英語字幕で楽しむおうち映画レビュー3「日の名残り(The Remains of the Day)」
イギリス映画に偏るのは私の好みなのでご了承ください、なんの前情報もなくたまたまNetflixで見つけた「日の名残り(The Remains of the Day)」、見終わってから基本情報を探した時に、カズオ・イシグロさんの代表作だと知りました。
イギリスのダーリントン・ホールで長年執事として務めたスティーブン(アンソニー・ホプキンス)が、過去に共に働いたミス・ケントン(エマ・トンプソン)を訪ねます。訪ねる道すがらと、共に働いていた第二次世界大戦前の屋敷でのエピソードが交互に描かれています。生真面目で融通のきかないスティーブンと、正義感が強く面倒見のいいミス・ケントンはあらゆることでぶつかり合いますが、そこにはほのかな恋心もあり、けれどそれは結局実ることはありません。最後にとうとう年老いた二人は会うのでしたが・・・
いかにもイギリスの執事という品格(dignity)を備えたスティーブン役のアンソニー・ホプキンズ。表情変えずにあらゆる感情を表す俳優、やっぱり素晴らしい。そして、エマ・トンプソンの正義感と女性らしさの狭間の芝居も素敵。そして、すごいなーと思うのは、舞台設定上20年の歳月が流れているのに、二人とも特殊メイクとかなく、素顔のまま年齢を重ねた芝居をしているところ。こういうの、ハリウッド映画とかだと、老けメイクしちゃいそう!と先入観持ちながら(笑)観ました。
屋敷の調度品や衣装、舞台設定などが細かくて美しくて、当時のイギリスの上流階級ってこんな感じだったのかーというのも見応えがあるし、それぞれの登場人物同士の人間関係とか感情とかが、すっごく抑えた中に全部緻密に組み込まれているのが見事なのですが、私的にはラブストーリーが焦点じゃない方がよかったなー、というのが観終わってからの感想。
言い争う二人に恋心が芽生えるのが中盤以降で、しかもなんか急。それまでに、スティーブンの父との別れや割り切れない感情、世界大戦に向かっていく不穏な空気が屋敷の中の出来事だけでだんだんわかってくる様子、上流階級の庶民への差別意識などなど、重厚なエピソードが積み重なっていて、それだけでメインテーマになるくらい話のスケールは大きいんですよ。なのに、結局後半のストーリーは、実らなかった恋の行方に集約されていってしまう(といっても、そこまで単純なストーリーじゃないですが)のが、ちょっと物足りない・・・
スティーブンが仕えた先代のダーリントン卿が、いわゆる善き人だったのに、だんだんドイツの独裁主義に加担していく様子や、誠心誠意仕えた主人のそんな様子を見ながらも何もできないスティーブン、後年彼がそのことを隠したり見栄を張ったりしてしまうという人間臭さみたいなものの方が面白くて、正直二人の恋の行方どころじゃない(笑)
とはいえ終始上品で、観終わった時、タイムスリップから帰ってきたような気分になったので、満足は満足。
英語学習的にはですね・・・政治トークは全くついていけなくて(ヨーロッパの歴史の知識も必要)日本語字幕で逐次確認せざるを得ませんでした。あと言い回しもあんまりストレートじゃないので、知ってる単語だけで成り立ってても、「それどういう意味!?」というのは結構多かった気が。
でも、スティーブンがミス・ケントンに言う
「I take my hat off to you」って、初めて聞いたけど、うわ、日本語もそのまんまだ!!「脱帽だ!」と発見して嬉しかったです(笑)
余談ですが、海外の映画にはこの過去と現代が交互になんの説明もなく行き来する作品ってけっこう多いですよね。親切に年代を表示することもあるけど、この作品は全くなし。だから、観る側の理解力が問われるし、それを当然のこととして進めてる気がします。前回紹介した「イミテーションゲーム」(記事はこちら)もそうだった。
だから、昨年、時代の行き来がさんざん「わかりにくい」と酷評された「いだてん」も、映画好きにはおおむね好評で、「何がわかりにくいのかわからない」という反応だったので(私も大好きでした!)、みんな映画観よう!って思ったのでした(笑)