ミュージカル「ビリー・エリオット」
素晴らしいミュージカルだと思う。
キャストの方も真に実力のある方ばかりだし、話題性だけの「おやおや?」と思う人もいなかったし、子供たちも素晴らしかった。
でも、このモヤモヤはなんだろう・・・
長いストライキが続くイギリスの炭鉱、毎日のように続く抗争、命がけのデモ・・・そんな中で生まれた12歳の少年ビリーはバレエに惹かれ、その才能をバレエ講師に見出されて、名門バレエ団の入団を目指す。
奇しくも、1カ月ほど前に観た「フラッシュ・ダンス」とほとんど筋書きは一緒。
どうしようもない貧しさと環境、そこから自らの才能で抜け出すべく、多くの人に導かれ、または反対されながらも「新しい世界」へと旅立つ物語。
モヤモヤしたのは、第一に「名門バレエ団」の素晴らしさ、というのが「どうなんだろう?」と思ってしまうから。
コロナ以降、いや、それ以前から多くの価値観は変化した。「絶対安心」「絶対的な価値」なんてものはどこにもない。
まあ、勿論、どちらもひと昔前の話だし「権威ある場所」というの多くの人にとって価値はあったのだろう。
でも、今、「価値」は自分で作る世界に変化している。
それこそ、「ユーチューブ」などで自分で「ダンス動画」をアップして有名になる人がたくさんいる時代。
まあ・・・この時代は「貧困」から抜け出すには、「権威ある場所」に行くこと以外に方法がなかったのかもしれない。
後、私自身の個人的な大層卑屈な感情が湧いてくるのかもしれん。
私も生まれた場所から「新しい場所」に出てきたけど・・・「才能」とか別にないのに大都会に出てきてしまってすみません、みたいな・・・
大都会に来る前に「そこで成功するのはほんのわずかだよ」と多くの人に諭された。
それは「成功しない人は死」みたいな恐ろし気な諭しだった。
しかし、実際は「成功しない人」でも「そのまま生きていかねばならない」というさらなる地獄(言い過ぎ?)が待っていた。
後、私はそこまで「権威ある場所」にはいなかったので、そんなに知ってる風のことは言えないけど、多くの人がせっかくそこまで来たにも関わらず「たくさんのトラウマ」を抱えて去ってしまう現実がある。
勿論、ビリーは成功する。成功して有名なダンサーになれる。
それがちゃんと暗示されているから安心して見ていられる。
でも、私の気持ちは、才能もなくきっかけもないため貧しい世界から抜け出せない人や、せっかく抜け出してもそこで傷つき、どうしようもないトラウマを抱えて、それでも長い人生を生きていかなければならない人に心が向かってしまう。
ビリーの女装が趣味の男友達はすごく良かった。なかなか日本のドラマではこういう子は描かれないんじゃなかろうか。
また、バレエ仲間の小学校高学年くらいの女の子たちの爆発するような「うるささ」や「エキセントリックさ」がすごくよく描かれていたと思う。このくらいの女の子たちって本当にすごく変なところがあるよなあ。
それにしても、せっかくミュージカルを見たのに、なんだか元気をもらったり、ぱっと心が晴らすことができませんでした。