一目置かれたい
小さい頃からまあまあの目立ちたがり屋だったように思う。といっても、背も高くなく身体能力も度胸も責任感もそれほどだったので、クラスの中心のムードメーカーにはなれなかった。
だからいつも「一目置かれる」ような人に憧れていた。一目置かれる人は普段それほど責任を負うこともなく、いざというときにちょこっと目立てる、楽で美味しい立場だ。
小学校の頃は勉強がよくできたから、頭がいいということでなんとかなった。そして附属中学を受験した。
中学校ではギターを練習して、歌うまキャラになった。卒業式の日の朝、音楽室で友達とライブ(ゆずのコピー)をやった。
高校のサッカー部では、キーパーだけど足が速くてキックが上手い人になった。最後の大会ではメンバー外だった。
高校生までそうやってなんとか「一目置かれる」ことに成功してきたけれど、やはり大都会東京ではそうはいかなかった。
大学の同級生たちはまずもって、頭がすこぶるよかった。東京出身の連中はさらに、日本の最西端で育った僕より随分と垢抜けて見えた。
ファッションに熱をあげてみたり、女の子とたくさん遊んでみたり、麻雀にはまったりもしたけれど、全然それじゃあ「一目置かれる」人にはなれず、どんどん無気力になっていった。
ただその中で、小説を書くことをはじめた。これは久々に「一目置かれる」ことだった。
ファッションもやめて、女の子と遊ぶこともなくなって、麻雀もしなくなったけど、小説を書くことだけは今も小さな呪いのように、僕の頭の片隅にずっとある。
小説を書くことが好きかと言われるともちろんそうなんだけど、その中には、人から認められたいという思いと、初めて小説を書き上げた時の胸の高鳴りと、父親からの期待のようなものと、いろんな気持ちが混ざり合っている。
でもやっぱり「一目置かれる」なら、小説を書くことに対してがいいなあ、となんとなく思った一日だった。