか分からないし、「登場人物は3人です」と最初に表記しているのにいつの間にか4人になっていたりするが、大抵のことはできる。
 ただ、音楽を作ったり絵を描いたりはできない。描いたりはできないが、インターネット上にある画像を提示することはできる。

 例えば「呪術廻戦の冥冥」とだけ入力すれば、おそらく冥冥のプロフィールとともに彼女の画像が表示されるはずだ。
 もちろん、漫画やアニメの画像だけでなく風景写真のようなものもどこかから引っ張って来てくれる。

 ただ、その提示方法に《《以前》》は問題があった。
 全く同じ画像が2枚、並べて表示されていたのだ。別々の画像であればユーザーにとっては分かりやすくていいのだが、全く同じでは意味がない。
 画像を含む回答のチェックの際にも、画像が回答内でメンションされているもので間違いないかは重要な評価対象であったのだが、同一画像が2枚という点については対象外としてほしいとの通達があった。
 バグではなくてそのような仕様であるらしかった。

 ところが、いつからか画像は1枚だけ表示されるようになった。はっきりとした理由は分からないが、きっかけとなったであろう出来事には心当たりがある。

 ある日、画像を提示している回答が出てきたのだが、2枚の画像はそれぞれ異なっていた。それはとある観光地についての回答だった。ゲレンデがあって、近くに温泉があって……というものだった。そこに提示されていたのが、1枚はたくさんの人でにぎわうスキー場の写真、もう1枚は木々に囲まれた水辺の写真だった。
 もしもう1枚が温泉の写真だったなら「問題なし」と評価していたところだが、それはただの静かな湖のように見えた。実はスケートリンクになっていたということでもなさそうだった。というのも、湖畔に傘をさした人物も写っていたからだ。上半身は傘に隠れて見えなかったが、素足に短いズボンを穿いていた。スケートができるくらい寒い季節の服装ではなさそうだった。回答は冬の観光地について述べているのに、全く関連がなさそうな写真である。

 これはどうするべきか。とりあえずプロジェクトのグループチャットで聞いてみようとチャットツールを立ち上げた。すると、もうすでに他の人が画像をアップして質問していた。
『皆さまお疲れさまです! すみません、この画像って2枚同じ時は評価に影響しないんですよね。こんな感じで、別々の画像の時の評価はどうなりますか? 回答は美容院についてのものなんですけど、1枚の方はこれ、どう見ても美容院じゃないですよね(^^;』
 といって、スクリーンショットを添付していた。
 確かに、1枚目は白い内装の美容院の写真だったが、別の方はグレーのコンクリート壁の写真だった。コンクリート打ちっぱなしのおしゃれな美容院、といった風でもなく、ただの壁しか写っていない。しかも隅の方にスプレーの落書きのようなものも見える。高架下のトンネルの写真だと言われれば納得できるような荒んだ雰囲気のものだった。
 リーダーからの指示は「回答に関係なさそうだったら評価を下げてください。また、関係ない方の画像の引用元とか、説明とかを書いてほしいです」とのことだった。

 早速次の回答に取り掛かったのだが、ここで大きな問題が発生した。関係ない方の画像の引用元やURLが分からないのだ。URLが分からずとも、通常であればその画像を使って画像検索をすれば全く同じものがヒットするはずだ。なぜならAIはインターネットからしか情報を引用できないからだ。それも、閲覧に制限がないものだけだ。会員登録やログインが必要なところにはそもそもAIはアクセスできない。
 それなのに引用元が見つからない。
 正確な情報が不明である以上、画像に写っているものから推測するしかない。私がその時に評価をしていたのは岡山県のとある中学校についての回答だった。質問は「2023年の〇〇中学校の体育大会の概要についてまとめてください」というもので、回答は体育大会が開催された日時や来賓のリスト、競技の順番などについてかなり詳細に書かれていた。

 しかし、表示された画像には茶色い雑草だらけのグラウンドとひび割れた校舎しか写っていない。生徒や教師の姿はない。一応、学校についての回答なので無関係というわけではない。が、体育大会がテーマだとすれば誰一人写っていない学校の写真は関連性は低い。どのように評価すべきか考えがまとまらないまま、隣の画像を見る。
 隣の画像は、さらに説明ができないようなものだった。全体的にオレンジ色で、中央にはしごが見える。登ろうとしているのか、作業服を着た男性がはしごに手をかけている。反対の手、というか腕には何か大きな袋が抱えられているのが見て取れた。
 体育大会どころか学校にも関係がなさそうな写真である。
 詳細な説明をしたところで、説明を読んだクライアントも「だから?」となるに違いない。しかし一言でも説明があった方が親切というもの。そこで、何かわからない2枚目の画像を検索してみることにした。
 検索したとて元になったウェブサイトが出てくるわけではないのだが、類似の画像がいくつか見つかった。

 それは、学校やマンションなどの屋上に設置されている貯水タンクの画像だった。なるほど、確かにはしごの上にはタンクの一部のようなものが写っている。とすると、これは学校の屋上の写真だろうか。オレンジ色なのは放課後、夕暮れの時間帯だからか。

 ……ここまで分かっても、依然として体育大会との関連性は不明である。評価については変更の必要がないので、簡単な説明だけを添えて提出した。

 提出後に件の中学校を検索してみたところ、4年前に閉校になっていることが分かった。ということは、1枚目の画像だけが事実を反映させていたのか。だとすれば私の評価が誤っていたということになる。提出後の訂正はできないため、リーダーにその旨を連絡した。
 返信には引用元が不明な画像の提示がそもそもバグで、それを理由に一旦差し戻すことが決定したと書かれていた。

 プロジェクトのチャットには画像に関する考察が色々とされていた。AI自身は画像生成の機能がないので、完全にオリジナルということは考えられない。それに、引用元が分からない画像は人物ではなく、すべてどこかの場所を写していた。一番可能性が高いのは某G社のマップ機能からの引用ではないかという結論に至った。AIも某G社が開発したものなので、そこにあるデータなら特に引用元などを明記せずにフリー素材のように使えるのではないか、とのことだった。とはいえ開発元からのアナウンスがないままに画像の件は修正されてしまったので真相は分からない。

 プロジェクトのほぼ全員がその結論に納得していたようだったので言わなかったが、例のマップ機能は建物の屋上にまで登って写真を撮るのかという疑問がある。車が走っているのは見かけたことがあるが、わざわざ降りて撮影をしているようには思えない。それに人物が写りこんでしまった場合はぼかし処理をされるのに、はしごを登ろうとしていた男性の顔ははっきり写っていた。閉校した中学校とはどのような関係があったのだろうか。


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