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【短歌】夏田舎の思い出〜短歌とエッセイ〜


朝暮れて 夜のとばりを降ろしたり
雨過ぎ去りし あぜの風の音

(あさくれて/よるのとばりを/おろしたり/あめすぎさりし/あぜのかぜのね)

人知れず 田に住む蛙の 合唱団 
鳴き亡き泣かん 無縁仏の弔い合掌

(ひとしれず/たにすむかわずの/がっしょうだん/なきなきなかん/むえんぼとけの/とむらいがっしょう)



あれは小学生の頃、法事で田舎へ帰った熱い夏の日のことでした。

朝から雨が降っており、わたしは傘を持って近所の商店街へと出かけました。すっかり寂れ布団屋と漬物屋、それから離れたところに電気屋が立っているだけでした。いずれも木戸が閉まっていて、中がどうなっているのか分からず、当時のわたしにはなぜこんなにも寂れているのか、見当もつきませんでした。ただとても寂しく、喉奥が詰まるような悲しい気持ちになったことは、今でもはっきりと覚えております。


それから田んぼ道を小川伝いに歩きますと、一体の仏さまが立っていました。
雨に打たれた仏さまは哀愁を帯び、落ち着きをはらったうつくしい御貌をしていました。

しかし雨降る暗がりの下、田んぼ道の真ん中にぽつんと佇む仏さまは少し不気味で、わたしは軽く会釈をして走って家まで帰りました。


その夜、雨が止み一族揃ってご先祖様のもとへお墓参りに行きました。お墓は綺麗に整えられており、花が手向けられております。揃って皆、祖父母や曾祖父母の話をして懐かしみ、涙を流す人もいました。

ちいさなわたしは賑やかなお墓参りの帰り道、田んぼにひとり佇む仏さまを想い出しました。家族に訊くと、無縁仏と言うのだそうで、家族や身寄りのない方のお墓だと知りました。


寂しくないのだろうか―――

床に就き、畳の匂いとカエルのうるさいくらいに賑やかな鳴き声を聴きながら、夢の中へとまどろんでゆきました。


夏に訪れる蛙の声は、亡き方を送る合唱なのかもしれません――――

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