トータルテンボスと徳井さんと平成の私

時をさかのぼること2005年。

私は新幹線が停まる、とある駅の売店でバイトをしていた。
職場は新幹線のホーム上。時折、芸能人を見かけることがあり、その度にミーハーな私は胸を高鳴らせていた。

トータルテンボスと平成の私

中でもレジを打ちながら「あ！」と声をあげてしまったのが、芸人のトータルテンボスの2人が来店した時だ。

「着替える時間もなかったんかい！」とツッコミたくなるような、バリバリにきまった舞台衣装のスーツのままの2人。「エグゼクティブプロデューサー」と肩書きがついてそうな明らかに目上の男性に連れられ、2人は弁当を選んで丁寧にお礼を言っていた。

2004年のM-1を見ていた私にとって、トータルテンボスは憧れの存在だった。

私は社員さんに頼み込み、一瞬レジから離れる許しをもらった。マジックと自分の手帳を握りしめて、売店を飛び出す。

舞台衣装の2人をホーム上で見つけるのに、そんなに時間はかからなかった。

「と、トータルテンボスさんですよね…サイン頂けませんか？」

お世辞にも可愛いとはいえない制服と容姿のバイト女学生が、M-1ファイナリストにサインを依頼。しかも色紙じゃないし…。

「お忙しい中、こんなことを頼んで忍びない」という内容を私が伝えると、アフロの藤田さんはネタ通りの「かまわんよ」って感じで、物腰やわらかく対応してくれたのを今でも覚えている。

一方、大村さんは「え？こいつが俺らのファン？え…？」って感じの心の声が漏れ出てるかのような視線を向けながらも、サインを書いてくれたのを今でも覚えている。笑

その時のサインがこちら。

当時と今のサインがずっと変わっていないと、嬉しい気持ちになるのなんでだろう。
＊

時は流れ2006年。
バイト仲間と仕事終わりに行った、小さな居酒屋。そのカウンターから見た2006年のM-1は今でも覚えている。もちろん私は、トータルテンボスを応援していた。

でも蓋を開けてみたらびっくり。
トータルテンボスも面白かったけど、それ以上にチュートリアルが神がかった漫才を披露。結果、チュートリアルの完全優勝Yearとなったのだ。

＊

その後の私は、トータルテンボスに加えてチュートリアルのことも好きになる。それに付随してチュートリアル徳井さんを「先生」と呼んで師匠のようにあがめる、当時ほとんどテレビに出てなかったピース綾部さんも追うようになった。

なんの自慢にもならないけど2007年は大学に行くより、よしもとの劇場に足繁く通っていた年だったと思う。

徳井さんと遭遇したあのとき

そんな芸人さんにお熱になっていた2007年。山手線の渋谷駅ホームで大きなスーツケースを転がしながら歩く、チュートリアル徳井さんとすれ違った。
スーツケースを抱えて歩いていたことを考えると、東京進出直前の時期だったのかもしれない。

あまりにも周りの人に気づかれてなくて、すれ違った後に二度見・三度見した。ただ、後ろ姿では確信が持てない。

私は勢いだけで、徳井さんかどうかを確かめに来た道を戻った。
スーツケースを転がす男性の前に小走りでまわりこみ、顔をわざわざ確認した。
今考えると「よくそこまでしたな…自分」と思う。
そして、顔を確認しただけで当時の私は終わらなかった。

「ちゅ、チュートリアル徳井さんですよね…？握手していただけませんか？」

徳井さんの左手にはスーツケースが握られ、右手はあいていた。

徳井さんから右手がすっと差し伸べられる。
普通に握手してくれるもんだと思っていたら、なぜか親指と人差し指と中指の3指が差し出された。

3指…？

え？理科で習ったフレミングの法則？

私は、かなり困惑した。
でも手が差し出されたということは拒絶ではない…はず！！！とポジティブな解釈をし、心をなるべく通常モードに整えようと努めた。戸惑いながらも徳井さんの3指を自分の両手で包むように握り、お礼を伝えてそそくさと後にした。


人から3指差し出されたとき、どう握るのがベストなのか、当時も今も私は正解を見いだせずにいる。

誰か正解を知っている人は教えてほしい。
もしくはこの当時、徳井さんは何かを試していたのだろうか。
本当は私との握手が嫌だったのだろうか。
にしても、なぜ3指…。
実は10年以上、地味に気になっている…。

また、この握手を求めたときもそうだったし、当時の舞台上でも気になっていたことがもうひとつあった。徳井さんの視線がすごく遠いのだ。

目が合う・合わないどころではない、遠い未来や別の次元を見据えるかのような遥かなる目線…。
目線が遠いせいか、客席から見て舞台上でふいに心ここにあらずに感じる瞬間もあった。忙しさゆえだったのかもしれないが、凡人には見えない何かを見つめていたのだろうか。

そこからチュートリアルもピースも飛ぶ鳥を落とす勢いで激売れし、劇場よりテレビで見る機会が多くなっていった。

そう、あの件が起こるまでは…。

＊

トータルテンボスと徳井さんと令和の私
〜よしもとオンライン配信メモ③　〜
につづく…

＜おまけ＞

当時使っていたガラケーを何万年ぶりかに覚醒させたら激売れ期のチュートリアルがいた。