Dirty old town を歌った
渋谷にルナサとヴェーセンを見に行ったときのことだったから、2016年の11月のことのようだ。ライブハウスの2階でステージの方をぼーっと見ていると、覚えのない人に、「違ったらすいません、ししょーさんですか?」と声をかけられた。
私はなかなか人の顔を覚えないという失礼な性格をしているので、一瞬、どこかで会った人なのかな思ったのだけど、初めて会ったらしい。これが本名で声をかけられたら仕事関連の人だと思うところだけど、こう呼ばれたらきっと音楽繋がりだよなあ。でも会ったことないのに何故私を知っているのだろう?
話を聞くと、かな&ししょーの youtube で、Dirty old town を見た、とてもよかった、とのことだった。多分、これだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=VKtdUlwQQJM
そういえばかなさんに、あの動画にイイネがついたよ、と教えてもらった記憶がある。いや別に、実に大したものではない。ど素人である。視聴回数だって2021年6月現在、4年半で 70 回を越えたところである。それに大変有名な歌だから、多くの人がカバーしている。
「どこがよかったのですか、なぜ、覚えてもらうまで心に残ったのですか」と聞いてみた。すれちがいで顔まで覚えてくれているなんて。「確かに上手とか技術的な話ではないんですけど、でも何かよかったんですよね」とのことだった。
(蛇足ながら、音楽演奏で技術や正確さの追求は大事だと思います)
何かとは何か。
もう少し具体的に思い出すのは、ライブで共演者にギターを褒められたことだ。そのときはギターソロを弾いたのだと思う。これまた技術的には大したことない。「夕暮れっぽい雰囲気がとても個性的だ」というようなことを言われた。でもこちらは格段そんな意識で弾いていない。ただ、自分の好きな、なるべくきれいな音で弾こうとは思っていた。
思えば、本当に子供の頃から夕暮れの寂しい物悲しい雰囲気が大好きで、そんな音楽ばかり聞いていた気がする。朝の爽やかさは嫌いじゃないが、居心地が悪い。孤独は辛いけど、ひとりは落ち着く。きっとそんな好みが音に表現されていたのだろう。多分、Dirty old town も歌のもつそんな雰囲気が出ていたのだと解釈した。
音楽でも研究でも、人に好まれる個性を出すというのはとても難しいことだ。つい、こんなことは誰もしていないだろうということを見つけ出して、こういうことをするのが個性的だと思ってしまう。誰も価値を認めていないから誰もしていないだけ、ということかもしれないのに。
個性は無からは生まれない。体は食べたものからのみ作られる、というように、作られるものは、出てくるものは、吸収したものの反映でしかない。本人は意図したわけではないが、多分そんな風にして、蓄積してきたものが個性として出てきたのだろう。極論を言えば、意識して出しているものは個性と言うほどではなく、消そうとしても消せない、隠そうとしても出てくるものをそういうのだろう。あの歌も人前で歌う機会があるとか考えず、好きで覚えて口ずさんだ歌。そんな風に好きになって取り込んで自分の個性的になっていくのだと思いたい。
ほんの微かななものかもしれないけど、
自分の演奏にもいいと思ってもらえる個性があるのは大事にしたいと思う。
思いもかけないところで、何か伝わることもある。
まさか、自分の弾き語りを印象深く覚えてくれる人がいるなんて、
そして、そんな人と通りすがりで出会うことがあるなんて、想像していなかった。
つい遠慮をしてしまって、お名前を伺わなかった。
多分、次に会ってもわからないと思うけど、
その時のことは一生忘れないだろう。
世間的には The Pogues のものが有名だと思うけど、
歌の作者自身の歌っているものはこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=baFIaOGkN90