【素材メモ】そうじゃなかったとして

(AとBは向かい合った席に座っている。が、BはAからみて左方向に体を向けて座っている。)

それを聞いて、Aは言った。

A)それは 愛じゃないね

彼女は微笑んで 答えた

B)そうでしょうね

A)そうやって自分を縛りつけるの

B)それが 私の生きる理由です。一つくらい背負って生きた方がいいから 私が生きるには、そっちの方がふさわしいでしょう

A)自分に鎖を付けても 何にもならないよ 自分を…

B)仮に私がそれをやめたとして、誰が私に愛をくれるんですか、あなたがくれますか?

Bは珍しく相手の方を向いて喋った。AはBを見つめたまま黙った。

B)くれますか

BはAへの視線を外し、顔を自身の体の向きに戻した。

私は昔から、人との縁がないんです。大きい大人たちが、周りの子たちと笑いあっている光景はたくさん見てきたけど、私はすり寄わないともらえません。もらう事からじゃないと人との関係は始まることはない。だから私はあの人との一方的な契約を結びました 他に被害が無いから

Aは、優しくなげかけた。

A)君は 珍しくも愛が何かを知っている人だ

今度はBが押し黙った。Aの方を向くということもなく、ただぼーっと何かを思い返しているかのような遠い目をしている。

Aは頬杖をついて、彼女のその姿をじーっと見つめた。その顔は決して厳しいものではない。ほんの少し笑みの見える、優しいまなざしである。

15秒ほど経つとBは一時の気絶から覚めた魚のように、はぁっと息を吸ったかと思えばよくみる笑顔が戻り、身体ごとAの方へ向け、先の彼への当たりが嘘かのようないつもと変わらぬ明るい声を発した。

B)変えましょう。何か話題…ありますか?

そう言い笑い出した声は、聞きなれたかわいらしい彼女特有のものだった。

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はぐみ/明月詩織
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