北欧がなぜ福祉国家なのか考えてみる
ヨーロッパ中央から北に外れた、男性器のような形をした半島。
スカンディナビア半島、通称北欧。
ここに連なるデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドは福祉国家としてあまりにも有名である。
その特徴的な福祉政策は社会民主レジームと呼ばれている。
ではなぜ、北欧は福祉国家に成り得たのだろうか?
少し考えてみたい。
人口が少ない
土地的にクソ寒いので、人が少ない。
1番多いスウェーデンで約1000万。神奈川県より少し多いくらい。
その他の北欧諸国は約500万。兵庫県や福岡県くらいである。
人口が少ないということは国の運営、経済的に大きなハンディキャップとなる。
資本主義経済で国際競争率を高めていくためには、より多くの人が経済活動をしてくれるようにしないといけない。
そうなると障がい者も高齢者もフル活用しないといけなくなる。
ニートがいれば社会に引っ張り出し働かせなければならなくなる。
家族の世話で仕事をやめざるを得なくなる家族が出てきても困る。
そう考えると、多くの人を社会の一員として参加させる制度が生まれてくるのが自然である。
そうなれば、障がい者の就労支援は進む。
ニートが出ないよう転職支援や技術支援は進む。
ケアの必要な障がい者、高齢者が家族にいても働くことができる制度も進む。
要は、人口が少ないからみんな社会の一員となってしっかり経済活動してくれっぴ!ケアが必要な人は社会で見ていくっぴ!家族は安心して働いてくれっピ!
というわけである。
そう考えると日本はまだまだ人口も多く、経済も強く、金持ちが多い。
障害者や高齢者を家族で支える文化はまだまだ残っているし、金持ちが莫大な社会保障費を負担し福祉を支えている。
地理的に外に出られなかった
スカンディナビア半島の周りを見てほしい。
東はロシア、南はドイツ、西はイギリス。
帝国主義時代にこいつらが、他国をこき使う植民地政策をしていた頃、北欧諸国は引きこもって国内の開発をしていた。
植民地政策をしようにも、列強に囲まれているため出られなかったのだ。
デンマーク・プロイセン戦争で笑えないくらいのボロ負けをし凋落してからは、北欧諸国は引きこもり政策に惜しんだ。
列強が、「自国を強くするには他の国から搾取すりゃいいんだよ」と拡大政策をとしている間、荒地を耕し、沼地を開発し、人に投資をしてきた。
このように内政に特化してきた長い過去がある。
その中で、国民に国内の開発を納得させるための税金の使い道の透明性は洗練されていった。
国民が政治に対する信頼も高くなった。
この歴史が、現在の税金の高負担にも耐えられる国民性になっているのではないか。
そして、高い税金でも、いずれ巡って自分の元に戻ってくるという政治への信頼もあるのではないだろうか。
ナチスというカルト集団の襲来
ナチス・ドイツが行ったユダヤ人迫害。
ヒトラーという「ユダヤ、スラブを欧州から追い払ってドイツ人の生存圏を拡大するっぴ!」とゲキヤバなカルト思想を持ったやつが軍隊を揃えてヨーロッパ中を暴れ回った。
ドイツに近い北欧諸国は、モロその影響を受けた。
デンマーク・ノルウェーはナチスの支配下になった。
スウェーデンはデンマーク、ノルウェーのユダヤ人を保護した。
このときデンマークでレジスタンスとして活動していたのが、ノーマライゼーションの生みの親、バンク・ミケルセンである。
バンクはゲシュタポに捕らえられ、収容所生活を送った。
戦後生き延びて、行政官として働いていたころ、福祉施設の視察をしたときこう思う。
「ナチスの収容所と変わらんやんけ!」
ナチスの浄化政策はやはり人々の権利意識を向上させたと思う。
ユダヤ人というだけで、なぜ強制収容され
自由、財産、家族、そして命までも奪われなければならなかったのか?
この疑問はやがて、障害者というだけで、高齢というだけで、と広がっていく。
この権利意識の向上が、ナチスが暴れ回ったヨーロッパでは席巻した。
これも1つ北欧の福祉の充実を加速させることになった要因ではないだろうか。
バンクが捕えられていなかったら?ナチスが迫害を行なっていなかったら?ノーマライゼーションは生まれなかった可能性もあるのではないか。
以上、北欧が福祉国家の理由を考えてみた。
経済成長しつつ資本主義の欠点である格差の広がりを抑えている北欧の社会民主レジームは万能薬のように思える。
しかし、日本がこれを真似したとて上手くいかないだろう。
人口の規模も違えば、地理的にも極東の島国であり他国の影響を受けにくい。
そして歩んできた歴史があまりにも違うからだ。
日本は自国にあった独自の福祉レジームを持つべきだろう。
さらに、資本主義と社会保障の万能薬のような、北欧型社会民主レジームといえども資本主義の枠内の限界からは逃れられない。
徐々に格差は広がりつつあるし、移民問題もある。
各国の福祉は岐路に立っている。
これから福祉がどうなっていくか、見守っていきたい。
ps これだけの社会保障を重視する北欧はなぜアカに染まらなかったのか?という疑問が出てくる。これはまた機会があれば書いていきたい。