あなたの感性、いただけませんか ~フィクション・ストーリー~ 7
四、ひとりは一人、一人は二人に
その後逮捕された女性は、警察の取り調べで犯行の動機をこう話した。
「あいつは何でも持っていて、羨ましかった。私よりかわいそうな時期もあったけど、しばらくしたらまた幸せそうなあの憎らしい笑顔を向けるようになったわ。虫唾が走って嫌だったから、途中から近づくこともやめたのよ。あんなチビでブスなのに、どうしてあんなに与えられるの?どうして私はそれを見なければならないの!あんな最低人間、不幸でなきゃいけないの‼でなきゃ、私みたいな人間は生きる権利がないでしょう‼
それに…あいつは独りじゃない。あんなに格好良い人がそばにいるなんて…。それが、許せなかったのよ‼」
人々は何もなくなった身体を囲んで、中から誰かの大きな悲鳴ともとれるような鳴き声が響いた。どのくらいまで届いただろう。
陰からその惨状を眺めながら、彼は思った。
彼女はそれが出来なかったのに。もし出来たなら、彼女はどれほど楽だっただろう。いなくならなくて済んだんだ。それを誰も気付かない。今も。ここだけじゃない、世界全体が、余裕がないんだ。
僕は、君の口を守って、鎖を解いて、自由にしてあげたかったんだ。
後ろから小さな背の少女がかけてきて、彼の背を抱きしめた。
「聡。」
彼は、振り返らずともそれが誰なのかがすぐに分かった。二人は手を繋いで、しばらく歩いた。“これからはずっと一緒だね”。少女はとても嬉しそうだ。少女にとって彼は、この世界の先輩になる。
「私、これから何をしたらいい?」
少女が聞くと、彼はフフッとほほ笑んだあと、笑顔でこう答えた。
「あの話を書いて。完結させて。」
もうこの先はない。終わりようがない。
大丈夫、もう君は独りにならないよ。ずっと僕がついているから。君を支えるよ。惜しむことなく、君に僕の全てを捧げたい。僕の感性、君にあげるよ。