AMR(薬剤耐性)について知ろう(2)「かぜに抗菌薬(抗生物質)は効きません」

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
AMR臨床リファレンスセンター
藤友 結実子

今回は「かぜに抗菌薬(抗生物質)は効きません。」というお話です。抗菌薬は、抗生物質とも言われています。抗菌薬も抗生物質も、細菌をやっつける薬であり、一般的にはどちらも同じものです。

「かぜ」という言葉は、いろいろな場面で使われます。「かぜをひいた」と言って受診する患者さんのお話をよく聞くと、喉が痛くて鼻水が出る場合もあるし、頭痛のこともあり、また発熱と体のだるさのこともあります。お腹をこわしているのを「かぜ」と言われることもあります。

医学的には、「かぜ」は、数日から数週間の経過で、上気道の症状が起こっているものをいいます。上気道の症状とは、具体的には、鼻(鼻水・鼻づまり)、喉(喉の痛み、声がかすれる)、咳といった症状です。そしてこれらの症状は、主にウイルスが感染して起こしています。

ウイルスと細菌は、どちらも肉眼では見えない小さな生き物ですが、全く異なる生き物です。

細菌はウイルスの10〜100倍くらいの大きさがあり、自分でエネルギーを作り出し、2分裂して増えますが、ウイルスは自分自身を複製するのに、他の生物の細胞の中に入り込んで、そこにあるものを利用します。

抗菌薬(抗生物質)は、細菌をやっつけるものなので、ウイルスには全く効果がありません。
お医者さんを受診して、かぜと診断されたら、それは抗菌薬(抗生物質)が効かないタイプの疾患なのです。

ただ、ごく稀に、最初はかぜのように見えていたのに肺炎だった、とか、かぜではない病気のことがあります。(医師側の言い訳のように聞こえるかもしれませんが…)医師はそのような兆候がないかを診察でみています。場合によっては慎重に経過観察が必要なこともあります。

そのため医師の診察を受けて説明を聞き、わからないことは質問するなど、医師とやりとりをすることはとても大切なことなのです。

「かぜに抗菌薬(抗生物質)は効かない」ということを知っている人は、日本では、実は意外に少ないです。

AMR臨床リファレンスセンターが、今年の9月に行ったインターネット調査(1)(回答数688名)では、
「抗菌薬・抗生物質はウイルスをやっつける」という質問に対し、
「当てはまらない」と、正しく回答した人は23.1%であり、
「当てはまる」と、間違った回答をした人は64.0%でした。

2017年に行った別のインターネット調査(2)でも(回答数3192人)、
「抗生物質はウイルスをやっつける」を、間違いだと回答した、正しい認識を持つ人は20.3%であり、正しいと回答した、間違った認識を持つ人と、わからないと回答した人を合わせると
79.6%でした。

また「風邪やインフルエンザに抗生物質は効果的だ」を、間違いだと回答した、正しい認識の人は22.1%、正しいと回答した、間違った認識の人と、わからないと回答した人を合わせると
78.9%でした。

つまり、抗菌薬(抗生物質)の効果について、
正しい知識を持っている人は、日本では約2割程度で、残りの8割弱は間違った知識のまま、もしくはよくわからないまま薬を飲んでいるのです。

日本では、EU諸国と比較して抗菌薬(抗生物質)に関する正しい知識を持つ人の割合がかなり低いです。

ヨーロッパで行われた同様の世論調査(3)では、
「抗菌薬・抗生物質はウイルスをやっつける」という質問に対し、正しく回答した人の割合はスウェーデンで74.0%と最も高く、EU 28カ国の平均は43.0%でした。

日本は最も正解率の低いギリシア(正解率23%)と同じくらいの正解率ということになります。

日本は医療制度も整い、最新の治療も受けられる医療先進国であり、教育制度も整っているにも関わらず、このような現状となっているのです。

以前、私がスウェーデンの抗菌薬適正使用を推進している機関を訪問した時に、
「“かぜに抗菌薬は効果がない”という知識が市民に普及し、また、医師がかぜに抗菌薬を処方しなくなるまでには20年かかる」、と言われました。人々の認識と行動を変えていくには、そのくらい時間がかかるだろうということです。

現在、薬剤耐性対策アクションプラン(4)が策定されたこともあって、日本でも抗菌薬の適正使用を進める取り組みが様々行われています。

「かぜに抗菌薬は効果がない」という抗菌薬の正しい知識をすべての人に知ってもらい、私達の命を救う抗菌薬を大切に使っていくことを、少しずつでも着実に進めていきたいと思います。

画像1


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(1)抗菌薬意識調査レポート 2019 http://amr.ncgm.go.jp/pdf/20190924_report.pdf
(2)一般市民のAMRに関する意識調査の1年経過後の追跡調査
薬剤耐性(AMR)対策アクションプランの実行に関する研究 平成29年度 厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201718025A

(3):「Special Eurobarometer 478」Antimicrobial Resistance, September 2018

(4) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

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