【実話怪談】犬が咥えてきた
『犬が咥えてきた指に毛が生えているのを見るまでは、それが本物の人間の指だとは気が付きませんでした』
大学で教鞭をとっている夏目さんは、試験問題のチェックをしている時にその文章を見つけた。身に覚えがない文章だった。試験問題は自分で作成したはずなのに。
試験問題は研究室で作成することが推奨されている。厳格に義務付けられているわけではないが、夏目さんはカフェや自宅での作業は一度もしたことがない。パソコンも教員それぞれに大学が貸与しているもので、誰とも共有していない。不可解ではあるがとりあえず試験の前に発見できてよかったと思い削除した。
次にそれを見たのは、学生から送られてきたレポートを読んでいる時だった。
『犬が咥えてきた耳に毛が生えているのを見るまでは、それが本物の人間の耳だとは気が付きませんでした』
レポートのテーマは”障害理解教育の必要性”、件の文章とは全く関係がない内容だった。当然ながら夏目さんは送られてきたファイルをそのまま開いて読んでいただけである。学生に尋ねてみようかとも思ったが、おそらく本人も身に覚えがないだろうから、レポートからその文章を削除して評価した。
次はまた、自分が作った試験問題の中に現れた。
『犬が咥えてきた脛に毛が生えているのを見るまでは、それが本物の人間の脛だとは気が付きませんでした』
それからも夏目さんは同じような文章を何度か見つけた。見つける度に犬が咥えてくる体の部位が変わる。ただ、それだけ。
「それって、全身のパーツが揃ったら何か理由が分かったりしませんかね」
そう言うと、夏目さんは首を横に振ってこう言った。
「全身は揃わないような気がします」
聞けば、夏目さんは以前別のキャンパスにいたそうだ。大学は施設の老朽化のため数年前に現在のキャンパスへと移転した。旧キャンパスはそれからしばらくして取り壊され、跡地から人間の腰のあたりの骨が出てきた。これが原因だとはっきり分からないが、これくらいしか原因と言える心当たりもない。
ちなみに、腰以外にも犬がまだ咥えてきていないパーツがいくつかある。楽しみにしているわけではないが、何となく待っているのだという。
「今使ってるパソコン、前のキャンパスでも使ってたやつでね。もうかなり古くなっちゃったんだけど。それがあるから新規購入の申請したくないんですよね」
新たなパーツが届いたら知らせてくれるそうだ。
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