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ジョン・オグローツ 20周年PBラベルについて
※本稿の画像はデータイメージのため本来の色味とは異なります
・概要
埼玉県草加のモルトバー「Scotch Bar ジョン・オグローツ」様の20周年 プライベートボトル(以下PB)ラベルについての解説です。
デザイン業務としてもあまり機会のない「ウイスキーのPBラベル」。
せっかくの機会ですので、それぞれの箇所がどのような理由でデザインされたのかをお伝えしたいと思います。
(スコッチウイスキーのラベルデザインにあたり厳守しなければならないルールが存在するのですが、ここでは割愛します)
・デザインコンセプト
ウイスキーへひたむきで、「マスター・オブ・ウイスキー」(第2代)の資格を持つほど実直な 鈴木勝二 氏の人柄を表現することを第一に考えました。
20周年という大きな節目を祝福しつつ、筆記体など多用するエレガント系デザインではなく正装をイメージした “スコッチウイスキーとして真っ直ぐでフォーマルなデザイン" をコンセプトに置きました。
また、ラベル単体ではなくボトルとして立体物になったときにこそ映える デザインにしています。
【メインカラー】:青 (DIC641)
まずは鈴木氏にメインカラーの色彩を伺いました。
それを基に周年PBラベルとして相応しい「青」となるよう、お店の顔である看板と同じ色合いを表現できる特殊インクを探し出し「DIC641」を選定しました。
これは通常の印刷で用いるCMYKだけでは再現できない特別な色合いです。
・デザインの方向性
まずはラベルデザインに対する鈴木氏の希望や好みを取材し互いの意見を擦り合わせた結果、イラストや写真などをあえてメインに据えず、文字情報が主体のシンプルな構成でデザインを進めることとなりました。
【シンプルだからこその 2色印刷】
パッケージデザインで豪華さを表現する印刷物は、通常であれば「4色」または「4色+特殊1~2色」など、コストをかけて豪華に仕上げる事が多いのですが、本件ではデザインの方向性を重視し 印刷コスト削減策も兼ねた2色刷りに。
特殊インクを使うことにより表現力のある発色が得られるため、少ない色数でもリッチな印象を持つ仕上がりとなっています。
・各部の解説
【上部】
店名のレイアウトは実際の看板をイメージし、最上部へ。書体は店内の落ち着いた雰囲気を表現するためブランケットセリフ体を使用しています。
【クロス】
続いてラベルを横断する白いクロスは、鈴木氏が自らの脚で縦断した「スコットランドの国旗」がモチーフです。
スコットランドの国旗というと「直線的なクロス」が特徴的ですが、ボトルラベルという立体物の特性上 直線のクロスをそのまま配置すると完成品では意図せぬ形に見えてしまうので、以下のように調整を行いました。
【調整の比較画像】
このようにボトルを正面から見た際に、そのままではクロスが歪んでしまいます。
これを人間の目で見た時に “直線状のクロス" が現れるよう錯視調整しました。
また、ラベル単体で紙面上のときにだけ表れる限定的な要素ではありますが、クロスラインを「流線」で表現することにより店内でモルトウイスキーを楽しみつつ感じられるスコットランドとの交わりを表現しています。
【錯視調整について】
余談ですが、この錯視を逆に利用しているのが2016年 銀座4丁目交差点に開業した「銀座プレイス」(旧サッポロ銀座ビル)の外観です。
一見、丸みを帯びた建物に見えますが・・・
実は平面なんです。
初めて見た時には錯視のデザインスケールに驚きました。
次項で触れている文字間隔調整などもその一部ですが「目の錯覚」というは平面・立体問わず、デザイン上はどうしても避けて通れない問題です。
しかし、銀座プレイスのように特性を理解し上手く利用する事で表現力に換えることができる部分でもあるので、デザイナーの腕の見せ所というわけですね。
【下段中央】
下段中央にはスペックを中心とした、コアな情報を集約しました。
BARでオーダーしたボトルが気になったとき、状況によってはラベルをじっくり見る事ができない場合があります。 そんなときでも、ボトルのセンターライン上にレイアウトされた この部分だけ見てもらえれば、すぐにスペックが判別できるよう、重要な情報は白文字で属性ごとにグループ化し、下部の領域内にまとめています。
また、本件のようなボトラーズリリースを飲まれる方々には特に関心が高い部分ですので、筆記体や特殊な書体を使わず可読性の高い書体を用いてデザインしています。小さめの文字でも視認性を損なわないよう、複合書体や文字間隔を0.1mm単位で調整しました。
【下段左部】
下段左部はお店の入口・看板を写真ベースのイラストで表現しました。
鈴木氏の『お店のイメージを控えめに、かつビジュアルで伝えたい』との希望を汲み、来店の際に見える光景をシンボル化。
まだ来られた事の無い方には来店時の目印に、お店を知っている方には楽しい想い出のきっかけになる役割も持たせています。
【下段右部】
対となる下段右部には、鈴木氏が自ら想いを綴った看板の文言を海外の方へ向けて英訳。 翻訳は英語が堪能な方に依頼し「和英→英和」の再翻訳で意訳の確認も行っています。
【看板の文章】(引用)
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皆様 お疲れ様です
今の御時世、最も安全な飲食店の一つはオーセンティックバーです。
当店は開業以来、大声を出す方 団体の方はご遠慮頂いてきました。
お一人で安心してお酒をお飲みになりたい方はどうぞお立ち寄り下さい。
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実はこの看板、
・「お店の趣旨を書いたもの」
・「昨今の世間的状況に対する鈴木氏の想いを綴ったもの」
の2種類が存在しており、今回はあえて後者を選んでいます。
もし仮に通常のPBラベルであった場合はお店の主軸として掲げている前者を選びましたが、20周年という“今"だからこそ その時の状況を含めた後者の看板を掲載することにしました。
何年後か、再びこのラベルを見たときに『あぁ、当時はそうだったよね』と振り返ることができるようにという想いを込めています。
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【おわりに】
以上がPBラベルデザインについての解説になります。
線の太さ、文字の大きさ、配置、間隔、書体、形状・・・など、どんなに小さな箇所でも、その全てにはデザインとして様々な理由があります。
ここで触れた項目は比較的 大まかなものではありますが、制作時にどのような目線や考え方を持って仕上げていくのかが皆様に少しでも伝われば幸いです。
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