東海村原八さんを偲んで

※本来なら敬意を込めて東海村原八「先生」とお呼びしたいところなのですが、生前の原八さんはその謙虚なお人柄から先生と呼ばれることを拒み、模型塾生にも「さん」付けで呼ぶことを希望していましたので意向を反映し、あえて原八さんと呼ばせていただくことをご了承願います。

私は2009年に当時原八さんが主宰していたフィギュア製作を学ぶためのワークショップ「模型塾」の11期生として西日暮里時代に通わせていただいた者です。

当時フィギュア製作を学ぼうとした場合、選択肢としては数十万円もの高い学費を払ってアニメ系の専門学校に行くか、専門書を買って独学で作るくらいしかなかった(しかも本自体もリアル系の美術解剖学の本ばかりで、アニメ系フィギュアに特化した本は「かわいい女の子フィギュアを作ろう」くらいしか出ていなかった)中、たまたま検索で見つけたのが模型塾でした。

模型塾は数ヶ月ごとに期で区切って、全12回ほどの基本コースを受講でき、授業料も一括払いではなく授業1回毎の都度払いで値段も数千円とリーズナブルだったので自分にとっては都合が良く、自宅から教室まで電車で約1時間でしたが受講することを決意しました。

原八さんは本当に穏やかな性格で誰に対しても等しく紳士的な態度で接し、受講生の腕前を下手だと非難することも機嫌が悪くなることも怒ったりすることも皆無の仏のような人でした。

一方で作業のお手本を実演しているときの鬼神の如き鋭い眼光が強烈に印象に残っています。職人の真髄を垣間見た気がしました。

今、原八さんと模型塾にまつわる数々の思い出と金言が鮮明に思い出されます。

原八さんと浅井真紀先生が出演した新宿ロフトプラスワンのトークイベント「オタク大賞R3」を夜に観に行ったこと。

原八さんが出場して準優勝を飾った「TVチャンピオン フィギュア王選手権」の録画DVDを塾生のみんなに貸してくれたこと。

ノリと勢いで模型塾の同期の方2名とワンフェスのディーラー参加に応募したはいいが製作が思いの外難航し、人生でもトップクラスの修羅場を味わい大変な思いをしたこと。

その参加した2010年のワンフェスが偶然にも開催25周年の節目の回だったため、イベント終了後に海洋堂の宮脇修一社長(当時)がディーラー参加者を招いて開催した立食パーティーに(場違いにも程があるが)参加できたこと。

模型塾でたまに開催される"ここだけの話"回で原八さんが受けた案件やギャラ、果ては年収まで明け透けに詳細に塾生に教えてくれたこと。

原八さんは造型だけでなくイラストも上手かったので、イラストレーターとしてもやっていけるんじゃないですか?と絶賛したら「原型師の方が稼げるしね(笑)」と照れ臭そうに笑ったこと。

当時原八さんは有害なポリパテをメインで使っていたので健康被害とか気になりませんか?と聞いたら「この仕事は体には悪いけど心には良いんですよ」と言っていたこと。

「上手くなるには自分のライバルを設定するといい」とアドバイスしてくれたこと。ちなみに原八さんのライバルは谷明先生だと言ってました。

知る人ぞ知る伝説の模型誌「S.M.H.」を当然のように知っていたこと。「漁師の角度」の竹谷隆之先生を「原型師をやるために生まれてきた人」と大絶賛していたこと。

フィギュア製作にZbrushや3Dプリンターを使うのが全く主流でなかった2009年に、飲み会の席で「これから先コンピューターで原型を作る時代が来たら原型師という職業はどうなってしまうのか」といったニュアンスの質問をしたら「そうなったら今やってること(アナログ作業)をPC上でやればいいだけ。やることは同じだから」と先見の明を覗かせていたこと。

原八さんの代表作「アッセンブルボーグ」の原型か何かを見せてくれたときに、どうしてこんなに複雑なものを作れるのかと聞いたら「子供の頃は誰もが模型を作っている。しかし成長するにつれて皆作るのを辞めていく。自分は辞めなかっただけ」と仰っていたこと。

私自身は現在フィギュア製作からは完全に離れ、全く別のジャンルで頑張っているのですが、原八さんが教えてくれた「続けること(辞めないこと)の大切さ」は模型塾で得た一番の薫陶として今も心に留めています。

私は全く大成しませんでしたが、全30期にも及ぶ模型塾出身の方の中にはディーラーとして独り立ちし、ハイレベルな作品を発表している方もいらっしゃいます。塾生に自らの技術と経験を惜しみなく伝え、後進のモデラーを輩出し、模型界の発展に貢献したという事実も原八さんの生み出した作品と並ぶ偉大な功績だと思います。

結局原八さんと会ったのは2010年の模型塾「ワンフェス反省会」が最後になってしまいました。原八さんの穏やかでわかりやすく、それでいてユーモラスなトークがもう二度と聞けないと思うと残念でなりません。

2014年からおよそ10年以上続いた闘病生活は想像を絶する過酷なものだったと思います。天国にいらっしゃる今は病を気にすることもなく思う存分造型を楽しんでいらっしゃることを願っております。

「先生」と呼ばれることを嫌がった原八さんでしたが、私にとっては紛れもない「恩師」です。

本当にありがとうございました。

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