空をつなげて
“…もしもし”
電話口から、彼の声が聞こえてくる。
何か違う。
彼の声 震えてる
息の多くて 深い声
…ああ すすってる
泣いてるのね
おかしいと思った
こんな時間に しかも彼から電話が来て
自分で掛けたくせに 第一声がいつもより一瞬遅かった
夜更かしていて 良かったわ
今 あなたは悲しいのね
男なのに
泣いたらおかしいよね
よく言われるんだ
弱いな僕は
彼は今更そんなことを言う
いいんじゃない、とわたしは返した。
心が冷えたとき 抑えることなく 涙してしまうあなた
それは とても素敵なことなのよ
簡単にできることじゃ ない
あなたは 天才なの
わたしは そんなあなたが 大好きよ
彼の鼻をすする音だけが
今 この空間に 響いてる
彼は今 ひどく傷ついている
最近、電話先のこの人と会えていない
だから わたしも 寂しかった
久々に声を聞けたと思ったら このありさま
世界は なんて卑怯なの
今の時代 みんなネット社会
でも ビデオ電話は寂しい、と彼は言うの
ビデオ電話で楽しく話して
そろそろ終わりましょう またね、と切ったなら
その切った後の余韻に浸るのが 彼は寂しいと言うの
今日は八月二十二日
そうだ
明日、Youtubeを観ましょう
“すごい動画を上げるから 楽しみにしてて”って
今回は 彼らから 元気をもらいましょう
彼らのことだから きっとプレミア公開よ
空を見るには わたしたちは顔を上げなければならない
でもこれなら 俯いたままでも 繋がることができるでしょう?
観終わったら また電話をしましょう
今度はわたしがあなたに掛けるわ
約束よ、と声を掛け わたしたちは電話を切った
当時 わたしは何の気もなく提案したが
彼の 最後の返事
思い返せば どこか不満そうで
それを頭の中でリピートしては
わたしはフフッと笑ってしまう
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