<中国>私が中華SNSをやめた理由
既にご存知の方も多いだろうが、中国ではGoogleにアクセスできない。
Yahoo!も。以前はYahoo検索ができていたのだが、数年前の党大会(共産党の大会議)後に使えなくなった。
中国からアクセスするためにはVPNを使わなければならない。無料VPNだと繋がらないことが多いからお金払った方がいいよとアドバイスされたので金に物を言わせて一番良いVPNを使っている。それでも最近はよく不具合が起きて数日間繋がらないことが多い。しかも中国で買ったスマホにVPNをインストールして開こうとしたら「このアプリは大陸の法律に違反しています!」的な警告文が出て来て開けない。Googleが使えないスマホなんてゴミじゃん(ちなみにHuawei)。
だからスマホやパソコンのブックマークには日本では一度も使ったことのないso-netとbingがある。中国ではまあまあな頻度で使っている。
そしてTwitter、facebook、LINE、インスタなどのSNSにももちろん、アクセスできない。仲良くなった外国籍の同僚達とfacebookで友達になったはいいもののアクセス障害が多すぎて面倒くさくなった。
そういう理由でいつでも安心してアクセスできるwechat(私は中華版LINEと呼んでいる)を使っている。機能はLINEとほぼ同じ。友達とメッセージのやりとりができるのはもちろん、グループチャットもできるし音声通話もビデオ通話もできる。タイムラインにはつぶやきや写真なども投稿できる。
LINEと違うところはメッセージに既読サインがつかないところ。それからタイムライン投稿へのいいねやコメントが見られるのは直接の友達同士のみ。共通の友達の投稿だったとしても、いいねやコメントをする人達が直接友達になっていなければ見ることができない。
LINEにはないこの機能が気に入りしばらくの間はタイムラインにくだらないつぶやきや写真をアップして、同僚達とオンライン上でも交流を楽しんでいた。
▽中国人バイト君
その頃、会社に何人かアルバイトの若者がいた。日本語での業務をするので大学で日本語を勉強している学生が多かった。
リョウさんも、そのうちの1人だった。
彼の日本語は他のアルバイトと同じくらいのレベルだったが、彼は自分が一番できると思いこんでいた節がある。ことあるごとに自分と他人を比べ、自分の方が勝っていると言っていた。
その性格が災いして、一緒に働いていた他のバイト達から距離を置かれていた。特に女子達から。
ある時、その女の子達から休日にお茶に誘われたので行ったところ、何と彼が現れた。彼女達はびっくりして「どうして来たの?」と不快感を隠しもせずに嫌な顔で尋ねていた。それでも彼はしれっと同じテーブルにつき、何食わぬ顔で注文をし、私達の会話に無理やり入って来た。
「ごめんね、今彼女達と話してるから」と言うと一瞬黙るのだがすぐにまた割って入る。そのうち女子達が痺れを切らし「紫蘇さん、私たちの寮に行こう!」と提案された。ある程度の学力レベル以上の大学だと、寮は男子と女子で分けられていて異性は完全に立ち入り禁止になっている。彼女達の寮も一階に厳しい管理人が常駐しているため男子は入ることができない。
リョウさんはもちろん不満そうにしていたが、今日はそもそも彼女達との約束なのだからあなたはまた今度ね、というと引き下がった。その時に彼と中華版LINEを交換した。気乗りはしなかったが面倒くさいのがメッセージのやりとりだけで済むなら、と軽く考えていた。
▽来る
交換したその日からひっきりなしに連絡が来た。最初は「会社の裏にある日本料理のお店おいしいですよ」というレストラン情報で、すぐに「おいしいから一緒に行きましょう」に変わった。
3回に1回は「時間があったらみんなで行こうね」と返していた。
すぐに行く気がないのがバレたせいか、レストランには誘われなくなったが代わりに「今から紫蘇さんの家に来ていいですか?」という連絡が増えた。
日本語が得意だと自負している彼だったが”行きます”という場面で時々”来ます”ということがあった。
「”行っていいですか?”だよ」と教えてもよかったのだが、このタイミングでそれを言うと許可だと勘違いされそうでこの手の内容には一度も返信していない。大体、そういう連絡は夜中8時過ぎだった。昼間でも心を許していない人間は家に招きたくない。たまに私のアパートの近くの道の写真が添付されていることもあって、ますます嫌悪感が募った。
そのうち、夜一人で家にいるのすら嫌になった。スタジオタイプの部屋なので、夜は家にいるかどうか外から見たらすぐに分かるからだ。時々外で彼が明かりのついた私の部屋を見上げているような気がした。
だからその頃一週間のうち半分くらいは退勤後カフェやファストフード店で時間をつぶすようになった。時々は日付が変わってから帰宅することもあった。
ある週末の夜、私はケンタッキーにいた。
大抵週末は近所の中高生で溢れかえってうるさい店内なのだが、その日は2階席に私しかいなかった。だから写真を撮ってタイムラインにアップした。
『今日は人がいなくて静かだな』
という一言を添えて。
(実際の写真)
すると同僚のスペイン人カップルから「珍しいね!まだそこにいる?」とメッセージが来た。
「いるよー、来る?」
返事をすると本当に来るという。ゴミを片付けたり隣のテーブルをくっつけたりしていると10分も経たないうちにやって来た。
彼らはバーガーセットを、私は食後のデザートを食べながら、2時間ほど職場の愚痴や最近の彼らの喧嘩の理由などで盛り上がった。
私たちのアパートは隣同士だったので3人でげらげら笑いながら帰り、アパートの下で笑いながらおやすみと言い合い、愉快な気持ちのまま家の鍵を取り出す。
その時、メッセージが4件来ているのに気が付いた。全てリョウさんからだ。
『ケンタッキーですね』
『私もいます。1階にいます』
『来ます』
最後はメッセージではなく写真だった。
夜道を歩く私とスペイン人を後ろから撮った写真。私達をつけていたのだろう。
鳥肌が立った。
慌てて部屋に入り、電気をつける前にカーテンを閉める。いつもなら帰宅するとすぐに携帯で音楽を聴きながらシャワーを浴びるのだが、その日は大きな音を立てたくなかった。外の音に耳をすましていなければいけないような気がした。
ところで、彼は本当に店にいたのだろうか。一通目のメッセージから20分後に二通目が送られている。多分私のタイムライン投稿を見てから店に来たのだろう。
来たのはいいがすでにスペイン人がいたため、私に話しかけることができなかった。だからずっとどこかで待っていたのだろう。結局ずっとスペイン人が一緒だったから最後まで話しかけられなかったのだが。
コンコンコン
突然、ノックの音がした。
来た。
コンコンコンコン
「こんばんは、いますか?」
リョウさんだ。
息を殺していたが、心臓の音がうるさくて、外にいる彼に聞こえてしまうんじゃないかと泣きそうになった。
すると携帯の画面が光った。
リョウさんからの着信だった。
マナーモードにしていたので音は鳴らなかった。もし鳴っていたら私は叫んでいたかもしれない。
外からはうっすら発信音が聞こえる。
しばらくそのまま立ち尽くしていた。
今思えば、同じフロアに住む同僚の誰かに「家の外に変な人がいて怖い」と助けを求めればよかったのだが、その時はちょっとでも動いたら私が居留守を使っているのがバレてしまうと思って何もできなかった。
しばらくして彼が去る音が聞こえたが、その日はドキドキして眠れなかった。ずっと心臓がうるさくて手もちょっとだけ震えて、気がついたらグッと歯を食いしばっていた。
そして月曜日。
彼は普通に出社して来た。
私は週末にあったことを上司に話してみたが、「別に触られたりとかしたわけじゃないんでしょ?」という対応だった。結局何もしてくれなかった。彼には直接何もしてくれなかったが、何故か他のアルバイトの女子達に事の顛末を話したそうで、その日から女子達が壁を作ってくれるようになった。退勤時間が早い日は必ず女子達が私を待っていてくれて、家まで送ってくれた。
時々夜ノックされることがあったが、それが彼だったのかは分からない。
でも彼がアルバイトを辞めてからはノックがなくなったのでおそらくそうだったのだろう。
そんなことがあってから、私は中華SNSの更新は一切しなくなった。タイムラインの投稿なんか公開範囲の設定で彼を除外すればいいだけなのだが、きちんと設定が適用されているのかいまいちよく分からないから不安だ。仲のいい同僚達とはfacebookで繋がっている。不安なまま中華SNSを使うよりも、接続できないストレスを抱えながらfacebookを使う方がはるかにマシだ。
▽その後の彼
彼が辞めてからはブロックしたので一切連絡をしていない。
どこで何をしているか知らないし知りたくもない。
ところがつい最近、上司から「日本はウイルスの状況どう?」と定期的に連絡が来るようになって、そのついでに
紫蘇さんのふるさとって〇〇県△△市ですよね?リョウさん覚えてますか?彼も今そこにいるんですよ。何か、買い物とかも満足にできなくて助けて欲しいって言ってるから電話番号教えときました
という連絡が来て殺意が沸いた。
そういえば、非通知からの着信が何件かあったなぁ……。