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あなたの感性、いただけませんか ~フィクション・ストーリー~ 6

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キャアッ‼

素明が差し出した手は振り払われ、手に持っていたシャープペンシルはカタンッと音を立てて床に転がった。この音が素明の義母を冷静にさせてくれたのだろう。義母は「あっ、ごめん」と謝った。素明も「うん」とだけ冷静を装って返した。目の前の人間が急に態度が変わったのだ。驚かない訳がないだろう。しかし、二人の間にはそれを出せるだけの関係性はなかった。それでも、このことに気付いていたのは、素明くらいのものだろう。
その後義母は気まずくなったのか、すぐに帰った。彼女を見送った後、素明はリビングのソファに腰を下ろし、大きなため息をついた。いくらごめんと謝られようが、急に大声を出されて傷つかないわけがない。声を上げた本人は逃げるようにそそくさと帰っていったが、今素明は家の中でポツン、と独りである。急に起こった驚きと衝撃の余韻がまだ続いていて、彼女はどうやら心が折れてしまったようだった。

“そうか。私はそれほどまでに異常な人間なのか。”

素明は自分が憎らしくなり、叫びたくなるほど胃がハラハラうごめいていた。このどこにもあたりようの無い怒りにひとしきりのたうち回ったあと、素明はいつの間にか眠っていたようだ。目覚めた時には、あれほどイライラして苦しんでいたのが信じられないほど、不思議なくらいにすっきりとしていた。
そうだ、あの時の場所へ行こう。ふと思い立ち、素明は家を出た。
素明は街中をフラフラと歩いていた。ボーっとしながら、そこに心は存在していなかった。街がまとう色たちの騒がしさも、街を歩く人々の騒がしさを越えた耳障りな音たちも、今の素明には感じることができない。耳も目も、塞がっているようだった。
足と肺だけがただひたすら運動を繰り返していたら、突然トンッと人が押してきた。最初はただ押されただけかと思ったが、何だか背中が熱い。じわじわそれが痛みに変わってきた。だんだん目の前が青くなっていく。貧血か…? 力がだんだん抜けていく。視界がぼやけていく。あぁ、飛ぶ。素明は最後にそう思った。

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