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高架下に響く重低音ヒップホップ!横浜・黄金町のシシ、地を這い舞う
伝統的な獅子舞とは異なり、土地の素材や情報で獅子舞「シシ」を作る 。この試みを「獅子舞変体現場」 という。変体とは土地によって獅子舞のデザインや舞い方が土地によって変化することに加え、舞い手自らが人ならざる者へと変体することを指す。シシの演舞は「交流獅子(地域の人々に見せる舞)」「神獅子(地域の人々に見せることを意図しない舞)」「あたり獅子(上記の実験演舞)」などがある。これらの一連の演舞を映像で記録する。上記を意識して獅子の歯ブラシは滞在制作を行う。
2024年3月22日から31日まで「黄金町バザール」参加のため、横浜黄金町に滞在。30日の演舞に向けて、土地での素材集め、シシの制作、演舞の流れで実施した。この演舞をもとに4月1日から6月9日までの映像&インスタレーションの展示を構成した。今回のメンバーは稲村と船山さん。この滞在の様子を稲村の視点で振り返る。
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黄金町の概要と体感
黄金町は神奈川県横浜市中区に属する町であり、0.017㎢の区画に191世帯・234人が暮らしている(2023年4月30日時点)。人や物を運ぶ重要な輸送路として栄えてきた大岡川の北側に位置し、京浜急行電鉄の高架下に街が築かれている。
戦後は高架下とその周辺に、間口の小さなバラックのお店立ち並び、売春が盛んに行われ、「関東屈指の青線地帯」とも呼ばれた。最盛期には270軒ほどの置屋が存在したようだ。そして、麻薬密売の温床にもなった。2005年にバイバイ作戦によって警察による集中的な摘発により一蹴され、翌年からアートの街として町並みの再整備が始まった。
今でも過去の名残はあって、隣同士の空間が密着した家、間口が狭い家などは過去に売春のお店だった場所なのだと妄想が広がる。この街の歴史の集積が、地層のように街のあちこちに表出しているようだ。
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順調な素材集め
黄金町の中で獅子舞を作るとしたら?を考え、稲村と船山さんは土地の素材を集めた。今回は全体的なシシのコンセプトを考えるのではなく、まずは素材を集めて、その集まった素材から何ができるか考えようということで、徹底的に素材を集めた。
キッチンのスタジオの上階には地域の呉服屋「ちりめんや」で使わなくなった布や着物があった。また、マンションの倉庫から金色の金網(網戸?)や、酒瓶ケースが見つかった。そして、黄金町バザールの作業スペースで木材を手に入れ、地域のコミュニティースペース「ステップスリー」では古地図、ちりめんやの手ぬぐい、黄金町にまつわる新聞をいただいた。また、黄金町バザールの事務所では、地域の広報誌をいただいた。
このように、膨大な素材が集まったので、これらを組み合わせて、獅子頭と胴体を作成した。とにかく順調な進みだしで、シシの造形を完成させるのにそれほど時間はかからなかった。
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高架下の環境音を採取
黄金町のサウンドスケープといえば、重く低くのしかかってくるような高架下の鉄道音である。船山さんはお囃子を作るにあたって、高架下で鉄道の通過音を採取し、それを組み合わせて制作した。
普通、快速、特急と波形を分析すると、時間や大きさが異なる。そのさまざまな鉄道音を組み合わせ、ヒップホップ調のリズムに仕上げていた。どこかアングラ感のある街並みと音がシンクロしていくような感覚がある。スピーカー2台を背負い、サンプラーを音源としてお囃子の音を調節しながら即興的にさまざまな音を乗せて、お囃子として構成していった。また、演舞の始まりと終わりにはスピーカーを4台追加して地上に設置し、それらをコードで繋いで音量を多方面に、大きく流す事もできた。
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2種類の「あたり獅子」の試み
今回はメンバーの中の稲村がシシの前部、船山さんがお囃子&シシの後部という2人立ちのシシが完成した。今回シシはすぐに造形を作り終えることができたので、本番の公開演舞に向けて、何度も実験的な演舞を実施することができた。この演舞を「あたりをつける」という意味で「あたり獅子」と名付けることにした。これは「交流獅子(地域の人々に見せる舞)」と「神獅子(地域の人々に見せることを意図しない舞)」との中間の意味での「あたり(中り)」の意味も込められている。この中庸的な実験演舞を行うことで、本番演舞の舞い方が洗練され、そしてバラエティに富んだものになると考えたのだ。
この「あたり獅子」には、前回の静岡・抜里の獅子での反省が生かされている。ぶっつけ本番でやるより、不確定要素やマイナス要素を限りなくゼロに近づけるという実験でもあった。これをやることで、獅子頭や胴体の補修や改善にもつながった。また、非常にシシが重いことを再認識して、毎日腹筋と腕立てを中心に筋トレを欠かさずに行うことで、それに耐えうる体づくりを行った。
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2回の公開演舞
3月30日の演舞の日。あらかじめ告知していたので「交流獅子(地域の人々に見せる舞)」としての特徴を持つ演舞となった。朝からそわそわしていたが、今回は断捨離を意識して本番に備えた。演舞前にいろいろと他のことを始めてしまうと集中力が途切れる。それならば、何もせずに天井を眺めていたり、シシを眺めている方が良い。何もしない方が、本番の演舞に集中できる。演舞のひとつひとつのイメージが鮮明に湧いてくる。船山さんは演舞前の準備を事前にやってくれたので、僕は本番の開始3分前に滞在場所の山本アパートを出て、開始場所である「かいだん広場」に向かった。
11時半から、14時からの2回の演舞を行った。それぞれ30分ちょっとの演舞であった。1時間以上舞ったつもりだったが、実は短時間だった。おそらく「あたり獅子」をしたからだろう。演舞をすることに慣れると、チューニングに時間がかからない。結果的に洗練されたコンパクトな舞いが生まれた。11時半からと14時からの舞いでは変化があった。コースの回り方が逆になったり、最初の始まり方が立位か仰向けかなどの細かい所作が変化したりした。
舞場としては、スピーカーを6個設置したかいだん広場と、交番横の大きな空間の2つのみ。あとは歩きながら、風景にツッコミを入れていくという流れだった。段差があれば上下上下と足を交互に載せてみたり、軽トラックの上に獅子頭を置いて休めてみたり、室外機に向けて大きく口を開けてみたり。どこか遊ぶような感覚で、目の前の風景に対して舞いを仕掛けた。平面的な舞台や道路では、獅子頭で地面を擦ってみた。そこで、さまざまなシシの動きが生まれた。また、後部の船山さんはそのシシの動きに合わせるように、胴体を揺らしてみたり、デザインをより鮮明に見せたり、ピンと張ってみたりして、良い掛け合いと読み合いが行われた。
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演舞を終えてみての感想ー黄金町に接続したシシ
今回の演舞を通して、地面に対する意識がより強くなった。演舞では地面をする動き、地面を掘る動き、地面と接触する足を多用する動きなどが生まれた。その動きの多様さはやはり「あたり獅子」による実践が大きかったように思う。
船山さんは演舞後に、観ているお客さんの顔が印象的だったという話をしていた。どこか朗らかな顔をしたシシは微笑ましくて、それはどこか地域の人々を自然と笑顔にさせていた。近寄ったり写真を撮ったり、知らない人も獅子に関心を持ってくれた。結果的にシシは地域をつなぐ存在であることを再確認した。
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さて、演舞を終えて「高架下スタジオsite-Aギャラリー」にて、とても良いポジションに展示をさせていただくことができた。映像&インスタレーションの形だ。当日の演舞を見れなかった方、ぜひこちらの展示を観ていただきたい。
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<制作スケジュール>
3月22日(金)稲村着
3月23日(土)船山着、レセプション参加、シシの素材集め、インドカレー
3月24日(日)シシの素材集め&黒布の購入、獅子頭&胴体の基本構造完了
3月25日(月)胴幕の増量、獅子頭を新聞等で装飾
3月26日(火)古地図の取り付け、衣装や胴幕の装飾・補修、中華でMT
3月27日(水)実験演舞「あたり獅子」
3月28日(木)衣装の決定、展示設備制作、メシキング挑戦、筋トレ、舞い練
3月29日(金)スピーカー設置実験、筋トレ、舞い練
3月30日(土)公開演舞×2本、動画とnote編集
3月31日(日)展示設営、動画とnote編集、出発
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