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一番エロい朝ご飯
あなたは生ハムメロンを食べたことがあるだろうか。
「生ハムメロン」
生ハムをメロンに乗せただけの食べ物なのだが、何となくエロいな、と常々思っていた。向こうが透けて見えるピンク色のハムがジューシーなメロンに乗っている。しょっぱいハムに甘いメロン。ビジュアルも味も、その組み合わせに勝るエロい食べ物は他にないのではと考えていた。
ところが、イタリア人のセバスチャンから
今日メロン買ったから明日の朝ご飯に食べようよ。チーズ乗せるとおいしいよ
と誘われた時「あ、これが一番エロいな」と思った。
生ハムメロンを軽く超えたのだ。
まず、しょっぱいだけの生ハムならまだしも、しょっぱくてちょっと苦くて独特の匂いがするチーズにメロンという想像もしなかった組み合わせがエロい。それから、そんなものを朝から食べるというミスマッチ感が何よりエロい。大体そういう類の食べ物は赤ワイン飲みながらつまむものではないのか。夜のおやつではないのか。
実際、チーズメロンの見た目は想像していたほど洗練されたものではなかった。何事も大雑把なセバスチャンなので、ざくざくと不揃いに切ったメロンの上に、本人としては薄く切ったつもりのチーズ(イタリアからわざわざ持って来たらしい)を不安定に乗せただけ。だけど不思議とエロかった。
ちなみにこの時のメロンはオレンジ色だった。緑色のメロンだったらエロさは半減していただろう。
セバスチャンは「甘いフルーツとチーズは合わないと思うかもしれないけどイタリアでは定番の組み合わせなんだよ」と教えてくれた。
生ハムメロンなら食べたことがあると言うと、どちらが好きかと聞かれた。
もちろんチーズメロンの方が好きだと答えた。乾いていて固いチーズがメロンの果汁で柔らかくなるのが面白いから。
あとエロいから。さすがにこれは理解されない気がして言わなかったが。
さてそんなエロい朝ご飯の日から数ヵ月後、セバスチャンと私は東京を旅行していた。
私の帰国について来たのだ。
旅行の最終日、セバスチャンに何が食べたいか聞くとピザが食べたいと言う。そこで私たちは駅ビルの中にあるちょっと高めのピザレストランに入った。
パンツェッタとルッコラのピザと、4種のチーズピザ。どちらも彼のチョイスである。
当然ながら、4種のチーズピザには小さなポットに入ったはちみつがついて来た。
私は自分の取り皿に入れた一切れのピザにはちみつをかける。
怪訝な顔で皿を覗き込むセバスチャン。
「それ、はちみつ?オリーブオイルじゃなくて?はちみつ?」
「そうだよ、セバスチャンもいる?」
すると奴はこう吐き捨てた。
イタリアでそんなことしたら友達なくすぞ
続けて、「しょっぱいピザはしょっぱいまま食べるべきでしょ!」と憤っていた。
「でも一緒にチーズメロン食べたじゃん、あれは何よ」
「じゃあ聞くけど、メロンとはちみつ、喉が渇いた時にどっち食べる?」
えぇ……何その理論……。
いや、理論?
とにかく彼の中ではチーズメロンとはちみつピザは大きく異なるのだ。
チーズメロンとはちみつピザだったら圧倒的にはちみつピザの方が支持されていそうな気もするが、彼は許せないのだ。だって喉が渇いた時にはメロンを食べたいから(?)。
幸いにもそこはイタリアではなく、セバスチャンは友達ではなかったので私は彼をなくさずに事なきを得た。
(セバスチャンと私の話はこちら)
それがちょうど一年前の話だ。
今年も本当は2人でどこかに旅行する予定だったが、言わずもがな断念せざるを得なかった。
一年前のピザの写真を見ながらセバスチャンと電話をしていると、ふとチーズメロンのことまで思い出してしまった。
”あの朝食べたチーズメロン、エロかったよね”
と言うと、彼はどんな反応をするだろうか。いつかまた一緒に朝ご飯を食べられる日が来たら聞いてみたい。
エロくなくていいしおしゃれじゃなくていいし、何ならおいしくなくてもいい。また一緒に食べられるなら何でもいい。