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宿り木の下、愛する人の手を引いて

尊敬する人は誰かと聞かれたら
私はあなたを挙げません
一番好きな曲は何かと聞かれたら
あなたの作った曲は 決して選びません
それは
どうして好きなのかを聞かれたときに 話せないから
誰からの問いもそうです
一つテーマを作って論じなさいと言われたなら
あなたを取り上げるのは 一例程度でしょう
それは
私の情が 入ってしまうから
まだ何も始まっていないとはいえ 私には分かります
人として やってはいけません
それほどまでに あなたは私の中にいるのです


君は これを読んでどう思う?

こんなゆったりとした二胡の流れるカフェに
しかも干支以上に離れた男から誘われる日が来るとは
きっと目の前の彼も 思っていなかっただろう
ここではよく 妻と一緒に静かな朝を過ごす
彼がそれを知っているのかは知らないが
そんな場所で私は 
彼の心を知っておきながら
いつぞやのラヴレターを読ませ 感想を問う
申し訳ないと思いながら

素敵な手紙だと思います 
本当に一途に愛しておられるのが伝わって 心温まりました

目の前の 二十代にしては信じがたいほど出来すぎたこの好青年は
妻からの手紙を まるでシルクでも手入れするかのように両手で取り
やさしく微笑みながら そう言った
ここまで温かな笑みを 私は母と妻以外では見たことがない
このまなざしを 我が妻にも向けてくれているのだろう
他人には珍しいと言われるが
妻には 興味を持つ人が現れたなら 自分から声を掛けてみなさいと言ってある
彼は今どきにしては珍しく
言葉に心を乗せることが得意らしい
私よりよほど都会寄りで生まれ育ったとは聞いているが
本当に彼は “今どきの若者”なのだろうか
彼女とは 私よりうんと年が近い
私の方が先に出会ってしまった 彼女の運の悪さよ
私の存在を知ったとて 
それでも変わらず 彼女に色々教えてくれている
あの心配するほど難しい彼女の心を開いた 極めて勇敢な勇者
私は 将来彼にこの手紙を託したい
 
我が妻よ、
私を愛しながら
彼も愛しなさい
私達二人の時間は充分過ごせた、と思う日が来たら
君が愛する人へ向けてくれる愛情を
少しずつ 
彼へと割合を増やしていきなさい
そして私がこの世を去ったなら
彼と一緒になりなさい 
それが 
私の生涯最大の 幸せだ

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はぐみ/明月詩織
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