「通りすがりの主婦です!」と言ってみたい
漫画『鋼の錬金術師』で、主人公2人の師匠・イズミさんが錬金術で洪水を止めて、村を救うシーンがあります。村人の「あんた何者だい?」の問いかけに、「通りすがりの主婦です!」と、さらりと答えるイズミ師匠(うろ覚えだけど確かこんな感じ)。
最初に読んだとき、イズミ師匠かっこいい! 私もいつか「通りすがりの主婦です!」って言ってみたい! と憧れていました。
それから数年が経ち、息子が通う小学校のバザーでお化け屋敷をお手伝いすることになりました。段ボールで井戸を組み立てたところ、皆さん褒めてくださいまして。あるママさんから「しろたぬさんって、何者なんですか!?」と問われました。
何者、なんですか――?
言えるぞ、あのセリフが!
でも言えませんでした。
せっかくのチャンスだったのに、あんなに憧れていたのに、言えなかった。
あれは、大洪水から村を丸ごと救えるスキルを持っている人が言うからかっこいいのであって、「ほぼ主婦」の人間が言ったら、まんまやん!というか、ただの自己紹介になってしまいます。
そもそも、そのときの私は自分を「主婦」と言いたくなかった。そりゃあ食事作りも洗濯も掃除も私がやっているから、はたから見れば紛うことなき主婦だけど、主婦じゃないもん。ずっと家にいるのはPCで仕事してるからだもん。メイ、主婦じゃないもん。
誤解なきように付け加えますと、主婦がいいとか悪いとかを言いたいわけではなくて、毎日一日中絵を描いてるけど、自分を画家とは名乗りたくない人、みたいな感覚です(そんな人がいるかはともかく)。
井戸を褒めてもらったことはとても嬉しかった。でも、結局「段ボールで息子のライダーベルト作ってたから、慣れてるのかな~」みたいな、おもんない回答しかできませんでした。何か自分が誇れるスキルを別に持っていたら、あるいは自分を主婦と全肯定できていたら、言えたかもしれないのに。
もし次があるなら、あのセリフを堂々と言える自分になっていたい。何か誰かの役に立つようなことをした上で、「あんた何者?」の問いに笑顔で答えたい。「通りすがりの主婦です♡」と。