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週刊少年ジャンプ2025年11号の勧め~新連載と懐かしのジャンプ作品との出会い~


1 祝!週刊少年ジャンプで新連載スタート~『Bの星線』はいいぞ~


 2025年2月10日(月)に、いつものように月曜日に週刊少年ジャンプが全国の書店・コンビニで販売された。その表紙は新連載の漫画がメインビジュアルとなっているデザインであった。その新連載のマンガのタイトルは『Bの星線(せいせん)』(林守大:はやし もりひろ作)。ザックリ言うと、ドイツの作曲家で有名なベートーヴェンが現代日本に転生し、そこで出会った訳あり天才ピアノ少年である夜創一郎(やそう いちろう)を自分の弟子にする、というものである。既存の作品で例えると、週刊少年ジャンプナイズされた『パリピ孔明』(原作:四葉夕ト、漫画:小川亮、講談社ヤングマガジンコミックス)である。過去の偉人が現代日本に転生し、そこで出会った現代の才能の原石を輝かせるというストーリー展開という意味では『Bの星線』も『パリピ孔明』も共通である。


週刊少年ジャンプ2025年11号表紙。新連載『Bの星線』が存在感を放っている。

 週刊少年ジャンプで音楽をテーマにした漫画は私が観測した範囲では『PPPPPP(ピピピピピピ)』(マポロ3号作、ジャンプコミックス、全8巻)以来であるので、個人的には楽しみにしている。音が聞こえてこない漫画という媒体で「音楽」を題材にする漫画を連載するというのは一種の挑戦というか、実験的な試みだと思うが、だからこそ上手く漫画で・紙面で「音楽」を表現できればそれは「名作」と言えるだろう。『のだめカンタービレ』(二ノ宮知子作、講談社Kiss)『BLUE GIANT(ブルー・ジャイアント)』(石塚真一・NUMBER8作、小学館ビッグコミックス)がその筆頭と言えよう。週刊少年ジャンプにおいて『PPPPPP』は残念ながら連載は既に終了してしまったが、様々なピアニストが表現する音楽のイメージを絵で表現する(それも見開きなど大ゴマを多用するという手法で)というのが音楽に詳しくない少年少女の読者でも音楽の凄さを感覚的に・イメージで伝えられるという意味で画期的な作品であったと思っている。

 そして、話を新作の『Bの星線』に戻すと、まずこの作品の面白さを語る上でベートーヴェン大先生の存在は欠かせない。史実の彼は晩年全聲(ぜんろう:音が、耳が全く聞こえなくなること)となり病に伏せたが、現代日本に転生した彼は健康な肉体を取り戻し当然「音」も聞こえるようになっている。そんな彼が紡ぐ言葉は仰々しく、そして力強い。物語に干渉できない読者にも何か見えないエネルギーを与えてくるような堂々とした迫力がある。彼のそんな印象的な台詞をいくつか引用するとこのようなものである。

ベートーヴェン「…いいか?交響曲第5番は、聴覚がボロボロと壊れゆく中で生まれた曲だ!恥と孤独と諦観の坩堝(るつぼ)に発生した軋(きし)みと祈りだ…!大いなる自然の力強き囀(さえず)りだ!不道徳なる救いの閃光だ!膨張と収縮の宇宙だ!絶望と葛藤の宣戦布告だ‼‼――……あ――…とまあ、このように――言葉は重ねる程に軽くなる。私は…詞(ことば)のプロではないのでな。故に我々は楽譜と楽器に魂を託す。彼らは必ず応えてくれる。…ああ…音楽とは、なんと優しく…等しく…けなげな奴らなのだろう…。分かるはずだ。お前が、ピアニストであるならば。

『Bの星線』林守大作、#01「星と道化師(ピエロ)」

ベートーヴェン「万有引力を知っているか?原子と原子が、星と星が、引かれ合う自然法則だ。しかし!人が!音が!魂が!引かれ合うのは法則による偶然ではない!必然なのだ!故郷から遠く離れた未来の国で、貴様のような才気ある若者と出会ったのも決して偶然ではない!俺の大いなる最終楽章は今まさに始まったのだ!オレの弟子になれヤソーイチロー。

『Bの星線』林守大作、#01「星と道化師(ピエロ)」

 『Bの星線』におけるベートーヴェン大先生は耳が聞こえなくなったことと病により生命力が落ちきるという二つの絶望を味わった後で現代日本に復活したからなのか、その台詞には自然と生命力に満ちあふれた迫力が宿る。そして、何より彼の生命力が最大限に発揮されるのは夜創一郎君と交響曲第5番(俗に言う「運命」)を連弾で弾くシーンである。上述の『PPPPPP』の前日譚にあたる読み切り作品である『ダダダダーン』を想起させるものである。もう少し具体的に説明してみせると、大ゴマの効果的利用・集中線など背景効果の多用・コマ割りの工夫など、音楽漫画でありながらもさながらバトル漫画を読んでいるような迫力を感じるのである。他のジャンプ作品で例えると、『SAKAMOTO DAYS』『チェンソーマン』第1部で描かれるようなハイスピードアクションを読んでいるような感覚に浸れるのである。このように、ベートーヴェン大先生や音楽に関する知識が無くても漫画として十分に楽しめる作品なので、安心して読んで欲しいと思うわけである。

 また、私が個人的に『Bの星線』を読もうと思ったのは、夜創一郎君の因縁の相手と思われる花鳳院桜花(かほういんおうか)さんである。彼女の初登場時の立ち絵がドストライクだったのである。気になる方は是非本誌を読んで確かめてみて欲しい。

 なお、『Dr.STONE』において途中から科学監修に参加した「薬理凶室」の「歩く暗黒百科辞典」こと亜留間次郎先生もツイッター(現X)で『Bの星線』に反応している。


亜留間次郎先生のポストその1。『Bの星線』の細かい点についても「解像度が高い」とのお墨付きが得られた。


亜留間次郎先生のポストその2。博覧強記の亜留間先生らしい補則解説である。


2 他の掲載作品の勧め~古参ファンホイホイの巻~※ネタバレ注意


 さて、週刊少年ジャンプ2025年11号は新連載第1話の『Bの星線』が一番の目玉作品と思われるが、私が読んでいる作品の範囲内でこれはオススメ・面白かったという作品達を紹介していく。特に、昔から週刊少年ジャンプを読んでいた読者はいくつか「懐かしい!」とか「待ってました!」とか「まさかの!」といったリアクションが期待できる作品があるので、そちらを目当てに今週号の少年ジャンプを購入しても良いのではないかと思われる。

(1)『ONE PIECE』


 先週号で大量の情報(特に、『ONE PIECE』における世界の成り立ち)が投下された直後である今回の話は、「海賊王の左腕」こと「スコッパー・ギャバン」が本格的に本編(=ルフィ達の冒険)に関与するようになる話である。過去編ではほとんどギャバンの為人については触れられていなかったが今回でギャバンがどんなキャラなのかというのが一気に深まったと思われる。巨人族の女性と結婚して子どもを設けるほどに愛の深い男であり、自らを「愛の伝道師」と称する。そんなギャバンを見てルフィは「サンジが歳とったらこうなりそうだ」とコメントするほどだ。そしてこのルフィの発言はルフィがもし将来海賊王になれた際のサンジのポジションをも予期している発言のようにも思える。「海賊王の右腕」ことシルバーズ・レイリーはルフィの師匠となったわけだが、スコッパー・ギャバンはどういうポジションになるかが楽しみである。ルフィ達麦わら海賊団が海賊王になるにはまだまだ障壁や困難や謎が多く待ち構えていると思うが、改めてこれらを乗り越えて欲しいと思ったエピソードである。

(2)『超巡!超条先輩』


 連載1周年を記念してのセンターカラーである。超能力を使える交番勤務の警察官である超条巡(ちょうじょうめぐる)巡査長が主人公のポリスコメディ作である。そんな今回の『超巡!超条先輩』(以下『超条先輩』)に衝撃のゲストキャラが登場する。そのゲストの名は「左門召介(さもんしょうすけ)」。『超巡!超条先輩』の作者である沼駿(ぬましゅん)先生の前作少年ジャンプ連載作品『左門君はサモナー』(以下『左門君』)の主人公である。前作主人公登場という「オタクが大好きなアレ」である。『龍が如く7』で桐生一馬が登場するくらいのサプライズである。『左門君』連載時点での左門君はまだ学生だったが、今回『超条先輩』に登場した左門君は成人して便利屋として働いている。ただ、『左門君』連載時点と全く変わることなく悪魔を使役しているのである。そして、悪魔を使役するのは「欲深い人間が悪魔を使って破滅するのを見るのが好き」という捻くれた動機からである(『左門君』の過去編ではもう少しまともな理由があったはずだがあえてここでは打ち明けないことにする)。『左門君』は10年ほど前の作品であるにもかかわらず根強いファンのお手紙のおかげで令和のジャンプに再登場したわけである。そんな左門君の少年ジャンプへの帰還に歓喜した人物がいる。現在同じく週刊少年ジャンプで『魔男のイチ』の作画担当をしている宇佐崎しろ先生である。しろ先生はツイッター(現X)でこのような投稿をしている。


宇佐崎しろ先生のポストその1。「!」と「?」の数が尋常でないほど喜びに満ちあふれていることがわかる。


宇佐崎しろ先生のポストその2。『左門君はサモナー』のファンであることが窺える。『左門君』の作者である沼駿先生と同じ雑誌で連載できるのは奇跡のようなものだろう。『魔男のイチ』もよろしくお願いします。

 オチは左門君らしく積み上げた富が台無しになるまぁ予想された「お約束」というヤツである。左門君だけでなく上級悪魔であり左門君のお目付役であるネビロスさんを久しぶりに見られただけでも嬉しいというものである。そして、ラストには『左門君』のメインヒロインにしてキレッキレのツッコミをぶち込んでくれる「てっしー」こと天使ヶ原(てしがはら)さんも登場と、『左門君』ファンサービスに溢れた回であった。だがそれだけでなく、左門君を登場させることで逆説的に現在連載中の『超条先輩』の役割=市井の平和を守る公務員という立ち位置が強く印象づけられたような気がした。これからも沼駿先生の作品を追いかけようと思った次第である。

 そういえば、後述する『WITCH WATCH』でも以前、前作にあたる『SKET DANCE』のメインキャラ3人(ボッスン、ヒメコ、スイッチ)が社会人になって活躍するエピソードが出てきたことを思い出した。『アイシールド21』も連載終了からだいぶ時間を経過した2024年に連載21周年を記念して突如読み切りが掲載されたりするので(もっと言えば『Dr.STONE』も完結してから4本ほど読み切り1話と短編3話が掲載されたりしているので)、古参、あるいはかつて少年ジャンプを読んでいた読者も、定期的にでも少年ジャンプの動向をチェックした方が良いかもしれない。少年時代に読んでいた名作の最新読み切りが掲載される可能性が一気に増えたからである。さらに思い出したが、少し前の少年ジャンプでは『こち亀』と『超条先輩』のコラボ漫画があったりしたばかりだったな。連載自体は既に終了したとは言え、『こち亀』が掲載されているジャンプを読むと謎の安心感があるのは何故だろう。

(3)『WITCH WATCH(ウィッチウォッチ)』


 篠原健太先生の少年ジャンプでは2作目となる学園コメディである。『WITCH WATCH』は魔法使いの女の子であるニコ(現在は諸事情により幼児化)ニコの使い魔として振る舞う鬼の末裔モリヒトをはじめとした仲間達とのコメディあり時にシリアスなバトルありの漫画であるが、今回はニコ達のクラスメイトに焦点を当てた箸休め回である。漫画家を目指しているニコ達の同級生である嬉野さん(ペンネーム:ハイミ)がオリジナルの作品を少年漫画編集部に持ち込みに行くという話である。そのオリジナル漫画の内容は「女忍者が学校で騒動を起こすコメディ」というのだが(ちょっと前のジャンプで似たような漫画無かったっけ?と思われるがこれが伏線でもある気がする)、割と最近の少年ジャンプでは見られないエッチめなシーンが多めという漫画である。嬉野さんは二次創作の男性キャラを描く時は普通なのだが、女の子キャラを描くとどうしてもエッチな絵になるという特性があるのである。とはいえ、「内容自体はポップで面白い」と事前にその漫画を見せて貰った嬉野さんの教師兼ハイミファンの真桑先生からのお墨付きを得て、少年漫画編集部へその作品を持ち込みに行く。編集部からの講評は「十分新人賞を狙えるほどのクオリティ」とのお墨付きを得られたが、一方で、「この漫画は掲載できない」とも言われてしまう。理由は、「エロが企画の中心と見られる漫画は少年誌ではもう難しい」とのことである。それでも嬉野さんは「憧れの漫画家が連載している雑誌に自分の漫画を掲載したい」と譲らない。そんなやりとりを偶然聞いていたその憧れの漫画家は持ち込みの場に訪れ嬉野さんに「どうしても表現が難しい場合は煙に巻けばいい」とアドバイスを送る。そのアドバイスを聞いた嬉野さんはある漫画家の実在のエピソードを披露する。かつて『To-LOVEるーとらぶる』という伝説的なラブコメ(エロコメ?)作品が連載されていた頃、お風呂のシーンで編集から湯気を大量に投下されたというものである(最初はシルエットで隠されていたのだが、シルエット越しでも何の作品か、あるいは何のキャラクターかわかるキャラクターデザインなのは流石矢吹神というべきだろうか)。どうしてこのようなメタい事情が詳細に語れるのかというと、篠原先生と『To-LOVEるーとらぶる』の作画担当である矢吹健太朗先生が(お互いの妻が姉妹ということで)親戚になったことから細かい事情まで窺い知れるという裏話があるためである。それはともかくそんなアドバイスを糧にして半年後に嬉野さんは新作で雑誌掲載を果たす。上手いことオチがまとめられており、篠原先生は『SKET DANCE』の頃から1話読みきりのエピソードを描くのが上手いと思っていたが、『WITCH WATCH』を経て更にキレが増していると感じる。安定して面白い漫画であるから読んでて安心するのである。『WITCH WATCH』は次週連載4周年を記念した巻頭カラーが掲載される予定なので『WITCH WATCH』ファンは来週のジャンプをチェックすることをオススメする。

3 おわりに~なんだかんだ言って日本の漫画雑誌って面白くないですか?~


 今回は週刊少年ジャンプの漫画紹介をしたわけだが、今回少年ジャンプに関する投稿をしてみて気付いたことがある。それは、なんだかんだ言って日本の商業漫画雑誌に掲載されている漫画や単行本化され発行されているマンガは面白い作品が多いのではないか、ということである。何を当たり前のことを言っているのかと思われる人もいるかもしれないが、正直私は少年ジャンプはそろそろ潮時かと思い、逆に今まで気にも留めていなかった漫画雑誌(に掲載されている作品)の方が勢いがあって面白いのではないか、と思ったからである(単に自分の趣味・嗜好が少年誌掲載作品と合わなくなってきただけというのもあるかもしれない)。少年ジャンプは看板作品であった『呪術廻戦』や『僕のヒーローアカデミア』だけでなく、『アンデッドアンラック』や『夜桜さんちの大作戦』も連載が終了して、なかなかジャンプは厳しいものがあるのではないかと思った。しかし、蓋を開けてみれば面白い作品は連載作品の中にもまだ残っているし、今回の『Bの星線』のような面白い新作が生み出される土壌も残っている。一方、最近まで自分があまり関心を抱いていなかった少年サンデーには、私が少年時代にお世話になった福地翼先生が新作をひっさげて少年サンデーに帰還を果たしたことで少年サンデーを購入するようになり、また数年前までは全然読んでこなかったヤンマガ掲載作品ばかり最近ハマっていることが多い気がする。もっと言えば、媒体を問わず小学館は漫画作品それ自体やその宣伝に力を入れているような印象を受ける。
 
 ネットを見ると「現在のジャンプは暗黒期」等という言説が囁かれているが、実際にジャンプを読んでみると多種多様な「面白さ」が眠っていることが実感させられる。そして、そのことは他の漫画雑誌でも同じことである。「最近の漫画雑誌はつまらない」と思う前に自分の漫画を読む感性が衰えてないかと疑ったり、同じ漫画雑誌を読むだけでなく別の漫画雑誌に目を通してみるという「冒険」をしてみるといったことが大切ではないかと思う今日この頃である。

 色々な漫画や漫画雑誌の話までしてしまったので本筋がぼやけてしまった感が否めないが、私が今回一番伝えたいのは「ジャンプ新連載作品『Bの星線』が面白そうなのでオススメです」ということである。是非今後の少年ジャンプに注目して欲しいと思った次第である。読者の皆様が少しでも面白い漫画との出会いにこの投稿が貢献できれば幸いである。


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